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更新日:2008年2月18日(月)
北海道 食思譚

第12回(最終回) 過熱水蒸気を用いた食品加工



阿部 茂 北海道立食品加工研究センター 食品開発部

1. はじめに

 最近になって「過熱水蒸気」という言葉がテレビのコマーシャルでも聞かれるようになってきました。この「過熱水蒸気」とはいったいどのようなものなのでしょうか。
「水の炎」などと言われる場合もあるようです。

 過熱水蒸気は簡単に言うと、水を乾かすことのできる100℃以上の高温水蒸気のことです。「水で水を乾かす?」。混乱される方もいらっしゃるかもしれません。でも、この特徴が食品加工には様々な効果をもたらすことがわかってきました。ここでは過熱水蒸気の特性と食品加工に用いた場合の効果についてご紹介いたします。

2.過熱水蒸気とは?

 過熱水蒸気とは大気圧下で沸騰気化した飽和水蒸気に熱を加え、100℃より高い温度にした気体状態の乾き蒸気のことをいいます。食品の加熱に用いた場合には過熱水蒸気が水に戻る時に放出される熱(凝縮熱+顕熱:A区間の熱量)と表面乾燥後の過熱水蒸気の温度が下がる時に放出される熱(顕熱:B区間の熱量)を与えることにより加熱および乾燥を行うことができます。通常の水蒸気(飽和水蒸気)との違いは100℃以上の顕熱による加熱を行える点にあります(図1)。

 では、実際に過熱水蒸気で食品を加熱した場合はどのような現象が起こるかについて図2を用いて説明します。過熱水蒸気を用いる加熱では、その初期に過熱水蒸気の凝縮によって食品の表面に水分が付着し、表面温度が急激に上昇します(図2:C区間)。
 次いで食品の表面が100℃に達した時点で過熱水蒸気の100℃以上の顕熱により食品の表面の水分を蒸発乾燥させ、加熱することができます(図2:D区間)。
(編集部より:フォーマットの関係で図が不鮮明な点をお詫びします)



図1
図2


<拡大図はこちらをクリック>
図1 http://www.hit-charivari.com/etc/syoku1.JPG
図2 http://www.hit-charivari.com/etc/syoku2.JPG


 この段階の加熱は過熱水蒸気のガス気体による対流伝熱が主であり、過熱水蒸気の顕熱は空気の2倍であることから、加熱効率が極めて良いといえます。加えて水分子は非対称分子の立体構造を持つため、過熱水蒸気状態の水分子からは放射伝熱が考慮されることとなり、温度の上昇に従ってこの効果は顕著になります。
 ある一定温度で過熱水蒸気の加熱効率が高温空気を上回るのはこのためであり、この変換点のことを逆転点温度といいます。

 これらをまとめると、過熱水蒸気処理は加熱初期の凝縮した水蒸気による湿熱加熱と、表面乾燥後の乾き蒸気による乾熱加熱の2つの特徴を併せ持った加熱媒体であるといえます。

3.過熱水蒸気と食品加工

 食品加工では様々な加熱方法が用いられていますが、そのほとんどは湿熱加熱(蒸す方法や煮る方法)か乾熱加熱(熱風乾燥や遠赤外線のような加熱方法)に分けて使われており、加熱された食品はどちらかの加熱方法の特徴を濃く反映した品質となります。
 これは煮た魚と焼いた魚では、風味や外観が大きく異なっていることでも容易に理解できると思います。
 しかし、過熱水蒸気処理では上述したように、加熱初期は湿熱加熱であり、表面が乾燥した後では乾熱加熱に移行します。この一つの加熱処理の中で湿熱加熱と乾熱加熱を行うことができることが過熱水蒸気処理の最大の特徴なのです。ここでは過熱水蒸気の特徴的な効果について説明いたします。

a)エキス低減抑制効果

食品の中には生では流通できないものが数多くあります。これは生のままで保存すると自分の持つ酵素によって溶けてしまったり、変色してしまうことと、微生物の繁殖によって腐ってしまうためです。
 そのため、生鮮流通できない食材では加熱処理を行って殺菌や酵素失活を行った後に冷蔵または冷凍して保存します。この時の加熱にはブランチング(煮る)処理が用いられますが、食材によっては水溶性の栄養成分などの流出も起きてしまい、品質劣化が起きてしまいます。
 例えばホタテやバレイショなどを煮ると、うまみ成分のアミノ酸や糖分などが、20〜60%も煮汁に流出してしまいます。蒸した場合でもドリップがしたたり落ちるために、やはり同じくらいの栄養成分が失われてしまいます。

 一方、過熱水蒸気の場合は加熱初期は表面に水分が付着しますが、次第に表面が乾燥して加熱が行われるために、栄養成分の損失はほとんど起こりません。また、ホタテなどを煮た場合では加熱初期にタンパク質変性が起きるために急激に縮んでしまいますが、過熱水蒸気では温度や蒸気量などを制御することで、あまり縮まない条件で製造することも可能です。
 これらのことから、過熱水蒸気処理では煮るや蒸す方法と比較して、栄養成分が多く、ふっくらした状態で製品を作ることが可能となります。

b)色調改善効果と物性改善効果
  
 食品の色は食品の品質を評価する上で重要な要素であり、消費者は美味しそうな色をしている食材を選んで購入します。しかし、食品の色素は概して不安定であり、加熱工程で退色や変色が起きたり、ボイル工程中に色素が損失するため、鮮やかな色調を保持することは難しいと言われています。
 しかし、過熱水蒸気処理を行った加工食品は従来の加熱方法と比較して「色上がり」、「食感」が非常に良いといった評価が得られています。これらの現象は過熱水蒸気による表面組織の急激な乾燥収縮がその主要因と考えられています。

 「色上がり」については表面付近の水分含量が急激に減少するために、相対的に色素成分の濃縮が起こり、視覚的に色彩が濃くなっていると考えられています。また、「食感」については表面組織に乾燥した繊維の膜が形成されるために、噛む時に大きな力が必要となり、結果として「歯ごたえが良い」と感じていると考えられています。
 実際にアスパラガスで試験を行ってみたところ、ボイルしたアスパラガスは薄い緑色ですが、過熱水蒸気処理したアスパラガスは濃い緑色でシャキッとした食感であることがわかりました。

c)表面殺菌効果

 過熱水蒸気は100℃以上の高温水蒸気であり,100℃以下の湿熱処理としての効果とともに自らの熱量による乾燥効果を併せもつため、理論上ではレトルト処理に匹敵する高い表面殺菌効果が期待できます。
 実際の処理では食品内部は100℃以上にならないため完全殺菌は不可能ですが、過熱水蒸気の特性を利用することで食品内部の熱変性を最小限に抑制し、かつ食品表面の大幅な菌数低下が期待できるメリットがあります。
 加えて、過熱水蒸気処理後の食品表面は乾燥していることから、残存微生物の二次汚染も抑制できる効果もあります。

 加工食品にはカット野菜や水産珍味などの加熱処理が困難な製品が多数存在し、近年の衛生管理に対する関心の高まりや小売店や流通業界による自主規格の設定から製品の菌数制御に腐心している食品メーカーも多くなっています。そのため,過熱水蒸気による表面殺菌技術にも関心が高まっています。

4.おわりに

 過熱水蒸気には上記の効果の他にも、加熱時の酸化防止効果、脱臭効果、表面改質効果、冷凍耐性向上効果などがあることもわかってきています。また、これらの効果を実際の製品に応用した製品も発売され始めており、今後も過熱水蒸気を用いた加工食品が増えていくだろうと思います。

阿部 茂(あべ つとむ)
 小樽市出身 平成2年北海道大学水産学部水産化学科卒業、加工油脂会社を経て、平成6年北海道入庁、同年(財)十勝圏振興機構出向、平成9年食品加工研究センター、平成19年博士号(水産化学)取得、現在に至る。39才




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