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更新日:2008年6月20日(金)
特集

7月号:特集1 「地方債」に対する信用格差(下) 



石井吉春 北海道大学公共政策大学院教授

<下>
( 9)元利償還に対する交付税措置の懸念
(10)地方財政計画と地方債発行の弛緩
(11)財源対策と財政錯覚
(12)財源が交付税から地方債に移行中
(13)地方債の信用格差が金利に出る

<下>

(9)元利償還に対する交付税措置の懸念

 地方債の元利償還に対し、基準財政需要額への算入を通じて、制度的に一定の交付税措置が認められてきました。この意義は、独自の税収が少ない団体についても必要な地方債発行ができるように、財政面の後押しをする支援策といった意味合いが強かったように思われます。
 しかしながら、バブル崩壊以降の景気対策を通じて、地方における公共投資を促進するスキームとして、地域総合整備事業に代表される地方単独事業に対する交付税措置が行われたこと、後述する地方財政計画の財源対策において、その一部を各団体が発行する地方債により手当てし、その際に高率の交付税措置を約束したことなどによって、スキーム自体が大きく変質した状況にあります。

 すなわち、地方交付税の補助金化が進み、地方債に対する財政規律が一層働きにくくなったこと、個別の財源措置が金額的に積み上がった結果、地方交付税全体の財源保障機能が適切に発揮しえない懸念が生じてきていることなど、地方債及び地方交付税の制度的な持続性に懸念が生じる事態を招いています。

 地方債の元利償還金の交付税措置は、
[1] 公債費方式による算入
[2] 事業費補正方式による算入
の2つの種類があります。前者は、基準財政需要額の単位費用の一つとして公債費を計上するもので、財源対策に係る特例債などが同方式で計上されています。また、後者は、主に補助事業などに用いられる方式で、事業費の単位費用を補正係数でかさ上げし元利償還金の一定割合を加算しています。

 実際の交付税措置の状況について、土居丈朗「地方債改革の経済学」(日経新聞出版社・2007)の実証分析によれば、景気対策に伴う地方債発行の増加に対応した交付税措置などを背景に、平成7年には元利償還の30%程度だったものが、平成16年度には50%程度まで増加しているとの指摘があります。この数字の分母には、不交付団体である東京都などの元利償還の金額も含むため、交付団体でみればより高い比率で措置されたことになります。今後も、財源対策として高率の交付税措置を認めた地方債の発行割合が急速に高まっており、将来的にさらに交付税措置額が増加していくものとみられます。

(10)地方財政計画と地方債発行の弛緩

 地方財政計画は、翌年度の地方公共団体の歳入歳出見込額を算定するもので、地方財政白書によれば、
[1] 地方交付税制度とのかかわりにおいて地方財源の保障を行う
[2] 地方財政と国家財政・国民経済などとの調整を行う
[3] 個々の地方公共団体の行財政運営の指針となる
といった役割を担うものとされています。

 バブル崩壊以降、減税による歳入減や景気対策などを背景とする歳出増によって、地方財政計画額(歳出額)が急拡大する中で、多額の財源不足が生じています。同計画額は平成10年度の95.0兆円をピークに減少していますが、財源不足額は平成15年度の△17.4兆円まで拡大した後にようやく減少に転じているものの、平成18年度でもなお△8.7兆円となっています。

 こうした中で、地方債が財源対策の主な役割を担うとされ、後述するとおり、後年度の交付税措置との組み合わせで多用され、地方債発行に関する規律づけは緩んできている状況です。その結果、地方債残高が急速に増加する一方で、債務者たる地方公共団体側の債務認識は必ずしも強くなく、ある種の財政錯覚が生じています。

(11)財源対策と財政錯覚

 財源不足については、
[1] 通常収支の不足の補てん
[2] 恒久的減税に伴う減収の補てん
[3] その他の減税に伴う減収の補てん
に整理され、それぞれの不足額に対処して行われてきました。

 こうした整理にこだわらず、大枠として財源対策を捉えて主要な対策は、
[1] 一般会計からの繰入などによる地方交付税の増額
[2] 交付税特別会計借入による交付税の増額
[3] 建設地方債と位置づけられる財源対策債の発行
[4] 特例地方債と位置づけられる臨時財政対策債の発行
などに区分されます。

 このうち、[1]に含まれる国の一般会計からの繰入、地方特例交付金、[2]に含まれる交付税特別会計借入金のうち国負担分などは、地方が直接負担すべきものとはなっていません。
 一方で、平成13年度から発行されている[4]の臨時財政対策債は、地方交付税の振替振替措置と位置づけられ、元利償還金額の全額が後年度の基準財政需要額に算入されることのほか、財源対策債なども元利償還額の50%が交付税措置されることになります。

 こうした措置は、足下の歳入確保という点からは、交付税の代替措置と言えるのかもしれませんが、将来の基準財政需要算入を個別に約束しても、交付税財源自体がその分だけ増加しなければ、先食いした分だけ将来の交付税総額が実質的に目減りすることになる点で、問題の後世代への先送りであることを認識する必要があります。
さらに、特別会計借入金のうち地方負担分(平成17年度末で33.5兆円)も、将来の交付税で償還するため、同様に将来の交付税を目減りさせる点も、留意する必要があります。

 手法別にみた財源対策の推移からは、当初は特別会計借入による交付税の増額、地方債の増額が中心でしたが、借り手が見えにくく財政錯覚に陥りやすい特別会計借入が増加する中、国と地方の分担関係を明確するために、平成13〜15年度で通常収支の不足の補てんに係る特別会計借入を縮減・廃止し、平成15年度には国は一般会計からの繰入、地方は臨時財政対策債に全額を移行させています。さらに、減税に伴う減収補てんも、順次縮減され、平成19年度には新規借入を廃止しています。
 なお、最近の対策額の減少は三位一体改革の影響が強く表れたたものと考えられ、地方歳出への削減圧力が強く働いた結果と言えます。

(12)財源が交付税から地方債に移行中

 次に財源対策による地方交付税と地方債の増減状況については、財源対策の主体が交付税から地方債に移行していることが見て取れます。三位一体改革の際にも強く意識されていますが、地方財政により強い規律づけをしていきたい国側の意向が滲んでいます。

 今後の推移については、不確実要素も多く、確たる見通しを持ちにくいのですが、
[1] 5年間一定の成長率を見込んだ法定率分を定常ベースとする
[2] 将来の交付税を減少させる要素のうち、交付税特別会計借入の地方負担分(33.5兆円)、臨時財政対策債(15.6兆円)について20年均等償還を見込む
[3] 新たな実質赤字地方債は発行しない
との仮定で交付税総額を試算したものとなります。

 その結果をみると、3%経済成長を見込んだ場合でも、平成17年度の17.8兆円(臨時財源対策債を含む)から14.0兆円(△21.5%)への減少が予想され、2%成長を見込んだ場合には、減少幅が△26.0%とさらに拡大する見込みとなります。変動要素をきわめて単純化して試算した数字ですが、将来の交付税を先食いした影響がいかに大きいかは容易に理解できます。 

 いずれにせよ、こうした財源見通しを前提にすれば、ミクロの財源保障が意味を失う可能性は高く、今後の本格的な高齢化が大都市圏で進展し、これまで比較的余裕があるとされてきた大都市の財政事情も厳しさを増すことが確実とみられ、地方債償還の財源調達は今後さらに厳しい局面を迎える可能性を孕んでいます。

(13)地方債の信用格差が金利に出る

 総務省の地方債に関する資料などによれば、地方債を支える仕組みとして、
[1] 課税権、地方財政計画への計上、元利償還金の地方交付税の算定のおける基準財政需要額への一部算入などによる、地方債の元利償還に要する財源の確保
[2] 協議制度においても維持された、一定以上の実質赤字を生じた団体などについての早期是正措置としての起債許可制度
[3] 財政の早期健全化や再生のための新たな法制度の整備
などが上げられています。
 こうした枠組みに加え、銀行などに対するBIS規制における地方債のリスクウェイトが、国債、政府保証債と同等の0%とされていることなどを踏まえ、地方債にいわゆる暗黙の政府保証が付与されているとの見方が依然支配的です。

 一方で、従来から公募団体に対する格付に明確な差異が存在してきたことに加え、「地方債に信用力格差は存在しない」というこれまでの総務省の主張が維持できなくなり、上述のとおり平成18年9月から公募債が個別条件交渉とされ金利差が生じてきていること、地方債を支えてきた地方交付税制度が制度疲労をきたしており、前項でみたように、持続性に強い懸念が生じていることなどからみて、市場を中心にすでに存在している地方債に対する信用格差が、今後さらに拡大していく可能性が強まっていると言えます。

 地方債の信用力向上を目指し、上述したように新たな再生法制が整備されていますが、法制化段階では議論が見送られた経緯にあるものの、検討途上で、再生手続きにおいて金融機関に債務調整を求めることなどについても踏み込んだ検討がなされています。
 このことは、地方債においてデフォルトを一切起こさない枠組みを維持する一方で、財政錯覚を起こさせず金融規律などを確立していくことは困難となっていることを意味しています。ですから、地方債については、さらなる制度変更を視野に入れざるを得ない局面に入っていることを明確に認識しておく必要があるでしょう。

≪おわり≫









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