更新日:2008年5月19日(月)
特集
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(7) 北海道という枠組みの功罪 (8)「志」が取り持つ縁 (9)「志」のネットワークでイノベーション創出 (6)インターネット社会とNPO型アントレープレナー 先日の寺島先生の講演では、ITと金融に焦点を絞った事例を紹介されていました。本来、金融というのは経済活動の媒介者であるのが普通の姿でした。しかし、IT時代には金融が社会を主導して動かすようになって、サブプライムローン問題に象徴されるように世界経済を揺るがすことなっているというお話でした。 金融だけでなく、ITと、コミュニティや人間との新しい関係も見逃せません。インターネットには、コミュニティや人間のあり方、行動様式を良くも悪くも変えていく力があります。膨大な情報へ簡単にアクセスできるようにしてくれるインターネットが、人間の行動の様式を変えます。例えば、インターネットでは従来の消費行動と異なることから、企業もインターネットを使った場合のマーケティングを変えています。 また、インターネット自体がコミュニティを形成する場になり、従来の血縁、地縁、組織を中心とした社縁とは異なった知縁を生み出します。例えば、ゼミの学生の半数以上はmixiというソーシャル・ネットワーキング・サービス、SNSというインターネットを活用し、友人の輪を広げています。その輪はインターネット内でのコミュニティだけでなく、現実に会って新たなコミュニティを形成するかも知れません。 インターネットの世界は現実の世界とは異なった出会いを提供し、その新しい関係性の中で誰かが作ったものを皆で共有するという文化を持っています。この文化は悪い方向に向かうと匿名掲示板に見られる虐めの拡散のような悲劇を生みますが、良い方向に向かえば、例えば、Linuxの開発のようにインターネット内で、空間を超えた人のネットワークでイノベーションを創出します。こうしたインターネット文化が、未来を切り拓くものになるだろうと期待しています。IT、そしてインターネットを人間の幸せのために活用していくか、金融分野も含め、人間の知恵と善意が試されています。 ネットワークでイノベーションを創発し、社会を変革していく文化は、インターネットの世界にとどまらず、私たちの社会にも浸透しつつあります。例えば、NPO型のアントレープレナー、社会起業家たちのネットワークでは、どこかの団体で成功した事業事例を全国どこでも展開できるようにノウハウを提供しあっています。共通の目的のために、知恵と力を共有する。市場原理に基づく競争だけでない、協調や協働も重要な社会の原理になると考えます。 その北海道発の具体例に「ボラナビ」という日本初のボランティア・市民活動のフリー・ペーパーがあります。1998年に札幌で創刊した森田麻美子さんの活動が、名古屋で後続するものを誕生させ、森田さんは自らの活動で得たノウハウを名古屋の団体へ提供しています。ただし、ボラナビの事業は森田さんの大変な熱意がなければ継続することが難しく、ノウハウだけでなく、情熱や情熱を生み出す理念も重要です。情熱や理念は、教えられませんが。 (7)北海道という枠組みの功罪 北海道の場合、これだけいい自然資源がありながら、しかも人材を生みながら、大きな視野に基づく戦略を描くことができないでいる現状を感じます。その原因の一つに北海道で事業などの組み立てを考える際に「北海道」という枠、あるいは冠をつけてしまうために発想が限定されてしまいがちなことにあると考えます。つまり北海道の中で完結してしまうような構想が多いのではないでしょうか。 例えば先日の寺島先生のお話やご著書にある観光産業の視点に「日本を取り巻く人流の変化:アジア大移動の到来」があります。日本人の出国者は95年(1108万人)で対米が475万人、対中が87万人です。それが、06年(1754万人)には、対米で365万人、対中が377万人です。さらに、訪日外国人については、95年(335万人)で米国が54万人、中国が22万人。そして、06年には米国から81.7万人、中国から81.2万人となっています。まさにアジア大移動時代の到来です。 ここに着目するならば、例えば、北海道の観光についても首都圏や関西圏だけでなく、アジアを重視した戦略と、道内に多くある地方空港の活用ももっと考えていいと思います。つまり、息の長いプロジェクトになるでしょうけれど、アジアの主要都市と結ぶ国際航空路線を研究すべきです。行政の出してくる地域経営の長期ビジョンが首長の任期の4年を単位としたものになっていては、こうした長期構想も雲散霧消してしまいます。10年、20年、半世紀くらいの長期的な視座を持ちにくいのは、選挙制度の功罪相反するところですが、しっかりしたビジョンを行政と市民は協働で創り上げ、共有すべきでしょう。 世界の動き方と北海道の経営戦略が連動するようなものにするためにも、識者を呼び、何度も重ねた会議の議論に基づいた折角の構想が、有効打にならず空を切ることから卒業したいものです。その鍵の一つは、「志」で繋がるネットワークだと思います。ネットワークを構成するメンバーが個人、組織単位でその志を自律的に達成しようと動きながら、ネットワークという集団として大きな「志」の達成を追求するのです。 (8)「志」が取り持つ縁 北海道をこうしたい! という志で行政、産業、市民が繋がることで、地域再生は可能です。私がかかわっている活動に「北海道スポーツネットワーク」があります。北海道日本ハムファイターズ、コンサドーレ札幌の運営会社の北海道フットボールクラブ、レラカムイ北海道の運営会社ファンタジア・エンターテイメント、アマチュアの野球とアイスホッケーの諸団体が「北海道をスポーツで元気にしたい」という「志」の部分で緩やかに結びつき、各チームの応援と北海道への貢献を両立した活動をしています。それぞれのチームが志向しているベクトルは違うのですが、原点とも言うべき「志」では一致しています。 1998年に施行されたNPO活動に関する法律によって、3月末現在、全国で3万5千を超えるNPO法人が誕生していますことも、「志」で繋がる時代を象徴する動きだろうと思います。より良い社会や公共のために「志」で市民が繋がり、具体的な解決行動をしていく市民活動は、行政が財政等の問題で手詰まりの中、新たな公共形成にとって重要な役割を果たすでしょう。 「志」で繋がり、公共形成へ貢献していくのは市民活動だけに限りません。産業セクターの中からも地域社会とのかかわりに積極的な事業者も増えてきています。社会に対して責任を持つ、CSR(企業の社会的責任)経営が昨今、強く言われていますが、従前のように「社会的責任」を負うというやや受身的だったものから、より積極的な「社会的な信頼向上」を得て、積極的に「社会へ貢献していく」という方向で語られ出しています。 一例ですが、ある外資系企業は、積極的に女性社員を支援してきていましたが、最近では仕事や子育てのためのカウンセリングセンターまで用意して、社員でない市民にも開放しています。道内企業では、企業内保育園を地域にも解放しているところもあります。まさに「自社のためが世間のため」という公共の新しい姿が企業サイドからも出されてきているのです。 小泉政権の時に行政のリストラへの舵が切られたわけですが、もう従来のように公共を自治体が独占的に担う時代ではなくなってきています。また、少子高齢化から町内会等での住民活動も難しくなっています。その一方で、社会が成熟していくと地域の単なる生活者に留まらず、地域社会の担い手になろうという市民が増えていきます。市民たちが主役になって街づくりをするような行動を取り始めています。 こうした積極的な市民が、市民自治の推進者になってきます。そして行政セクター、産業セクターと共に地域社会を支えていくことになります。こうした新しい公共の姿が、今後10年単位でより鮮明になってくるのではないでしょうか。 切羽詰った状態からやむを得ずといった感は否めませんが、夕張市では市民の意識改革が急速に進んでいます。『限界自治 夕張検証』(梧桐書院・08年3月刊)にも書かれていますが、「南部コミュニティセンター」という市が運営していた地域の集会施設が廃止されることになりました。その集会施設は市民たちの自主管理によって再開されています。これも地域生活を支える「志」の一例です。こうした市民自治や、市民団体と行政との協働は今後の道内の地域経営のモデルにもなるでしょうし、夕張市に先進的な市民自治が根付く可能性だってあります。 (9)「志」のネットワークでイノベーションを 北海道庁の人たちとの仕事をしていますと、北海道民の気質についても議論が及ぶことがあります。 私自身、東京にいたころは規制産業である金融業界にいましたので、政府の動向を注意深く見ていなければなりませんでした。しかし、それは自分たちが生きていくために、いち早く情報へアクセスしようとするもので、行政に何かを期待しているという類いのものではありませんでした。北海道で感じる企業経営者の方々のお考えに、行政への期待が大きいのには驚きます。何かを行うにもしても公共事業や補助金を前提にしているところが、極めて北海道的なのかなと思います。 しかし、これからの時代は、夕張に象徴されるように行政に何かをしてもらえる時代でないことは確かです。たとえ、それがどんなに崇高な理念の基づいたボランティア活動であっても、行政からの助成金に依存した活動は、持続できないように思います。自らが資金を集めることのできる価値を提供することで、周囲も動き出すという流れが時代の趨勢です。そのための工夫に知恵を絞ることは不可欠だと思います。 私たち北海道民も地域の活性化に向けた取り組みについて、行政が主導し、地域づくりを行なってきた過去の成功体験から脱却し、行政から自立した民間事業者、市民が個々に、自律的にイノベーションを起こすことが必要です。また、個々のイノベーションでは現代の激しい環境変化に十分適応できないかも知れません。そこで、「志」で繋がる北海道内外のネットワークでイノベーションを起こすことも重要です。私もそのネットワークの一員として北海道へ貢献していく活動を取り続けたいと思うところです。 ≪おわり≫ |
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