しゃりばり 北海道 札幌 政治 経済 金融 教育 農業 介護保険 ボランティア まちづくり 地域貢献 極東 ロシア サハリン 防災 シンポジウ
検索内容の検索
HOME
HOME > 特集 > 9月号 特集2 十勝農業のイノベーションに取り組む−生産者と消費者の視点で(下)  
更新日:2008年8月19日(火)
特集

9月号 特集2 十勝農業のイノベーションに取り組む−生産者と消費者の視点で(下)  



鈴木善人 十勝農業イノベーションフォーラム代表・(株)リープス代表取締役

<全体構成>
<下>
(4)なぜ「十勝」なのか?
(5)具体的アクションとして「アース・カフェ on the Farm」の開催
(6)十勝農業イノベーションフォーラムの今後の活動

<下>

(4)なぜ「十勝」なのか?

 これまでの話の展開から、いきなり「十勝」という地名が出てきたが、これには訳があります。まず、我々がこのフォーラムを設立しようと盛り上がったのが十勝だからという手前勝手な理由が一番大きいのですが、十勝には起業家マインドを持った農業者が多くいます。そのような農業企業家と地元の経済人や大学の先生などが集まって農業について熱く語り合った経緯がありました。その集まりを我々はFBA (Farming Business Alliance )と称していました。

 もうひとつの理由は、十勝地域は26万ヘクタールの農地を有する日本最大の農業地帯であり、雄大な自然と美しい農村風景が日本農業の象徴的な場になり得ると考え、ここを起点として、農業の現場からイノベーションを起こそうじゃないかということになったのです。

 農業は持続的でなければなりません。実は、十勝農業イノベーションフォーラムを設立した目的はそこにもあります。それは農業の持続可能性に対する危惧です。
 食料増産を目的にした農業は、化学肥料に過度に依存する結果となり、地力、農地の生産性が失われつつあります。日本は食料自給率と同様、化学肥料の自給率も低く多くは海外からの輸入に依存しています。しかし、最近、中国やインドなどの新興国の食料を増産によって、化学肥料の需要が高まり、その価格が高騰しているのです。特に肥料の三大要素のひとつであるリン酸は化石資源であることから資源量も産出国も限られていて需要の急増と資源枯渇の懸念から、戦略的に輸出を制限しているといいます。
 化学肥料を使用することが前提となっている今の農業スタイルは、化学肥料の輸入がストップしたときに、持続性を維持することは難しいのではないでしょうか。

 一方で、十勝あたりの酪農地帯では家畜排せつ物の処理に苦慮している現状があります。家畜排せつ物の不適切な管理は、悪臭や水質汚染などの畜産公害を引き起こすまでになっています。
 しかし家畜排せつ物も堆肥化など適切な処理をして農地に還元することができます。堆肥などの有機物の一部は土壌中で腐植物質となって農地の生産性や土壌の機能性といった「地力」を増進することができます。もちろん、家畜排せつ物などには肥料成分も含まれているので合理的な利用をすれば化学肥料の代替にもなります。いや、本来、化学肥料が堆肥の代替であったのだから、もとに戻るだけの話なのです。

 持続可能な農業とは、生産量をなるべく減少させずに、エネルギーを含め、肥料や飼料などをなるべく自給することです。そして、地力を高め、作物や家畜が本来持つ能力と自然の持つ潜在的な力を引き出していく農法を確立していくことです。
 このように持続的農業をつきつめていけば、結局は有機農業に行き着くのだと思います。しかし、一足飛びに有機農業に取り組むのではなく、有機農業をゴールとして見定めて、こつこつと時間をかけながら持続可能な有機“的”農業を実践していくことが必要です。
 そのような農法で栽培された農産物あるいは畜産物は健全で、ストレスが少ないので病害にも強く、味もしっかりとしている本物であると思います。

 これを実現するためには、「食べる人」である消費者の理解と支持が不可欠です。農業を持続可能な産業として後世に伝えていく責務を生産者だけに押し付けるのではなく、多くの市民で担っていかなければならないと思います。農業は世代を超えた地域の公共財産と考えなければなりません。
 そしてネットワークを形成するにあたり、農業が持つさまざまな情報も含めた資源を「共有」するという感覚が重要だと思います。さらに言えば、「共有」だけでは、コトは起こりませんから、共有した人たちに「共鳴」してもらえる段階へと進めたいと考えています。その実践が次に報告するイベントです。

(5)具体的アクションとして「アース・カフェ on the Farm」の開催

 十勝農業イノベーションフォーラムが設立して、わずか4日後にフォーラムが主催する「アース・カフェ on the Farm」というイベントを上士幌町の十勝しんむら牧場で開催しました。準備不足の感はありましたが、土曜日にも関わらず30名の定員を上回る申し込みがありました。参加者は地元十勝地域の人ばかりではなく、札幌などから参加された方も多く、業種も職種も多様でした
 タイトルに“on the Farm" とあるように、このイベントは農業生産の現場で、市民や生産者の目線で農業を学び、感じようという趣旨です。

 最近、大学などが市民を対象としたサイエンス・カフェを開いています。アース・カフェはこれにヒントを得たものです。サイエンス・カフェについては日本学術会議および科学技術振興機構(JST)が、次のように説明しています。
 “サイエンスカフェとは、科学技術の分野で従来から行われている講演会、シンポジウムとは異なり、科学の専門家と一般の人々が、喫茶店など身近な場所でコーヒーを飲みながら、科学について気軽に語り合う場をつくろうという試みです。(中略)一般市民と科学者、研究者をつなぎ、科学の社会的な理解を深める新しいコミュニケーションの手法として、世界で注目されており、日本においても各地で新たな試みが始まっています。”

 アース・カフェもサイエンス・カフェと同じように、「一般市民と農業者をつなぎ、農業の社会的な理解を深める新しいコミュニケーションの手法」になると考え、企画しました。
 アース・カフェでは、「農から創造する次世代の Business, Culture & Happiness」というキャッチフレーズでその開催にはコミュニケーションの手段だけではなく、次のような目的を掲げています。
 “「アース・カフェ on the Farm」は、これまでの製造や流通が主体のアグリビジネスとは一線を画し、農業企業家が主体となったファーミング・ビジネスの新たな展開と、農業を企業化することで可能になる地域の経済やコミュニティの再生、自然と調和した持続可能な社会の形成を先導するアゴラ(広場)となることを目指しています。”
 
 1回目の開催場所となった十勝しんむら牧場は、「食べる人のための農業を実践し、次世代に継承しつづける企業」という経営理念をかかげ、土壌の持つ能力を高め、牛にできることは牛にやらせるとして、早くから放牧酪農を取り入れています。
 また、牧場で生産した生乳を使ってミルクジャムやクロテッドクリームなどの乳製品を牧場内で製造、販売し、牧場内には、「クリームテラス」という“牧場のショールーム”と位置づけた、ティー・ルームを設けて、消費者とのコミュニケーションを図っています。

 今回のアース・カフェでは、牛が放牧されている牧草地を歩き、実際に草を食べている牛をすぐ近くに見る牧場フォーキングというプログラムを設けました。牧場内を歩きながら新村社長の酪農経営に対する想いや牧草地の多様な生態系についての説明を受けるという企画です。そこでの話題をご紹介します。

 「放牧地内の牧草は一様に牛に食べられるのではなく、草の長いところや短いところがあります。草が長く残っているところは、牛にとっておいしい草ではありません。」
 参加者は実際に牧草を口にして、その味を確かめていました。
 「なぜ、牛が食べないのでしょうか、その理由は長い草の根元にあります。ちょっと草をかきわけて見てみてください。」
 参加者は草の根元に、牛のふんのあるのを見つけていました。
 「ふんはやがて昆虫に穴をあけられ、乾き、微生物によって分解されて土に還ります。そして草の栄養になるのです。牧場内ではさまざまなものが循環しているのですふんの臭いも分解されるとなくなります。今は長く伸びているこの草もやがては良い味になって牛に食べられます。」

 1時間ほどの牧場ウォーキングでしたが、参加者は興味深く牛や糞、土、草を観察し、新村社長の話に耳を傾けていました。そして、初夏のさわやかな牧場の風が参加者を癒していたようです。
 クリームテラスに戻ったら、新鮮な牛乳をつかった冷たいミルクティーとスコーンでアフタヌーン・ティーを楽しみ、リラックスした雰囲気の中、帯広畜産大学で土壌学を教えている谷昌幸准教授から、土壌の話を聞きました。

 谷准教授は十勝農業イノベーションフォーラムの設立発起人のひとりであり、持続可能な農業を研究しています。土壌の持つ機能性について参加者にわかりやすく解説してくれました。その話の一部をご紹介します。

 土壌の持つ機能は植物を生産する機能だけでなく、環境を浄化する機能、貯水、透水機能があります。土壌は地球の表面を構成する大気、水、岩石、そして生物の間の接触面となって、エネルギーや物質の流れをなめらかに循環する重要な役目あります。土壌の持つ緩衝機能が地球上の生命と環境を支えているのです。
 そして、持続的農業を実現するためには土壌炭素の有効な活用をすべきで、作物残渣や堆肥等の有機物を積極的に農地に還元し、土壌中の有機態炭素量を蓄積させることで、窒素やリン酸、ミネラル成分等の肥料成分の有効性を工場させ、農地外への流出を最小限に抑えるような有機的農業が重要であるとの考え方を示していました。

 アース・カフェ終了後のアンケートでは、現場での開催に意義があったとか、生産現場を知る機会を得て良かったという意見が寄せられ大好評でした。この結果に一安心していますが、これからは「共鳴」のさらに一段階上の人間同士の「共感」まで視野に入れたフォーラムにしたいと思っています。最後にそのプログラムを報告いたします。

(6)十勝農業イノベーションフォーラムの今後の活動

 十勝農業イノベーションフォーラムでは、今後も年に数回、農業の生産現場でアース・カフェを開催する予定です。
 趣旨に賛同する会員を無料で募って、ウェブサイトやメールマガジンを通じた情報提供や会員間の情報共有を図る他、会員によって運営されるワーキンググループでの勉強会を実施予定です。
 会員が企画するアース・カフェのようなイベントを応援したり、農業起業家や社会起業家の育成支援、農業をテーマとして民間企業への公益的ビジネスモデルや農業CSRの提案を行う予定となっています。
 
 当面、フォーラム運営の地盤固めをして、将来的には、もっと社会的に大きな効果をあげられるように組織をNPO化するなどしたいと考えています。
 本フォーラムを立ち上げるにあたっては、最初にも記しましたが、財団法人秋山記念生命科学振興財団から活動資金の提供をいただいています。このようなネットワーク形成にかける想いを後押ししていただいたことに深く感謝しています。

【十勝農業イノベーションフォーラムのウェブサイト】http://t-afi.net

≪おわり≫









一覧へ戻る







ROYCE' 「大人のショコラ時間」・・・ロイズのチョコレート。雪華亭 北海道が生んだ本格派かに料理専門店北のお魚.net 北海道の食材を生産者から直接お届け!
しゃりばりとは・・・
「しゃりばり」とは「CHARIVARI」。中世から19世紀までのヨーロッパで広汎に認められた民族的現象の一つです。「どんちゃん騒ぎ」「なべかまセレナータ」という訳語があてられています。私たちはこの北海道を舞台にCHARIVARIのごとく陽気に元気に、多様な考え、実践を通して、過去・現在・未来の北海道を熱い想いと冷静な判断で郷土の可能性と文化を読者の皆様とともに再構築していきたいと思います。
メルマガ登録はこちら(無料)
しゃりばり投稿募集
2008年1月号から「しゃりばり」の投稿欄を設けます。
2000字前後で「しゃりばり」へのご意見、ご感想などをお寄せ下さい。
掲載させていただいた際には、図書券(2千円)を進呈いたします。
詳細はこちら
HOME運営組織案内プライバシーポリシーメルマガ登録お問合せ旧サイト
ページ上へ
社団法人北海道総合研究調査会(略称:HIT)
〒060-0004 札幌市中央区北4条西6丁目毎日札幌会館3階
TEL 011-222-3669/FAX 011-222-4105