更新日:2008年7月17日(木)
特集
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■行政での「観光」振興についての経験を踏まえ、現在、大学院で学んでいる立場からの考察を披露する。 全体構成 <上> (1)はじめに (2)旅行客の今昔(団体・パッケージ・見学から個人・カスタマイズ・体験へ) (3)観光行政と今と昔(イベント集客からマーケティングへ) <下> (4)交通機関の今と昔(低コスト大量輸送から旅行プロセスそのものへ) (5)観光産業の新しい位置づけ(価値創造産業へ) (6)アジアなどの外国人観光客を北海道に呼び込むには? (7)最後に〜北海道観光の発展のために何をすべきか <上> (1)はじめに 少子高齢化や経済成長の鈍化、都市や地域の衰退など、わが国を取り巻く社会経済状況は厳しいものがあります。 そうしたなか、2006年に観光立国推進基本法が成立し、2007年に観光立国推進基本計画が策定されるなど、国家戦略として観光を位置づけ、国や地域の競争力を高め、活性化していこうという動きが盛んになっています。 北海道大学に「観光学高等研究センター」が開設され、平成19年度から、国立大学法人でははじめてとなる観光を専門とする大学院、国際広報メディア・観光学院観光創造専攻課程が発足したのも、時代の要請でしょう。 私は、2002年から2006年まで、札幌市観光部において、誘致宣伝担当係長として国内外に札幌市や北海道をPRしていくという仕事に携わっておりました。この時期はちょうど、アジアからの観光客の潜在性が注目されはじめ、ビジットジャパンキャンペーンが発足するなか、地域間競争も激しくなり、地域がどのように戦略的に観光振興に取り組んでいくかが試されるという、観光をめぐる社会の流れの変化の時期でした。 こうした取り組みを研究という別の角度から、見つめなおしたいと考え、私は、第1期生としてこの大学院に入学し、社会人大学生として、これからの観光について勉強中です。今回は、実務上の経験や大学院での研究や議論を通じて、北海道や札幌市の観光について感じることなどを述べます。 (2)旅行客の今昔(団体・パッケージ・見学から個人・カスタマイズ・体験へ) <マス・ツーリズムの拡大> ここ10年ほどで、旅行客の行動スタイルはずいぶん変わってきました。 かつて、日本においては、社員旅行や修学旅行に代表されるような団体旅行が主流でした。団体で効率的に移動しながら、パッケージ化された旅行過程を経験していくというスタイルです。 これは、いわゆるマス・ツーリズムといわれる旅行形態の最も典型的なものですが、これは、19世紀のイギリスで生まれました。産業革命後のイギリスの労働者は、過酷な労働条件の下、飲酒やギャンブルといった「不健全」な余暇活動から脱却し、「健全」な余暇活動のひとつとして旅行が推奨され、トーマス・クック社(現在では、ヨーロッパ鉄道時刻表やトラベラーズチェックで有名)が、旅行の手配をすべて代行する「旅行代理業」をビジネスとして確立しました。 旅行の大衆化によって、より効率的かつ大量の旅行者を観光に駆り立てる仕組みが生まれ、日本においても、高度成長期において団体旅行が大変人気を博し、旅行者全体が右肩上がりで増えていく時代が続きました。結果、旅行会社の企画による旅行地への大量送客という形式がビジネスモデルとなり、旅行産業は大きな成長産業となりました。 この形態の旅行では、旅行客は、画一化された観光経験を追体験していくこととなります。旅行地におけるステレオタイプ的なイメージをある意味「消費」していくというものであり、旅行地としての地域が、そうした消費対象を提供し、旅行客は、観光対象として確立された名所旧跡や名物料理、イベントを効率よく体験するものでした。 一方、こうした団体旅行の増加により、ホテルなどの大型化や画一化、観光地のインフラ先行開発と疲弊化といった問題も同時におこってきました。 <個人旅行へのシフトと情報の多様性> 最近では、人々の価値観の多様化やインターネットをはじめとする情報の多様化などを背景に、旅行客の行動形態も変化しています。 すなわち個人旅行やグループ旅行が主流となり、旅行者の観光地での行動も多様となり、また、ビジネスや学会等のコンベンションの機会で旅行をしている方も増えています。 そうした中で、旅行客は旅行対象を消費するのではなく、自分の中に何かプラスになるものを探求しようとする動きもでています。その土地の風土や文化、自然に触れるというもので、体験やコミュニケーションを介し、その土地をもう少し深く知るというニーズが増加しています。たとえば、乗馬やラフティングといった自然・アドベンチャー体験やチーズ作りや農作業体験といったものが、旅行と結びついて新たな地域の魅力になってきています。 また、インターネットの普及、最近では特にブログを中心とした情報が旅行者の動きに影響を与えるようになりました。すなわち、旅行ガイドブックや行政からの画一的、一方的な情報だけに頼るのではなく、個人のレベルで発信されるビビッドでリアルタイムな情報をもとに、旅行者が自分の興味に応じて、多様な行動をするようになっているのでしょう。 <外国人観光客の爆発的増加> 外国人の旅行客もここ10年でずいぶん増加し、特に台湾や韓国、香港、中国などの東アジアからの旅行客の増加は目覚しいものがあります。 こうした海外からの旅行客は、まだ団体旅行が主流ですが、各国でのテレビや雑誌、ガイドブック、インターネットといったメディアの発展により、前述のような多様な旅行行動が広がりつつあります。 最近は大通や札幌駅の付近を歩いていても、デパ地下やドラッグストアなどにたくさんの東アジアの旅行客が買い物をしていることに皆さんもお気づきでしょう。また、言語や交通ルールの問題もありますが、レンタカーによる観光が外国人にも徐々に浸透しつつあり、個人客の興味や関心が大変旺盛です。 私が所属している大学院の専攻長、石森秀三教授は、1860年代から50年周期で起こる「観光革命」を提唱していますが、2010年代には、アジアを中心とした「第4次観光革命=観光ビッグバン」が起こり、アジア発の国外旅行者が爆発的に増加すると見ています。また、今後はBRICSといわれる21世紀の経済をけん引する国々からの旅行者も急増すると考えられ、グローバルな環境下で旅行者誘致の都市間競争、地域間競争が激しくなってくることが予想されます。 わが国では、「観光立国」を掲げ、2010年までに外国人旅行客を年間1000万人にする目標を立てていますが、世界の潮流はこれを飲み込むほど急激なペースで進んでいます。こうした現象をポジティブにとらえ、自らの都市経営、地域経営に生かしていけるかどうかが、その地域の成長や発展を大きく左右するといっても過言ではないと思います。ですから、北海道がその風土や文化、また諸外国との距離感といった地政学的な特性を生かした独自の戦略を持てるかどうかが、大きな課題です。 (3)観光行政と今と昔(イベント集客からマーケティングへ) <観光セクションの誕生> このような旅行客の形態やボリュームの変化は、観光行政のありようにも様々な影響を与えてきました。 高度成長期前まで行政の中で独立して観光行政を扱うセクションは少なかったのですが、団体旅行が増大してきた高度成長時代に「観光課」や「観光部」が主に経済関係セクションから分離、独立する形で誕生してきました。札幌市においても昭和40年代、ちょうど政令指定都市に移行する前後に本格的な観光セクションができました。 こうした観光セクションが行政にできた当初は、イベントの企画や運営が業務の大半を占めていたと聞きます。いわゆる「まつり」などに代表される集客イベントによって、いかに集客するかが、主な課題であったのです。 また、団体旅行が主流であり、旅行会社が主導的に送客をしていた関係から、旅行者の受け入れについては、ホテルやバス事業者などの企業が全面的に担い、行政の関わる部分は少なかったといえます。 <観光行政への期待の増大> しかし、旅行客の形態が変化し、またメディアも発達し、観光へのニーズが多岐多様になる中、行政の観光に対する役割も複雑になってきました。 現在も観光振興において、まつりやイベントの集客力は大きなインパクトを持っており、集客に結びつけるために魅力を発信していくことは大きな課題です。同時に、いかに地域や都市全体の魅力を効果的に旅行者になりうる人たちにアピールするか、地域の魅力を高めるためにどのような施策や体制が必要なのかといったことを強く意識するようになってきました。 そのため行政は、地域の中の企業や経営者、生産者、交通機関、住民などの各セクターと有機的に連携して魅力を創出し、また旅行客の市場にメディアや旅行会社を通じて効果的にPRを行い、実際の旅行客に満足感、充実感をもって旅行経験をしていただくという、一連のマーケティングによる戦略的な活動が必要になってきています。 たとえば、これは国家レベルですが、シンガポールは、あらゆる分野でアジアのハブになることを戦略としていますが、観光においても非常に緻密なマーケティング戦略のもとに、アジアのハブとなるべく、観光プロモーションを行っています。医療や教育関係セクターなど、従来では観光と関係が深くなかった分野とも積極的に観光セクションが連携のイニシアティブをとり、新たな魅力づくりを行うとともに、旅行者のエリア別に嗜好や旅行形態、旅行決定のプロセスなどを分析し、売り込み方を研究し、実践しています。 また、沖縄県では、平成11年度にマーケティング調査を行い、どのような層の観光者をターゲットとして、どのようなプロモーション戦略をとるかといった計画を策定しており、重点的なターゲットの設定とその人々を引き付ける施策について総合的に検討しています。地域レベルでこうしたマーケティング調査を行ったものとしては、先駆的であり、これが、現在の沖縄の観光が活性化している一因であるともいえます。 <ターゲットを意識した観光振興> 外国からの旅行客がある程度のボリュームをもつようになると、これに対応した観光地づくりを進めるとともに、さらに効果的に異文化の人たちへの効果的なPRをしていく必要があります。いわゆるインバウンド(外国人旅行者の誘致受入)の分野での積極的・戦略的な対応が求められます。 インバウンド振興は、旅行会社が先行的に誘致を手がけてきた分野ですが、姉妹都市提携などに見られるような都市間・地域間交流や地域や都市全体としてのイメージ発信やPR、ホスピタリティの向上を相互に関連させながら進めていく、そうしたコーディネートの役割が行政側においても重要になっています。 また、最近の観光振興では、会議やコンベンション、展示会といったビジネスに近い旅行客を重点的に誘致する取り組みが積極的に行われています。これは総合してMICE(Meeting, Incentive tour, Convention and Exhibition)と呼ばれ、都市観光において、はずせないキーワードです。これらは、それぞれ開催するために必要で十分な都市機能(いわゆる「ハコもの」のほか、関係するロジスティックサービスなど)の他、都市そのものに人々を引き付けるだけの魅力が不可欠です。いくら都市機能が充実していたとしても、参加者がその都市に行きたいという気持ちにならなければ、会議やコンベンションの開催は難しいものです。 このように都市や地域の魅力づくりが、観光振興の重要なポイントとなり、行政の果たす役割もこうしたところに重点化していく傾向にあります。 <魅力づくりから総合戦略へ> 前述のように、都市や地域は観光振興を通じて、旅行者対象のマーケティングが重要になってきました。都市や地域がいかに旅行者の嗜好やニーズに対応するのか、それによって旅行者側から地域に対する影響や相互作用を引き出せるかどうかも決まってきます。 すなわち、都市や地域が、自らの魅力をPRしながら、旅行者を招き入れる観光を通して地域をより魅力あるものにしていくという循環が行われること、すなわち、旅行客という外部との相互作用の重要性に着目することが、今後の観光行政のポイントになります。それにより、観光による都市や地域の活性化が、地域経営の目標となり、行政における観光セクションがこうした総合戦略を企画し実践する部門として重要となってきています。 観光を文明学の領域で考察する学問的立場がありますが、そのなかで「文明の磁力」という言葉が使われます。すなわち、その国や地域の文化、文明が人を引き付ける力を持ちうるかどうか――観光対象として魅力を持ちうるかどうかが、一つの尺度となるということです。都市や地域がいかに「磁力」を持つか、そのために何が必要なのかという原点から行政の体制も考えるべき時代です。 札幌市では、今まで、観光セクションは経済局に、文化セクションは市民局(現市民まちづくり局)の中にありましたが、平成16年度に観光文化局が創設されました。これは、札幌市の都市文化を観光にも有機的に連携させながら、市民が世界に誇れる魅力的な都市を目指すという上田市長の考えのもとに、札幌市の中で観光や文化の機能を高く位置づけていく戦略を実現しようとするものです。 北海道庁においても、観光のくにづくり推進局が創設され、従来複数セクションで実施されていた観光関係施策を統合していますし、国家レベルにおいても、観光関連施策を総合的に推進し、観光立国の実現に資するために、観光庁が今年10月に発足します。 このように、国家レベルにおいても、地方のレベルにおいても、観光やそれに関連する地域振興や魅力づくり、そして総合的なPRが重要であるとの認識が高まって、こうした組織強化が全国的な潮流になっています。 ただし、これはいってみれば「器」です。これに「魂」を入れ込むことが大変重要であり、一人ひとりの職員がしっかりとしたスキルと理念をもち、そして必要な予算と権限をもてるかどうかが、鍵となると思います。 |
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