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更新日:2008年6月19日(木)
卓見・愚見(投稿欄)

第9回 野の花



中里準治 「寧楽共働学舎」ボランティア

 なんだかまだ寒い日が続いています。夜もストーブを焚いていたりもします。でも、6月に入って日差しが一段と強くなりまして、さすがに屋外作業では汗が出てきます。
 先月末に春先の最大のイベントである田植えも無事終わり、今は野菜の定植や草刈が忙しいです。

 さて、この時期、といっても昨年9月に来たので初めての体験ですが、個人的には野花の写真撮影を大いに楽しんでいます。そうそう夕焼けも太陽にだんだん力がみなぎってきて夕空を赤く染めるようになりましたので、夕日の写真もぼちぼち撮らないといけません。
 で、写真にせよ花にせよ、実はここ2年ほどの間で関心を持つようになったものでして、それ以前はほとんど興味がありませんでした。まあ、同じ道や景色の中を行く時に、クルマでぱあっと通り過ぎて行くのか、のんびりとゆっくり歩いて行くのとは周りの見え方や見たものからのサムシングの受取り方、感じ方がまったく違うとでも言うのでしょうか。



自宅裏に咲いた紅一点
吉村昭の小説「羆嵐」現場前の風倒木


 クルマで高速走行すると見えている景色は、どこを走っても同じでひたすらに道路のセンターラインや先のカーブの様子だったりするようなもので、何故急ぐのかという理由も分からず、急ぐこと、手際よくやること自体に何か大切な意味があるような錯覚をしていたような気がします。

 「鷲は飛び立った」という冒険小説の中のある人物のセリフに「戦争はメリーゴランドに乗っているようなもので一旦乗ってしまえば誰もそこからは降りられない」とか何とか言ったものがありました。

 「戦争」を「会社」か「仕事」に置き換えれば、かつての私の精神状態はこんな調子だったかも知れません。もっとも「降りられない」のか「降りたくない」のか「降ろされたくない」のかは渾然一体となってしまっていてよく分かりませんけどね。

 花の写真を撮ろうと気に入った花に近づいて色んな角度から見ていると、直径がほんの1センチほどの小さな花でも実に精緻な美しさを持っていることが分かります。誰に見て欲しいのかなと思った時ふと星野道夫さんの写真を思い出しました。

 それはアラスカの荒野に咲く花の写真です。場所が場所だけに誰かがその花を見に来るわけではありません。誰かに見て欲しいわけではなく、時が来たら咲き、また枯れるということを何千年、何万年もただただ繰り返しているだけなのでしょう。

 寧楽の、そしてアラスカの野の花の写真を見ていると取るに足らない小さな野花にせよ、少なくとも踏み潰すことを躊躇させる存在の確かさを感じさせられます。

 その一方で、われわれは心のどこかに「他人に良く思われたい」、ひっくり返せば「本当の(善良な)自分を理解して欲しい」という願望、あるいは他人や他人の所有物を羨むというような感情を持っていますが、それらの願望や感情によって自らの存在を自らの手で危うくしてしまう脆さを思わないわけにはいきません。

 愚かさこそがわれわれ人間の存在の証だわさ、と開き直ることも出来るにせよ、存在を偉大な自然を構成する一部、あるいは、生きとし生けるものとすれば、小さな野の花と自分とでは大きな違いはない、むしろ同等である、と思った次第です。

 さて、寧楽へ移ってから撮影した写真は軽く5000枚を越えました。寧楽暮らし約7ヶ月ですから、だいたい月700枚のペースです。
 まあ、これだけ撮っていれば多少は腕は上がるというものでしょうが、そこがへぼ釣師、なんともはやの状況ですが、他人様のお撮りになった写真の良し悪し、好き嫌いはぱっと直感的に分かるようになりました。

 で、へぼ釣師は、ただただ美しく撮ったものや手練手管を弄した芸術家気取りのものはダメで、ぱっと写真を見た人の気持ちがすーっと優しくなるような写真が好きなんだ、ということが分かってきました。

 作例というのでしょうか、プロ、アマ問わずインターネットを見れば、無数と言っていいほどの多種多様な写真を見れ、とても勉強になりますが、やはり何と言っても星野道夫さんの写真集がへぼ釣師のお手本になっています。

 正確には永遠の目標であり夢の到達点ということですが、星野師の写真は何回見てもその都度、新しい感動と励まし、そしてまるでその場に居合わせているような臨場感と写った動物や植物、景色からの無言のメッセージを与えてくれます。すごいと思います。

 とまあ、こう書いてしまっては普通は載せる勇気がどこかへ飛んでいってしまうのが当たり前なんでしょうが、釣った魚は例え小魚だけと言えどもちゃんと報告するのがへぼ釣師の流儀でありますので、今回も例によって、進歩のない、つたない写真を掲載しちゃいます。なにとぞご寛容、ご笑納のほどを。




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