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更新日:2008年6月19日(木)
特集

7月号:特集1 「地方債」に対する信用格差(上)



石井吉春 北海道大学公共政策大学院教授

■小誌の312号にも登場いただいた石井吉春教授に「地方債」を取り巻く“金融”の環境変化を最初は平易に、後半は現在の状況がいかなる背景をもっているのか詳しく語ってもらいました。

プロフィール:一橋大学商学部卒。1976年に北海道東北開発公庫(現・日本政策投資銀行)入庫。北海道支店に2度勤務。03年6月から四国支店長を務めた後に退職。05年4月から現職。
     
全体構成
<上>
( 1)財政を足し算・引き算レベルの金融で考えたい
<中>
( 2)そもそも「地方債の位置づけ」とは
( 3)その地方債の使われ方
( 4)たまりにたまった地方債の現在高
( 5)2年前に変わった地方債の許可制度
( 6)郵政民営化が直撃する地方債の引受
( 7)資金供給ルートは国から民間へ移行
( 8)地方債の発行条件も2極化へ
<下>
( 9)元利償還に対する交付税措置の懸念
(10)地方財政計画と地方債発行の弛緩
(11)財源対策と財政錯覚
(12)財源が交付税から地方債に移行中
(13)地方債の信用格差が金利に出る

 お話を始める前に、財政問題のいくつかの身近な事例を噛み砕いて最初にお伝えします。さらに詳しく知りたい方は、後半部分もお読み下さい。今年(2008)の論考(日本政策投資銀行四国支店長時代の関係から香川県の県債発行状況とその管理上の課題を論じた)の中から「地方債制度の概要」部分をベースに考察します。

<上>

(1)財政を足し算・引き算レベルの金融で考えたい

 財政問題の手詰まり感から言えば、困難度合いで国が一番苦しく、その次に都道府県、その次に市町村という序列になります。なぜかと言いますと、過疎債などが認められている町村は、制度的にそこに頼る逃げ道があるからです。地方の大都市にはそれがありません。多くの自治体は日々のキャッシュ・フローは出来ますが、税収をベースにして余剰で過去の債務を何年で返済できるのですか? という企業債務的な考えをとると、まともに返済できる自治体は少ないのです。

 余剰を出すためには、支出を少なくするか、税収を増やすしか方法はありません。それが各自治体で予算の削減、市民の負担増という動きを増している理由です。そのために合併特例債も当初の目的と違って逃げ場になることもありえます。これは財政補完的な使われ方で、総務省からすれば意図せざるものだったと思います。これが、先送り、危機意識の希薄化など財政錯覚の一因になることも予測されます。

 経済がインフレ基調になりますと、金利は明らかに上がります。経済成長と税収はほぼ同一歩調をとりますので、長期債券であっても金利が上がれば歯止めが無くなって大変なことになります。公債は長期的なファイナンスですが、これは金利が上がっていく過程で、誰かがその損失を引き受けることになります。負債の先送りは、問題を変形させて皺寄せをどこかに持込みます。これは負担の不平等ですし、その失敗例もあります。

 かつて住宅金融公庫が、赤字で大変でした。貸し手が金利の低下にともなって予定していた収入を失ったからです。借り手が金利変化を自分たちに有利なように繰上償還をしたため、貸し付けたものが10年に満たないで返ってきたりして貸し手の収入が消えたのです。これは、金利が下がった時の動きでしたが、この反対のことも起こるわけです。経済活動は合理的な動き方をしますので、この時は住宅金融公庫が金利変動リスクを背負い込んで経営に行き詰ったわけで、この逆も起こります。

 基本的にファイナンスは、金利上昇率が何十年も待ってくれることはなく、10年を基本ベースに5年前後での変動を織り込みながら影響を予測すべきです。ですから、地方債のこれからは、単純な足し算・引き算レベルで考えても比較的短期のうちに問題が顕在化すると思います。

 現代は投機資本主義とも言えるマネーの暴走が起こっています。このようなグローバル経済は、マネーは熱いところに集まり、冷えたところから引き上げます。これも頭に入れて地方債を考えますと、昔のような公共政策を採っている場合ではないのです。
 日本国民の自国への信用は、日本は潰れる訳がないという前提で成り立っています。不当なと言ってもいいような内外金利差に対して、一部に資金流失があるにしても圧倒的な資金は国内に留まっています。これは島国特有の鈍感のなせる技かもしれませんが、国民の資金が国債や地方債に流れている限りは、自治体は金繰りで行き詰ることにはならないでしょう。しかし、これは一種の寝ている状態ですから、いつか起きてしまったら、マネーの奔流が始まるかもしれません。その意味では今日の状態が、永遠とは言えないのです。

 今日の日本株の動きが海外投資家の動向によって左右されるのは、それだけ日本への信認が揺らいでいるからです。為替問題は、長期的には円高の要素がありますけれど、円高リスクばかりが意識されるのは、海外で稼いだものが日本に持ってくる際に目減りするから無理もありません。
 しかし、円がそんなに強い訳でもなく、対ドルで言えば一緒に弱くなってきているので変化が見え難いだけです。対ユーロでは、明確に円安になっています。この軸で世界と日本の関係を見るならば、投資環境は一変します。公債の議論は現実に立脚したところから始めるならば、お金の環境変化に合わせて、公債も大胆に取り組む時期です。

 このお金の環境変化は、総務省がいかに努力しても金融の論理を止めたり、覆したりすることの出来ないものです。これに抵抗すると結局は、後の調整コストを増大させることになり、この方向に踏み出すとお金を調達できない自治体が必ず出てくると思います。

 より具体的なケースを北海道の交通政策で考えますと、北海道の長期的な経済振興に役立つ交通政策を考えることが肝心です。例えば、北海道における高速道路と新幹線の関係も、北海道が島であることを認識するのでしたら、道内をいくら道路で結んでも津軽海峡を渡ることにはなりません。つまり、道路をいくら整備してもそれは道外に出ることにはならないのです。
 それに比べれば、新幹線は本州と繋がることになりますから力を発揮できます。しかし、北海道の交通インフラをどうするのか、という骨格の議論も提案も長期戦略もなしに道路だ、新幹線だと言っても誰も耳を貸しません。他に仕事がないから新規事業としての新幹線誘致だろうと思われておしまいです。これまで道路につぎ込んできた資金とこれからつぎ込む資金を考えるならば、この足し算・引き算は、そんなに難しい算数ではありません。

 もう一点、大きな金融のフレームで知っておきたいのは、政令都市レベルでも財政実情を正視したら、地方債を単独で出せるところは、それほど多くないことです。札幌市でも地方交付税の加減次第で収支がガラッと変わります。ということは、自立していると大きな声では言えない状態で、リスクそのものです。比較的自立度合いの高い、東京都や横浜市などのように独自に地方債を発行できるところとは、評価軸が決定的に違います。

 このように金融から物事や事業を見て判断することは、私企業に限らず自治体でも不可欠なことです。事業が継続するための最大のポイントは、将来の債務に対する見込みです。公的セクターだから、100年先まで借金を放っておいてもいい、ということにはなりません。これは金融的な常識です。公的セクターは別です、というのは、この原則から外れた非常識な話ですが、これを言いますと反対に非常識と言われかねない空気があるのが不思議なくらいです。

 以上、分かりやすく地方財政についてお話をしたつもりですが、この後は、今までの話を裏付けるような筋道の通った背景を詳しくお話をします。









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