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HOME > 卓見・愚見(投稿欄) > 第6回 早春、魚影もとめて
更新日:2008年3月12日(水)
卓見・愚見(投稿欄)

第6回 早春、魚影もとめて



中里準治 「寧楽共働学舎」ボランティア

 片田舎、寧楽での初めての越冬もそろそろ終りに近づいたように思われます。
 思われますというのは北海道生活20年の経験から言って、まあそうは言っても二荒れ三荒れはまだまだあるはず、油断めさるなということなんですけど。
 でも陽射しは確実に力強くなっているし、何よりも日がだんだん長くなってきて、夕方の5時でも明るいぜと心が浮き浮きしてきます。
 
 さて、ワタクシは何を隠そうかつてはルベシベ川の恐怖と言われた山釣師なのですぜ。へぼ釣師とも言いますが決して釣りという字を抜いた山師ではありません。
 



良質豚油使用の寧楽石鹸の試作品ラベル、デビュー近し。
小平から寧楽への今冬の道々126号線。


 しかしここ3年位は開店休業がずっと続いており、現場に立ってナンボの釣師稼業としては、とても釣師とは言えない実績ですが、今年からは稼業再開ということで、釣師と名乗るのをお許しください。  

 で、釣師には少なくとも2種類あり、一つは心底釣りが好きな釣師。
 もう一つは、本当に釣りが好きなのか、どうでもいいと思っているのか本人にも分からないという釣師。
 この手のお方は惰性で釣りに出かけるということはないにせよ、釣りという行為を自分の求めている何かの象徴として釣場に向かうというタイプ。よく言えば哲学派、悪く言えばへそ曲がり、ひねくれ者なのかも知れません。

 まあ、確実に言えることはへたくそ。雑念が多く、本気で魚だけに集中している本物釣師には勝てるはずがありませんやね。そして、もちろんワタクシは後者の方。つまりへたくそ。従って自分のことをへぼ釣師と呼んでおりますが、これは別に謙遜しているわけでは全くなく、淡々と事実を述べているだけでありますの。

 昔、開高健という作家がいましたが、彼は「河は眠らない」というアラスカでのキングサーモン釣りのビデオで戦場ルポライターから釣師に転向した理由を語っています。「決して当事者にはなれない取材という行為がいやになった。だから当事者たりえる釣りをしたくなった」ということなんだそうですが、この気持ちがへぼ釣師には実に良く分かるのです。

 ご存知のように、開高師は生きていたらノーベル文学賞間違いなしという偉大な小説家ですが、へぼ釣師の全くの主観で言うと、彼は小説家ではなく稀代のエッセイストではなかったのかと思うのです。
 こんなことを書くとあの世の開高師から頭をどつかれそうですが、彼の純文学作品はどれもこれも全く面白くない。ただただ心の深みに深みにと沈潜していくだけで、決して浮き上がってこないのです。
 
 ドイツ映画にUボートという戦争映画がありますが、幾多の困難・試練を見事に生き残ってやっと基地にたどり着いたその瞬間に英国機の奇襲空爆でみんな死んじゃうというお話。リアルなんだけど実に後味が悪いというか救いがなくて虚しいというか。で、彼の純文学はこの映画のような印象を受けるのです。

 一方、数百はあると思われる彼のエッセーは短文故の切れのよさの中に森羅万象派と自称した彼の面目が自由奔放に飛び跳ねており、どれもこれもものすごく面白いしためになる。そしてこれが「フィッシュオン」という第3作目かの釣りエッセーでは、釣りを通して人生を語るという方向になっていき、取材者という心のどこかに常に醒めた第三者の目をもっていなければならない知性の持つ胡散臭さ、欺瞞性、当事者たりえない後ろめたさからやっと自分を解放した喜び、身の軽さを読み手としても共に喜び、素直に華々しく展開される開高節に、いちいちお説ごもっともと納得。苦悩に磨かれた優れた知性でしか表せない洞察に支えられた一種の軽さを感じることができました。

 数ある遊びの中で彼がなぜ釣りを選んだのかということは知る由もありませんが、特に山釣りは端で見ているほどのんびりゆったりしているわけでは決してなく、常にいつかかるかかかるかと神経ピリピリの上、あと1回流したら別のポイントへ移動しようか、それとも、もう少しここで粘るか、おもりを代えてみるか、今日ぜんぜん釣れないのは天気が良すぎるせいなのか、などなど頭の中では思考の大嵐が吹き荒れているといった具合なのです。
 そして運良くかかった瞬間、大きいか、小さいか川岸のどこで釣り上げるか、どうやってそこまで持っていくか、川の流れの強さは、ラインは持つかなど、かかる前の疑心暗鬼の世界が瞬時に魚という野生動物との純粋な闘いの世界に切り替わるというスリルを味わうのです。で、この瞬時の切り替えというヤツがたまらない快感なのです。

 別のうがった言い方をすると、普段はダラダラゴロゴロしているけど、いざというときはちゃんとできるんだぞ、おれは、ということを実証する、自分の存在価値を証明する、誰に、カミサンに、と言うことでもあるのです。釣りはネ。

 さて、早春の釣りの楽しみは、開いたばかりの川の浅い流れの中に太陽の光にキラキラと反射している「ふきのとう」を見つけることです。そして、こいつをてんぷらにして食べること。柔らかでさくさくでほろ苦い「ふきのとう」のてんぷらは春そのものです。で、「ふきのとう」の後の楽しみはアイヌネギか。

 こいつは、焼肉と一緒に炒めるとか、バター炒めをするとかが美味いと言われていますが、釣師が食べて一番だったのは、釣りの連れがやってくれたワイルドな食べ方でした。魔法瓶に入れて持ってきたお湯をビニール袋に入れたアイヌネギに注ぎ、お湯を捨てて味噌で食べるというやつ。しゃきしゃきしてにんにくの香りがぷーんとしてといった具合。もう5,6年前の話になるけど、この時のアイヌネギの味は決して忘れられません。

 ところで、肝心のおさかなさんはというと、まださびが出ていて黒っぽいし、痩せてるしで、釣るには痛ましい感じがあり、ついつい腕がにぶるというもの。いやなに、アタリが小さいのでうまくフッキングできないだけさ、へたくそ!という声もあってですね、とまあ、ここいらがへぼ釣師ゆえということで。




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