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更新日:2008年7月16日(水)
特集

8月号 特集1 北海道観光における2010年問題(上)



山崎美幸(ミユキコンサルタント事務所代表・観光さっぽろシニア会事務局長)

プロフィール:1941年、北海道浦河町に生まれる。62年全日空入社。以後、東京、大阪、九州などを全国十数か所に勤務。89年、全日空トラベル創業に関わり常務取締役を歴任。97年、北海道にUターン。現在、ミユキコンサルタント事務所代表、今夏、設立した旅行会社OBの任意団体役員。

■北海道の観光業界は、洞爺湖サミットという国を挙げての大きな会議の余波を受けて大変な減収を強いられているところも少なくない。しかし、2010年に予定されている北海道観光を取り巻く地殻変動の規模は、サミットの比ではないと予告する道産子がピンチをチャンスに変える処方箋を示す。

<全体構成>

<上>
(1) 首都圏に500万人の旅行客が生まれる2010年
(2)日本の空港が「明治維新」を迎える2010年
(3)2010年の上海万博と台湾と北海道
(4)旅行業界の戦国時代に勝てる北海道の「湖沼」と「農業」
<下>
(5)地道で、自信をもった観光戦略
(6)富士山静岡空港、2009年開港
(7)そして、洞爺湖サミット後の北海道観光

<上>
(1)首都圏に500万人の旅行客が生まれる2010年

 最初に自己紹介をいたします。私は、北海道日高の浦河町で生まれました。浦河高校を卒業して、当時、日本航空が特級酒なら全日空は合成酒と言われていた時代に全日空に入りました。約35年近く航空会社に勤めて、全国を1周半、転勤したおかげで、全国の土地土地によって人々のもっている気質の違いなども勉強させてもらいました。そして、定年のかなり前に北海道にUターンをしてきて以来10年が経ちました。主に旅行業に縁のある十数社の地場企業の顧問などを有料、無料のさまざまな形態で、北海道観光のお役に立てるならばと思い、いろいろな相談事も引き受けたり、ひとり観光客誘致に全国行脚を繰り返し今日にいたっています。

 そして、正直なところ最近は少々疲れてしまったのですが、2010年問題の大きさを思うと、そうも言っていられず、お声がかかれば講演などに出向いております。先月(5月)も九州に呼ばれて、一人気を吐いているホテルとその関係者の方々に間もなくやってくる2010年問題を話してきたところです。
 
 Uターンの目的でもありました北海道の活性化の一助になればと思い、貧者の一灯をかざしながら、いろいろな提案を民間企業にしてきましたが、今回の2010年問題ばかりは、北海道観光にとって最大の危機であり、最大のチャンスと思うところです。数字的には2010年は2年後のことですが、観光商品を作り出す当事者にとっては、準備期間を考えると実質的には1年もないような切迫感のある段階にあります。時間的にはカウントダウンが始まっています。それは、あたかもタイタニック号が氷山に突き進むようなイメージです。このことを一人でも多くの方々に知っていただきたいと思っています。

 その理由は次のようなことです。旅行会社はお客さんに向けた新商品発売の準備を1年前に始めます。次年度の商品作りを決め、その商品宣伝のためのいろいろなパンフレット作成や、マスコミ向けの宣伝戦略も準備します。ですから、2010年の対策は2年後ではなく、旅行会社が準備を始めるその前に地域として提案するには1年以上前倒しで考えなければなりません。ビジネスでノンビリしていて良いものは、御伽噺や昔話を別とすれば、現実社会では見たことがありません。

 さて本題です。最初に「2010年問題」とは何なの? という方もいらっしゃると思います。北海道は、基本的に情報僻地になっていますから、この話に聞き耳を立てられる方も皆無と言っていいほどですから、本稿を読まれる方にとっても初耳かもしれません。
 これは2010年春に成田空港の滑走路が2500mに延伸して、ジャンボ機就航が可能になることから観光客の流れが、今までと比較にならない規模で変わる可能性があることを指しています。成田のほかに羽田空港の第4滑走路の供用開始も2010年秋なのです。これによって、いくつかの段階を経て国内の近距離国際線などは一日約400便が増便となっていきます。

(2)日本の空港が明治維新を迎える2010年

 この2つの滑走路拡充によって日本乗り入れを待たされていた世界の航空会社が、参入してきます。今までのように「成田空港は手狭で一杯です」、「羽田空港は国内線で一杯です」と30年間の長期にわたり言い続けてきていたことが通用しなくなるのです。これまでは、どうしても日本国との路線を持ちたい新規の航空会社には、関西空港か中部空港を使うようにお願いをしてきたのです。ところが2010年にいよいよ外国の航空会社による東京乗り入れが実現して、首都東京の空港の鎖国政策も2年後、終わりを告げます。

 この変化の規模は、私は日本が江戸時代から明治時代への転換にも似た大規模な環境変化だろうと思っています。それは私一人の思い込みではなく、2010年について日本の旅行会社の関係者が、業界誌などで警告と自分たちの動きについて発言をしていることでも裏付けられます。

 「(株)ジェイティービー」の伊藤常務は次のように言っています。「1970年、日本に初めてジャンボ旅客機が飛来し、1978年には成田空港が開港。1970年代に日本の空は大きく変わった。その変化に匹敵する大変化が、向こう2〜3年の間に起こる」。
 このことの数字変化をノースウエスト航空会社の日本地区営業本部長は、より具体的に「成田空港は2本目の並行滑走路の供用開始により発着枠が20万回から22万回へ1割増しとなる。2万回の発着枠増加により、出発ベースでは1万便の便数増加の余地が生まれ」と発言しています。また、昔の仕事仲間であったANAセールス(株)の北林会長は「羽田空港については増加する11万回のうち、最初に開放される枠は5万回分。うち国際線が3万回と聞いている」といった具合です。

 さらに最初に登場した伊藤常務が「成田空港で2万回、羽田空港で3万回、合計5万回の発着枠の増加により、出発ベースで国際線は2万5,000便分が増える。1フライトあたりの座席数を200席と仮定すれば、首都圏だけで500万人分の航空座席供給力が増すことになる」と数字をはじいています。

 以上が、空港の拡張にともなう業界の試算です。この500万人の旅行客は、どこに向かうのでしょうか? 首都圏に着いた次の目的地に北海道を選ぶのでしょうか? 来ていただけるような売り込みを北海道は必死になって取り組んでいるのでしょうか? 全国の観光地が新しくできた、できる空港と一緒になって集客のために活発に動いています。そこで、北海道はどれだけのことをしていますか? と自らに問いかけてもらいたいのです。

 私が知っている大阪の旅行会社は、ドバイを拠点に世界の67都市(日本は大阪・名古屋)に就航しているエミレーツ航空とも提携して経営戦略を立てています。エミレーツ航空といえば、現在、エアバスA380−800型機という総2階建てで700人以上の搭乗ができる世界最大規模の機体を58機も発注していることでも有名ですが、1機300億円近くの大変な買い物のできる航空会社です。そのような世界の航空会社と日本の航空会社は競争をしなければならない環境にあることも知っておいてもらいたいところです。

 このほかにも北海道の観光産業を激変させかねない要因が2010年をめがけて並んで待っています。その一つは、インバウンド(訪日外国人旅行)が、2010年に1000万人を超える年になることです。この事実も北海道とどのように結びつけるのか、戦略性が求められています。

(3)2010年の上海万博と台湾と北海道

 もう一つは、台湾の政権交替の影響です。
 現在、北海道には台湾からの観光客が年間30万人がやってきています。有り難いことです。しかし、今度(2008年3月)の台湾の8年ぶりの政権交替によって誕生した馬英九(ば えいきゅう、マー・インチウ)総統の時代は、政策的に台湾人の中国本土への旅行を増やすことになると思います。少なくても、北海道観光に来る人を増やすことはないと見ています。
 台湾の人たちは、過去には政治的に中国に行くことの規制を受けていましたから、北海道にやってきていたと思うのですが、今回の政変で中国にも行きやすくなるのであれば北海道よりは中国に行こうとするのが心情的には当然ではないでしょうか? ですから、北海道は台湾観光客の大幅な減少を覚悟しておきたいところです。

 もう一つの2010年問題は上海万博です。半年にわたって開催される影響がどのような人流が出て来るのか。アジアを含めた世界の観光客がオリンピックに続いて中国に行くのか、隣とも言える日本にも来るのか、中でも北海道への関心をもっているのかどうか? 中国をめがけて世界から人々が大量にやってくるのは確かですが、北海道がそれらの観光客をキャッチできるのかどうか。これは大いなるピンチであると同時にチャンスでもあると思います。

 実はこの民族移動の時期をチャンスと見て虎視眈々と準備している旅行会社がいくつもあります。海外旅行をメインにするインター系、インハウス系、ファンド系と出自はさまざまですが、老舗的な旅行会社を追い落とす勢いで業績を伸ばしている会社が増えています。同時に日本の航空会社も外国の航空会社とのせめぎあいで、旅行代理店と袂を分かってでも独自の戦略を採る方向にあります。航空会社と旅行代理店の蜜月時代は、完全に終わろうとしています。

(4)旅行業界の戦国時代に勝てる北海道の「湖沼」と「農業」

 このように旅行業界の戦国時代とでもいうべき状況になってきていますが、北海道の観光施設業者はそうした危機感をどこまで持っているのか、心もとないのが実態だろうと思います。しかし、今から北海道の強み、他地域との差を世界に向けて発信することができれば、悲観するばかりでないことに気づきます。

 私は北海道の強みは「湖・沼」の存在にあると見ています。日本にやってきた外国人観光客に北海道の良さを売り込む具体的な景勝に「湖沼」の多さがあります。北海道の皆さんにとっては当り前すぎるのか、どうも話題に上ることも少ないのですが、まず、北海道の湖沼を上げてみます。
 サミット会場の「洞爺湖」、名曲の霧の「摩周湖」に始まって、サロマ湖、屈斜路湖、支笏湖、能取湖、風連湖、網走湖、クッチャロ湖、阿寒湖、濤沸湖とたくさんあります。
 これは、湖沼をもたない「岩手・宮城・山形・群馬・埼玉・東京・新潟・富山・石川・福井・山梨・長野・岐阜・愛知・三重・京都・大阪・兵庫・奈良・和歌山・岡山・広島・山口・徳島・香川・愛媛・高知・福岡・佐賀・長崎・熊本・大分・宮崎・沖縄」などからすれば、手も足も出ない宝の宝庫を北海道が持っていることになります。
 湖沼をもつ青森・秋田・福島・茨城・栃木・千葉・神奈川・静岡・滋賀・鳥取・島根・鹿児島も北海道ほどたくさんの湖沼をもっているわけではありません。

 つまり、北海道は、湖沼を観光の目玉にして急増するインバウンドにPRすべきだと思うのです。これは中国を含めたアジアの人たちだけではなく、世界の旅行客にも伝える価値のある北海道の魅力ではないでしょうか。
 湖沼のある周辺には当然のことながら、山菜ほか、湖沼に育つ魚介類、水生植物もあります。遠来のお客さんには地元で古くから伝わるそれらの食材を生かした郷土料理、家庭料理を振舞うことで十分に地域の味を堪能していただけます。

 いまさら、と言っては失礼ですが、北海道で湖沼という自然環境を背景にしてフランス料理だ、イタリア料理だと力説するのは、得策ではありません。チャレンジする価値はあるでしょうけれど、お客さんさんたちはそれを一番に望んでいるでしょうか? そのための料理人を抱えることも経営的な負担になるでしょうし、もっと自分たちのもっている資源を冷静に考えるべきです。つまり、お洒落な洋食は、都会に任せておいていいのであって、湖沼を抱える地方が後追いをする必要はないと考えます。湖沼のある周辺に残る郷土料理で十分ですし、それなら近在のおばあちゃんや主婦の人たちにも出番が出てきます。その時、北海道の魅力は霧の向こうから鮮明な姿を見せ始めると思います。









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