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更新日:2008年6月19日(木)
特集

7月号:特集3 これからの「コミュニティ」と「お金の流れ」 



秋山孝二 北海道コミュニティビジネス協議会代表

■昨年(2007年)9月にメリルリンチ日本証券が東京で開催した日本市場と国内外の投資家を結ぶ3日間のコンファレンス。投資対象になる日本市場・企業のこと、投資対象に“なりたい”自治体のことなどの一端が、この時に配布された冊子や各種資料から窺える。会場に足を運んだ「北海道コミュニティビジネス協議会」の秋山孝二代表に当日の様子、及び代表を務める協議会のことなどを語ってもらった。

プロフィール:1951年札幌生まれ。74年千葉大学卒業、同年東京都江戸川区立鹿本中学校理科教諭。79年(株)秋山愛生舘入社。92年同社代表取締役社長に就任、同年札幌証券取引所上場。94年(株)スズケンと資本・業務提携、96年東京証券取引所市場第2部上場、98年(株)スズケンと合併し、代表取締役副社長に就任。02年11月退任。03年8月秋山不動産有限会社代表取締役に就任、96年(財)秋山記念生命科学振興財団理事長に就任、現在に至る。
     
<全体構成>
(1)地方自治体が投資家に呼びかける時代
(2)投資してもらう、ということの意味
(3)安心できる生活圏を創るには
(4)時代の変わり目に遭遇する好機 

(1)地方自治体が投資家に呼びかける時代

■5月12日付け朝日新聞が一面トップに「地方有料道6割赤字」「交通量予測割れ76%」の大きな見出しをつけた記事のすぐ下に囲み記事で「地方債格付け競う」「海外投資家へPR」の見出しとともに格付けを取得した14自治体(東京都・静岡県・福岡県・横浜市・浜松市・京都市・神戸市・新潟県・岡山県・千葉市・名古屋市・大阪市・福岡市)が紹介されていました。残念ながら私たちの住む、北海道の文字はありませんでした。さらに道内の市もありません。
 
 バブルの崩壊後、国からの交付金も減少し、地方税の収入も伸び悩むご時世ですから、全国の自治体は、自前で事業推進のための資金調達をする動きをしています。その一つの象徴を昨年の外資系証券会社が主催するコンファレンスで見てきました。それは地方自治体が地方債発行を前提としたIR(Investor Relations:投資家向け広報)活動をしている姿でした。自分たちの地方債を買ってもらうためには、グローバルでの都市の魅力を発信し、きちんと利子をつけて返済できる能力がありますという信用を得るためと、少しでも有利な発行条件を獲得する目的が、この格付け取得にあるのでしょう。

 ほぼ1年前のことですが、会場で驚いたのは「東京都」「横浜市」の財政担当者が、自らの地域の優位性を投資家に強くアピールする姿でした。東京は別格という自治体関係者もいらっしゃいますが、それでも「東京都の財政状況と都債」という資料から感じるには、「国全体の中での東京都のシェア」として「面積」(0.6%)、「人口」(9.8%)、「都内総生産」(18.1%)、「就業者数」(13.9%)、「会社企業数」(16.5%)、「外国企業事業所数」(51.3%)、「商業年間販売額」(32.8%)、「情報サービス業売上高」(62.2%)と自己のもつ強みを訴える気構えです。これまではともすると、役所にある統計数字は、各部署に静かに眠っている状態、「寝たきり情報」だったのではないでしょうか。問い合わせがあれば答える、これが役所にとっての情報適時開示だったと思います。ところがここでは、基礎的データを縦横無尽に駆使して、活きた街の発信材料へと進化させている、言い換えると、情報加工により比較優位性を裏付ける情報価値を飛躍的に向上させている様子を、目の当たりにしました。

 また、外国人投資家向けを強く意識しているせいか、海外との比較もしてみせています。人口比較をすると、東京都がトップで次に北京、ソウル、モスクワ、ニューヨーク、ロンドン、シドニー、ベルリン、ローマ、パリと続きます。念の入ったことに「生産年齢」(15〜64歳)も出して、上位から韓国、チェコ、ロシア、中国、ポーランド、ウクライナ(ここで東京とほぼ同じ)、ルーマニア、タイ、カナダ、スペイン(中略)と続いて、24番目に日本が出てきます。つまり、日本の中にあっても極めて生産性の高い地域として東京が位置することを強調しています。GDPでも、都内総生産は韓国やオーストラリアを上回る規模にあること、一人あたりのGDPでも海外主要国と比べても高いことを示しています。もっとも東京を含めた日本全体で見ると、アメリカに首位を譲って、イギリス並です。現知事の気分を汲み取ってでしょうか、日本国内でも「俺は格が違うぜ」とでも言いたげな自己顕示ですが、それくらいでなければ海外投資家の耳目を集めるのは難しいのかもしれません。グローバル時代に、世界を相手にした一都市の心意気を感じました。

 一方、横浜市は都市経営戦略として、格付け「AA− ポジティブ」を前面に出して、その評価ポイントを「市の強い自主財源基盤と歳入の高い安定性」「債務水準は高いが、財政健全化へ向けた優れた財政規律」「財務残高が減少しはじめたこと」「中期計画で引き続き財政健全化が図られる見込みであること」の4点を強調しています。ここでは、横浜を含めた旧5大都市(大阪市・名古屋市・神戸市・京都市)と横浜を比較した財政指標を出しています。札幌市を比較対象としていないのは横浜のプライドなのでしょうか。地方分権改革一括法が平成22年頃に成立することを見込んで自立的な大都市経営を構想しているようです。具体的な財政改革の取り組みについても、グラフを多用して公募債(2,632億円)の購入を働きかけていました。

 これに対して出席者も遠慮がありません。各セッションの参加人数には大きな偏りがありましたし、テーマを選んで集まっていても、セッションが始まって内容の乏しい場合は、10分も経たずにどんどん途中退席していました。それは、日本市場からお金が逃げ出していく現実を目の前で見るようでした。

(2)投資してもらう、ということの意味

 2つの地域のことを詳しくお伝えしたのは、外部から資金を調達しようとする時には、自治体も株式会社もNPOも個人も、第三者に「ここには投資しよう」という気持ちになってもらう工夫が必要だということをお伝えしたかったからです。これは、私が関わっている北海道コミュニティビジネス協議会でも機会があるたびにお話をさせてもらっていることです。
 事業経営というのは、それが民間企業であれ公営企業であれ、持続可能なものであることが第一です。そのためには、信頼されるだけの質の高いサービスを提供する「枠組み」「仕組み」が構築されていなければなりません。さらに、さかのぼるならば、事業推進の原動力になる資金基盤を固めておく、即ち資金調達の選択肢を拡げておく、あるいは資金の提供を受けるだけのストーリーが現実的でかつ合理的に出来ていることも必要です。荒唐無稽ではダメです。
 私個人、民間セクターに25年近く身を置いてきて、経営者として札証・東証2部に上場を果たす経験もしてきました。事業への投資は直接リスクを負う方々のお金ですから、納得してもらえるだけの環境作りには、クリアすべきことが数多くあるものです。

 投資いただくためのストーリーを支える条件を挙げておきます。
 直接金融から資金調達するには、[1]事業の情報適時開示、[2]事業の継続性を担保する収益構造の透明化が不可欠です。これは、間接金融からの融資でも同様な経営的な基本作業です。言い換えますと、赤字会社や休業状態のような団体の場合では、弱者救済してくれる個人も金融機関もいないということです。例外的には、現在が赤字でもその会社なり経営者のもっている将来性のある技術、構想などに着目されるものがあれば、話は変わるかもしれません。しかし、ビジネスの合理性から言って、何かよほどの夢を託すことのできるものがある場合を除いては、赤字会社に支援の手が差し延べられることは難しいものです。

 もっとも前向きに考えれば、民間資金というのは、十分なストーリーがあれば動きます。場合によっては、それが配当のこともあるでしょう。先ほど紹介しました東京都、横浜市の例ですが、彼らは少なくても総務省の基準をクリアすることくらいでは、お金を集めることはできないことを熟知していました。財政再建の必要性は、赤字にならないためのものだけと受け止めては、問題を矮小化させてしまいます。行政が住民のために役立つ組織として健全であろうとすれば、そこには将来を見通した財政運用と事業運営上の展望と具体的プランが求められます。

 事業を動かすには「資金」が不可欠です。その資金も国の財政事情、産業構造の変化などによって、従来のような助成金、地方交付税などに頼った事業運営は困難になっているのは、ご承知の通りです。特に公共サービスの部門では、歴史的にも税金に依存してきた長い経験もありますから、この社会環境の変わり目を乗り越えるのは苦労が多いと思います。自分たちでサービスを作り出し、その受け手からフィーをいただきながら、適切な範囲での収益を上げる事業体になる、というのは「言うは易く行なうは難し」です。でもそれ以外に事業の継続も難しいのです。

 これは、横浜の担当者が口にしていたのですが、「国の税制が変更することを追い風にして、自分たちで起債して市場から資金調達をするプランを打ち出す」という自立心といいますか、地方分権の先取りといいますか、市場に乗り込むエネルギーは、昔の親方日の丸的なぬるま湯体質を払拭していました。カネの切れ目が改革のはじまり、とでも言うのでしょうか。都市間競争を明確に意識して、過去情報ではなく、将来をこうするのだ、という展望と強い意思表示が世界のアナリストに向けて行われているのです。
 「ああ、役所もここまで変わってきているんだなあ」と思いました。財政担当者が、民間企業並に社会のお金の流れを着目するようになってきていることを実感したものです。

(3)安心できる生活圏を創るには

 自分たちの生活を安心できるものにする公共サービスの部門は、全国でNPO活動などがすでに多様な取り組みを行っています。身近なところで、しかも現在進行形で見られます。行政の仕事も否応無く方向転換され始めているのです。北海道コミュニティビジネス協議会も、そうした流れの中で2年前に誕生しています。
 設立動機の一つは、行政としてコミュニティビジネス支援のいろいろな制度を用意していても、なかなか活用がうまくいっていない部分をお手伝いできればというものです。慢性的に資金不足を嘆く団体やグループに対していくらかでもアドバイスできれば何よりです。さらに言えば、行政の資金というのは税金のことですから、そうではなく民間の資金を取り入れることの道筋もつけたいという思いもあります。

 私たちの生活に「快適感を与える」企業には、一般的に世界を舞台に活動するグローバル企業が多いのですが、そうした企業は、活動の最優先が株主への配当とか時価総額の向上になります。企業経営として当然です。一方、私たちの日々の暮らしに「安心感を与える」のは、コミュニティビジネスだと思います。これは、非常にローカルな規模で一種の循環型の動きになります。
 どちらも私たちの生活を支える大事なものです。そして、どちらも収益を挙げながら事業を継続することでは一致します。ここのところを誤解する人たちが多いように思います。「民間企業は利益追求一辺倒でケシカラン!」とか、「非営利団体は利益を出してはいけない!」といった具合にです。そうした一面的なものの捉え方では、今日の時代に起きている社会変化を把握できないままに時代からズリ落ちていくように危惧しています。

 確かにコミュニティビジネスは出資者への配当が一番ということにはならないところに特色があります。それは出資した人たちの想いとも通じ合うものですが、収益は社会的に還元することが多いと思います。それでも適正な収益構造をつくっておかないと、活動が立ち行かなくなることは言うまでもありません。
 継続性のあるコミュニティビジネスにするためには、自分たちのもっている資源を洗い出す(棚卸)作業から始めることです。手持ちの資源を見つけ出して、ブラッシュ・アップすることで外に向けてアピールできるようになりますが、この作業は、規模の大小はあっても、質的には行政も個人経営者も同じだろうと思います。北海道でも札幌でも、どこの地域でもやろうと思えばできることです。
 私はコミュニティビジネスをしている方、しようとしている方から相談を受ける際には、次の4つのポイントを理解してもらうようにしています。
[1]地域で起業しようとする時に、無いものねだりはやめて、あるもの探しの発想で自立しよう。
[2]事業遂行に、一体どれくらいのコストがかかるのかという発想をもとう。
[3]リスク(危険度、失敗の大小とその確率)をあらかじめ読み込もう。
[4]お金をどうやって用意するのかの発想を持とう。
の4点です。
 この4つの視点から起業の構想を検証すれば、大企業では味わえないお互いの顔が見える中での収益事業にする楽しみの多い活動になる可能性を高めます。

(4)時代の変わり目に遭遇する好機

 駆け足で生活しやすいコミュニティを実現するために「お金の流れ」を把握することが大切です、とお話をさせてもらいました。
 民間企業はいち早く、バブル崩壊後、リストラを含めて生き残るために規模も体質も変化させてきています。遅れて行政も変化の兆しを見せています。社会が方向転換しはじめています。しかし、方向転換ができるのは、状態のいい時にしかできません。普通に考えてみればお分かりいただけると思いますが、危機のまっ只中にいる時は、避難するのに精一杯か、対処療法しか選択肢はないものです。そうならないためにも時代変化に対して「危機感」を持って早く手を打つことです。

 私がお会いする方々は、「危機感」もあり、志も高く、地域で小さな循環を行うビジネス展開に目を向ける非常にいいセンスの持ち主です。ですから事業に「お金の流れ」という鉄筋を入れて、強固でしかも美しい事業にしてもらいたいと思っています。ささやかながらもそうした方々を支援したいと思っています。

 北海道の人口、自然、人材などなど、世界にアピールできる客観的な要因はたくさんあると思っています。グローバルに都市なり地域が直結する時代です。札幌を例にするならば、世界に対してのネームバリューは優位性をもっているのですから、それを「お金」に転換していくだけの力と知恵を出す競争時代に入っていることを認識したいですね。そうすれば、地域の魅力も打ち出せるようになるでしょうし、お金を出す人の期待にも応えることができると思います。
 価値観の大きく変化する時代に出会えたことは、地域の可能性を高める好機だと思って自分たちの住む地域の足元にある資源を見直していきたいところです。









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