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更新日:2008年7月16日(水)
卓見・愚見(投稿欄)

第10回 蒸留酒



中里準治 「寧楽共働学舎」ボランティア

 寧楽共働学舎の田植えや野菜畑の種まきや室内で育てておいた苗を植え替える作業を見たり手伝ったりしていると、農業というのは結構計画的に早め早めに手を打たないと収穫に穴が空く、というのが実感として分かるようになりました。 



小鹿のバンビちゃん。寧楽から15区qほどの道路沿いで。
ガソリン高騰対策は、中古ミニバイク。3万円也。


 都会では旬が失われて久しいですが、失った代わりに得ているのは連続的供給というヤツ。旬というのは断続的供給ということでもあって、ドジると育つまで作物が食べられないということでもあるのです。もっとも断続的供給も日本列島規模で見ると桜前線が北上するように、旬の前線も列島を縦走していくので集荷能力のある、つまり購買力の強い大都会では旬の断続的供給があたかも連続的供給の様を呈するということでしょうから、旬という断続的供給は地産地消という大切な食の行き方の上で支払う代償ということなんでしょう。旬の新鮮で美味しいものを食べたければ我慢というのがグッドライフと割り切るべしか。

 さて、今回のお題は蒸留酒。全くの下戸のへぼ釣師がお酒がらみのことを書くのは僭越至極であり、また身の程知らずの空論でしょうが、ちょっとお付き合い下さいな。

 早速登場するのはひがみ編。お酒を飲めないということは大げさかも知れませんが、人生の半分は損をしていると思わざるを得ません。
 例えば旅行。酒飲みは国内だろうが国外だろうが旅先で居酒屋へ堂々と気後れせずに入れますよね。バーでもいいんですが、だいたいそういうところには美味しい料理、いい音楽、楽しい雰囲気が充満しているはずですね。が、お酒を飲めないので入れない。沖縄の民謡酒場とかポルトガルのファド酒場とかは興味津々、是非入ってみたいものですが気後れして無理。また、その土地の地酒を楽しめること。世界中で一体何種類の地酒があるんでしょうか。万の単位? それとも百万の単位かな。それぞれに違う味わいがあって、生きているうちに何種類のお酒を味わったか、好奇心全開でギネスブックに挑戦したい気分です。が、とんでもないとこれまた、あきらめるしかありませんやね。

 例えば出会い。大分前の映画に「海峡」という、われらが健さんの映画がありました。吉永小百合様がワケありの小さな居酒屋の女将で、そこへ単身赴任の健さんが時々通うというシーンがありますが、これがコンチクショーと思うほどにいい場面。特に最後のシーンで見事津軽トンネルを掘り抜いて現場を去るという時に、公私にわたる長年の苦労で髪に白いものが混じってしまった健さんが小百合様に杯を返す。お互い無言・・・。ああ、おれだって酒が飲めたら!……と想像ならぬ大妄想を抱けるのもお酒が飲めるからこそ。ああ羨ましい。

 へぼ釣師は海洋冒険小説が大好きですが、小説の中に登場するお酒はどれもまさに名脇役。
 しかもイギリス製の小説が好みとなると、登場するお酒は蒸留酒となります。ラムとかウイスキー。で、冒険小説の名作「鷲は舞い降りた」で登場するのがブッシュミルズというアイリッシュウイスキーですが、副主人公のリーアム・デブリンというアイルランド人のテロリストがこれをご愛飲でして「これを一滴でも飲んだら、おれはそいつを撃つぞ」「嘘じゃない。これはみんなおれのものだ」とまで言う。またブッシュミルズでしこたま二日酔いになった後で「ワインは人をからかう程度だが、強い酒は荒れ狂う」などとおっしゃる。ウーロン茶やカルピスではこうはならない。マンガにもならない。当たり前ですが。

 飲めない人間が言うたわ言なんですが、世界最高のウイスキーはというと、実は地元北海道にあって、ニッカ余市工場の樽出しのシングルモルトがそれだと言いたいのです。飲めないけども味は分かると強弁させてもらいますが、ほんの一口、口に含むとまずとろっとした甘みを感じ、その後にふわーっと口の中全体にビートの苦い香りが広がり、次の瞬間息を吐いたら火がつきそうな熱風が口中を襲うといった感じ。
 
 マッカランとかいうスコッチのシングルモルトはニッカに比べれば青二才もいいところ、と言うのはあきらかに身びいきでしょうが、少なくとも劣っていない。全く劣っていない、と思います。

 さて、蒸留酒のこと。無知丸出しでナンですが、どうして蒸留しても香りや味が残っているのでしょうか、不思議でしかたありません。発酵させたままの醸造酒であれば、独特の香りや味があっても当然と思うけども、一旦蒸気にしてしまう蒸留で何でですの、と思うのです。
 しかしまあ、蒸留を人間の切磋琢磨のプロセスに例えれば、切磋琢磨するほどどんな人間もひたすら純粋無垢・無味無臭になっていくのはどう考えても面白くない。蒸留されたエッセンスが琥珀色になるのか深いルビー色になるのか、いずれにせよ見て心が魅せられる色があって欲しいし、味わえば唯一絶対の個性があって欲しいと思うのはへぼ釣師だけ?

 蒸留酒は前段に発酵というプロセスが必要ですよね。発酵することによってアルコールが生成されるからですが、発酵そのものは一言で言えば混沌(カオス)そのもの、あるいは猥雑で奔放な生命の躍動また躍動なんでしょうね。

 なにやら怪しげにブクブク泡が立ち、形が崩れかかった原料、そして灰汁が渾然一体となって発熱している。そしてこの発酵の後に聖なる炎に清められる蒸留というプロセスがある。そしてその後には熟成という静止の時がある。混沌があってこその純化であり、止まった時間があってこその成長ということなんですね。
 
 尊敬する開高師風に言えば、「この世の中には無駄というものは一切ない。一見無駄のように見えるが実はそうではない。そんなにあせってジタバタ・ドタバタしなさんな。一杯飲んで布団を頭から被って今日は寝てくれや!」という具合なんでしょう。

 とまあ、かように蒸留酒というはエライお酒なんですぜ。人生の進むべき道筋を身をもって示してくれているというか。それも本物の男の人生を。

 そこで世の中の酒飲みの諸氏にお願いいたしたい。ごくごくたまで結構なので、是非、本物の蒸留酒を飲んでいただきたいと。ニッカ余市のシングルモルトを飲んでいただきたいと。

 ブツブツと檄文ならぬ激文を書いてしまった悪酔い? 状態から醒め、わが身を振り返ると、へぼ釣師、いい年になってもまだ混沌の真っ只中という疑いがあちこちの行状記録の引き出しから出てくるではないですか。良くて発酵中、悪くて発酵失敗でただ腐っているだけの可能性も大いにあり。これはまずいということで、こういう足踏み状態を大器晩成中なのだとひたすら信じ、遅ればせながらも日々精進、なんとか発酵を進めて聖なる炎さまに出合わせていただき、蒸留のチャンスを是非授けていただきたいと、日々これ祈るばかり。がしかし肝心のマイゴッドとは喧嘩の最中だし……。Can you help me?




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