更新日:2008年7月17日(木)
特集
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■行政での「観光」振興についての経験を踏まえ、現在、大学院で学んでいる立場からの考察を披露する。 全体構成 <下> (4)交通機関の今と昔(低コスト大量輸送から旅行プロセスそのものへ) (5)観光産業の新しい位置づけ(価値創造産業へ) (6)アジアなどの外国人観光客を北海道に呼び込むには? (7)最後に〜北海道観光の発展のために何をすべきか <下> (4)交通機関の今と昔(低コスト大量輸送から旅行プロセスそのものへ) <航空路線による北海道観光の拡大> 観光や旅行において、交通機関は基礎的な要件です。国において、運輸行政部門(戦前は鉄道省、戦後は運輸省を経て現在国土交通省が所管)が観光を所管していることからも、交通機関は、観光に大きな影響を与えうることが分かります。 北海道の観光も、交通機関の発達や技術革新と密接に関係しています。本州から陸続きではないことも、交通機関の影響を受けやすい一因です。 北海道への旅行者は、1970年代後半に航空機による短時間での移動が可能な旅行が主流を占めるようになり、北海道への旅行者が爆発的に増加しました。そして、これに呼応する形で、観光施設やホテルなど各地の旅行インフラが整備されてきました。また、1990年代以降は、競争激化による航空運賃の低下が顕著となり、航空券と宿泊のみをセットにした旅行商品が急増します。 私はこれを勝手に「スケルトン・パッケージ(骨格セット)」と呼んでいますが、こうしたパッケージでは、東京発北海道着で、2泊3日で19,800円や24,800円といった信じられない価格帯が主流でした。こうした商品の販売増加により、本州から北海道への旅行者は増え続けました。しかし、2000年に入ってからは、航空会社の運賃ポリシーの変化により、航空券の価格が上昇に転じたこともあり、来道者自体が年間630万人前後で頭打ちの状態が続いています。 また、最近では、コスト削減のため、航空機の小型化が進んだ関係で、送客キャパシティが低下し、新千歳空港以外に発着する航空路線による道外からの旅行は成り立ちにくくなっていると指摘されています。 <ヴィッツ族の台頭> 一方、道内を周遊するための交通手段は、かつてはバスや鉄道が主流でした。バスは効率的に団体客を輸送するのに適しており、また鉄道は定時での移動が可能という特長があります。しかし、近年は、乗用車によるものが急増しています。前述のスケルトン・パッケージに、レンタカーが付属した旅行商品が現在の首都圏から北海道への主流になっているのです。 レンタカー旅行の人気は、別名「ヴィッツ族(レンタカーのエコノミークラスの代表車種)」とも呼ばれ、特に夏季は、小型レンタカーによる2〜3人のグループ旅行者が道内各地で多く見られます。こうした現象は、カーナビの普及や旅行者の嗜好の多様化による観光対象地域の拡大といった要因によるものであると考えられます。最近では、「カーたび」を推進する組織として、自動車旅行推進機構が日本観光協会の中に設立されるなど、戦略的に自動車による旅行を活性化させようという動きも見られます。 <付加価値を高める動き> 一方、大型バスやJRは、自家用車やレンタカーによる旅行に対抗し、付加価値を高める様々な取り組みを始めています。 長距離バスでは、車内空間のアメニティ向上による競争力強化を進める傾向にあります。また、JRも地方路線で工夫を凝らしたアトラクションを活用した魅力づくりで成功している事例があります。たとえば、東北地方のJR五能線では、世界遺産である白神山地の周囲を走る路線ですが、JRと各停車駅の自治体の協力により、それぞれの地域が工夫を凝らして、乗客に対するサービスやアトラクションを展開して成功しています。また、北海道内では「ノロッコ号」に代表されるように、列車そのものが観光のアトラクションとしてアピールするという取り組みもなされています。 このように、交通機関は単なる移動手段ではなく、旅行プロセスそのものの一部として、旅行経験の重要な要素となってきており、旅行の付加価値の多様化が進む中、こうした傾向は続いていくものと思われます。 (5)観光産業の新しい位置づけ(価値創造産業へ) 観光は、「あご(飲食)、あし(運輸)、まくら(宿泊)」といわれるように、旅行地における旅行者の生活の一部です。また土産物など観光故に提供享受される商品やサービスもあります。これらは、直接的には旅行者に対してなされるサービスであり、観光産業はサービス産業として位置づけられ、こうした産業の振興や活性化が、観光振興の重要な目的とされてきました。 しかし、実はそうした直接的なサービス産業だけでなく、そのサービスが直接旅行者に施されるまでに、様々な産業セクターがかかわっており、これらの過程にある産業それぞれが、観光関連産業であるという考え方に変化しています。 たとえば、飲食の例が一番分かりやすいと思いますが、飲食には農漁業から食品加工、流通、飲食店などが一連にかかわっています。また、飲食店の店舗の建築やインテリア、そしてそのデザインといった分野も間接的には関係してきます。また、どのような飲食店を選択するかといった情報を得るためには、ガイドブックなどの出版物をはじめとする情報メディアも、旅行には深くかかわっています。 こうした、複雑に関係している産業によるサービスや商品も、旅行者という外部のフィルターからみた視点で、いかに魅力や価値のあるものとして感じてもらえるかどうかが、今後の地域や都市からみた観光の一つの課題です。すなわち、旅行者の多様な視点から自らの立ち位置を考え、付加価値を高めることができるかどうかが、観光産業の今後を決める大きな鍵になります。 とくに、北海道は食材の宝庫であり、ファームインやグリーンツーリズムのように農業が直接的に観光にかかわる場面も増えています。また、札幌市内の飲食店では、居酒屋でもフランス料理でも、○○産食材という地域名の冠のメニュー表示がずいぶん増えたような気がします。そうした農業の周辺産業への参入や地域食材のブランド化が、食材に対する付加価値を高め、北海道がそうした付加価値のある食材が堪能できる旅行地であることは、大きな強みとなると思われます。 6.アジアなどの外国人観光客を北海道に呼び込むには? 現在、北海道には台湾からの旅行客が一番多く訪れています(2006年度で、26.8万人、全体の外国人訪問客の45%:北海道経済部調べ)。ここ10年で約5倍に増えています。これは、台湾でメディアなどの影響もあり、北海道に対して憧れを抱く人たちが増え、北海道ブームが起きているからです。台湾にはない気候(夏は清涼、冬は雪と寒さ)や自然風土、景観が、欧州的なイメージで捉えられ、憧れの対象となっているといわれています。 しかし、こうしたブームが約10年たち、いまはリピーターの割合も増えています。最初の旅行は、団体でお決まりのコースで満足したかもしれませんが、2回目以降になると、様々な情報を入手し、それをもとに少数のグループで行くという傾向が出てきます。デパ地下やドラッグストアの盛況ぶりは、地元の者には本当に意外でしたが、そうした意外なところにリピーターの「ツボ」があることも事実です。 逆に言うと、受け入れる我々の側が気づかないところで、旅行地としての人気がなくなる可能性をはらんでいるということです。 こうした傾向に対処するためには、台湾人のニーズを分析しながら、さらに強く北海道のイメージを発信することとともに、いかにそれぞれの旅行者が満足できるような仕掛けを用意するかが重要になってきます。行政としても、文化や風土の特色を感じさせるイメージ発信とともに、通り一辺倒のパンフレットや案内表示などでの情報提供だけではなく、多様化した需要に対応することが必要です。在留外国人のネットワークなども活用した多様な情報提供やサービス開発の支援により、旅行者のニーズや受け入れ側の企業のインセンティブを掘り起こして、すそ野を広げるという取り組みを重視していくことが必要です。 外国人旅行者の誘致や受け入れは、ターゲットとする地域によって、やり方はずいぶん異なるため、それぞれにきめ細かい戦略が必要ですが、団体旅行から個人旅行への流れに的確に対応するかが共通の鍵であり、地域の文化や魅力をしっかりと認識し、効果的に発信することが重要です。 また、前述の「観光ビッグバン」では、中国や韓国、東南アジアなどが中心となると考えられ、そうした地域との対応が急がれますが、中国以外のBRICsの動きもいまから戦略に組み入れておくことが重要です。特に北海道が隣接しているロシアは経済成長も著しく、国際経済上も北海道は重要なポジションになる可能性がありますので、定期の航路、空路が充実すればビジネスも含めた旅行先として、北海道が大きく注目されるかもしれません。 7.最後に〜北海道観光の発展のために何をすべきか <北海道の持つポテンシャルをグローバルに認識すること> 北海道には、世界に誇る自然や農作物、文化がたくさん存在しています。これらは、間違いなくグローバルな競争力を持っていると思いますが、残念ながら、ほとんどの人たちはそれに気づいていません。または気づいている人たちにスポットがあたっていないのかもしれません。私自身、そうしたものを見極め、伝えていく能力を身につけているわけではありませんが、そんな私でも、埋もれた素材や取り組みがうまくアピールできていないという事例をいくつも見てきました。 いまの北海道に必要なのは、自分のグローバルポジションを認識することだと思います。そうすることで、地域が何をすべきか、その戦略と道筋をうまく描いていくことが可能になると思います。そして、少なくとも観光に携わる人間が、その価値をしっかりと理解できるスキルを身につけ、誇りを持って世界のマーケットに押し出すことです。 <地域に求められるプロデュース力> こうした一連の取り組みには、様々なノウハウと人的なネットワークが不可欠です。また、グローバルな動向や潮流を見逃さず、自らのポジションを高めていく視点も重要です。地域や都市と旅行市場を結ぶためには、そうした高いスキルをもつプロデュース力が必要です。 それは、行政や業界団体だけの問題ではありません。北海道の各地域には、魅力的な素材に気づき、様々な取り組みを実践している方がたくさんいます。アンテナをはりめぐらせて、そうした素材や取り組みをうまくステージに乗せていく、鋭い嗅覚力と大胆な行動力そして世界観をもったプロデューサーの役割を行政や業界団体のスタッフが担っていくことが、北海道観光の行く末に大きく影響するのではないかと思います。 ちょうど洞爺湖サミットが開催され、「21世紀は環境、エネルギー、食料の三つのキーワードの整合性を、どう戦略的に取るのかが極めて重要」(寺島実郎氏・7月1日付け「北海道新聞」一面)と共通認識を確認したことと、北海道がもつ可能性について観光を通してもこの3点を追求することが時機に叶うように思います。 <都市の農村のライフスタイルや価値観の混交> 農村では日常的に食べている当たり前の農作物であっても、都市では意外な付加価値やブランド力がつくということは珍しくありません。たとえば、独創的な料理人によって調理され、洗練されたサービスで給されることで、地場ではありふれた食材だったものに新たな価値が生まれるということもあります。 また、スローフードやロハスという言葉がもてはやされていますが、これは大量生産・大量消費という従来の都市的価値観に対する批判と反省から生まれています。こうした都市住民のライフスタイルは、エコロジーといった概念も相まって、農村を志向する傾向にあります。 北海道は、都市と農村が程よく配置され、旅行過程でも双方にアクセスできる環境が大きな魅力です。都市の価値を農村に持ち込み、また農村の価値を都市に持ち込むこと、そうした価値観が混交することによって新たな魅力が創造される可能性があり、北海道がその先端として様々な分野でモデルとなることが可能ではないかと思います。 ≪おわり≫ |
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