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更新日:2008年2月7日(木)
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特集3 『FISノルディックスキー世界選手権札幌大会』から1年、今、振り返ると。 



角田貴美 前(財)2007年FISノルディックスキー世界選手権札幌大会組織委員会 広報マーケティング課長

すみた きよし:プロフィール 2004年6月から2007年10月まで、札幌市より(財)2007年FISノルディックスキー世界選手権札幌大会組織委員会へ派遣。現在は、市民まちづくり局企画部統計課長

◆昨年の2月、札幌を舞台にノルディックスキーの世界選手権が開催されたことは記憶に新しいが、大会組織委員会の仕事をされていた角田氏に競技周辺のことと北海道のスキー文化を考えてもらった。

全体構成
1. はじめに
2. スポーツビジネスと地域の活性化
3. 観客数が意味するもの
4. 文化としてのスキー
・ 道民のスキー離れ
・ 生活の中のスキー
・ スキーは「体」と「心」に良い
5.世界選手権が北海道に残したもの

1.はじめに

 ちょうど1年前、2007年2月22日から3月4日まで、FISノルディックスキー世界選手権が札幌で開催された。この大会には、世界49か国から、選手・役員1,047名が参加し、11日間の大会期間中、約10万人が世界のトップアスリートの熱い戦いを会場で観戦した。
 
 ノルディックスキーとは、“走る”クロスカントリー、“飛ぶ”スキージャンプ、そして、“走る+飛ぶ”ノルディックコンバインド(「複合」と言った方がわかり易いかもしれない)の3つの競技の総称。
 その世界一決定戦が、昨年、札幌で開催された。世界選手権は2年に1回開催され、47回目となった札幌大会は、アジアではじめての開催であった。大会の詳細は、大会報告書や報道などで既に報告されているので、ここでは、スポーツビジネスとスキー文化という視点から大会を振り返ってみたい。

2.スポーツビジネスと地域の活性化

 近年の国際スポーツ大会は、国際映像(テレビ放映)抜きに語ることはできない。サッカー、野球、ゴルフ、フォーミュラーワン、どのスポーツも国際大会は国際映像がないと成り立たないと言っても過言ではない。
 競技時間、会場レイアウトなど、大会運営の細部に亘って、国際映像の放映権を持つテレビ局とスポンサー権を獲得したオフィシャルスポンサーの要望に大きく左右される。オリンピックやサッカーのワールドカップなど、メジャーな国際大会では、数百億円、数千億円規模の放映権マネーが世界中を駆け巡ると言われている。

 したがって、オリンピックの競技時間は、莫大な放映権料を支払った大国のテレビ局の放映時間に合わせて決められるという話も聞く。今回のノルディック世界選手権も例外ではなかった(ただし、数百億が世界中を駆け巡ったという話はないが)。
 各競技の開始時間は、ノルディックスキーが絶大な人気を誇り、大口のオフィシャルスポンサーを抱える欧州各国のテレビ放映時間に合わせて、国際スキー連盟(FIS)とヨーロッパ放送連合(EBU)によって決められた。世界選手権史上初の屋内競技となった札幌ドームでのクロスカントリーや大倉山・宮の森両競技場でのスキージャンプなどは、日本と8時間の時差がある欧州各国で午前中に放映できるように夕方から夜間にかけてナイター照明の下で競技が行われた。

 また、会場での表彰式は、会場にいる観客に向けてではなく、テレビカメラの向こう側にいる視聴者に向けてセレモニーが進められ、選手の後ろ姿しか見られなかった観客から苦情が寄せられた。この苦情は当然であり、組織委員会としても会場にわざわざ足を運んでくれた観客と国際映像を観る視聴者との板ばさみとなり、苦渋の選択を迫れた格好となった。結果的には、会場内の大型スクリーンの映像を通じて観客に表彰式を観ていただくこととなった。

 大会を運営する組織委員会としては、せっかく世界選手権を札幌で開催するのだから、会場に足を運んでくれた観客の皆さんに最も満足していただきたいという思いは当然あった。他方、大会を運営するためには、放映権収入やスポンサー権収入に頼らざるを得ないのも事実であり、欧州のテレビ局やオフィシャルスポンサーの要望も尊重せざるを得なかった。

 今や、国際スポーツ大会がスポーツビジネスとして巨大なマーケットの上に成り立っていることを実感した。
 国際スポーツ大会がビジネスとして市民権を得ている現状を考えると、国際スポーツ大会を開催する地元自治体が、自分たちの裁量で、大会を通じて地域を活性化させ、スポーツ文化を地域で醸成、継承させていくことは容易ではない。国際スポーツ大会は、“ビジネス”と“公共財”という2つの要素を持つことをしっかり理解し、その2つの要素をバランスよく融合させていくことが、国際スポーツ大会を地方都市で成功させる鍵となることを、今回の世界選手権を通じて学ばせてもらった。

3.観客数が意味するもの

 11日間の大会期間中、約10万人が札幌ドーム、白旗山競技場、大倉山・宮の森の両ジャンプ競技場に足を運んでくれた。この数字が大きいか、小さいかと聞かれれば、「大きくもあり、小さくもある」と答えたいというのが正直な気持ちである。
 サッカーやフォーミュラーワンなどと並んでノルディックスキーの人気が高いドイツ、オーストリア、スウェーデン、ノルウェーなどの欧州各国でノルディックスキー世界選手権が開催されると、延べ30万人以上の観客が会場に足を運ぶ。

 事実、2005年に開催されたドイツ・オーベストドルフ大会では、連日、ジャンプ会場で2万人が、クロスカントリー会場で3万人が自国の選手への応援合戦を繰り広げ、12日間の会期中、延べ36万人の観衆が人口1万人の小さな町を埋め尽くした。それに比べると、確かに10万人という数字は小さいと言わざるを得ない。

 しかし、ノルディックスキーが国技であり、ノルディックのスター選手が国民的英雄としてVIP対応を受ける欧州の一部の国と単純に比較することはあまり意味がないかもしれない。逆に、日本におけるノルディックスキーを取り巻く近年の環境を考えると、10万人という数字は必ずしも小さい訳ではない。
 スポーツは、強さと人気が比例する。それは、トリノオリンピック以降のフィギュアスケートやリーグ優勝2連覇を成し遂げた北海道日本ハムファイターズの例を出すまでもない。“たら、れば”の話はしたくないが、日本のジャンプ陣に長野オリンピック当時の勢いがあれば、もっと多くの観客が会場に足を運んでくれたのかもしれない。

 ノルディック複合の日本チームが、リレハンメルオリンピックで金メダルをとった1990年代前半、白旗山競技場に1万人以上のノルディックスキーファンが集まったと聞く。
 競技環境が当時とは異なる中で、競技会場で10万人が、EBUによって世界に向けて配信されたテレビ映像の前で5億人が、札幌で行われた世界選手権を観戦してくれたことは大きな成果であったと言えるのではないか。
 もちろん、組織委員会として、チケット販売やプロモーションの手法に反省すべき点があったことも否めない。

4.文化としてのスキー

 今回の観客数を、欧州との比較や日本でのスキー人気という視点でのみ論じてしまうと、この数字に潜んでいる本質を見逃してしまうことになる。そこには、「スキー文化が、今、北海道でどういうポジションに置かれているのか?」という大きな命題が隠されているのではないか。

・道民のスキー離れ

 北海道運輸局の統計によると、北海道のスキー場における索道の平均輸送人員は、1993年を100とすると2006年は55と、ほぼ半減である。また、1993年に142あった道内のスキー場も2006年には111と、31ものスキー場が閉鎖に追い込まれた。
道民の多くが、スキーをしなくなっていることが数字に表れている。

 特に、子どもたちの場合は顕著である。学校のスキー授業も、学校週5日制が完全実施される以前の1999年には、札幌市内の9割の中学校で行われていたが、それが、2006年には3割まで減少している。中学校でスキー授業が減っている主な理由は、「体育時間数の減少(年間105時間から90時間に減少)」、「学級減に伴う体育教員の減少」、「保護者の経済的負担」の3つである。

 現行のカリキュラムでは、中学校でスキー授業をする余裕もなければ、指導する教員もいない。さらに、経済的な負担が大き過ぎて保護者の理解が得られにくいということであろう。確かに、スキーは決して安いスポーツではない。毎年、身長が伸びる子どもに合う用具やウェアを買い揃え、毎回のリフト代を負担するとなると、子どもをスキー授業に参加させるだけでも保護者の負担は大きくなる。

 こういった問題を解決し、スキー人口を拡大するために、札幌市、札幌スキー連盟、スキー場運営各社の三者が連携して、中学校のスキー授業支援事業を積極的に進めている。また、各スキー場でも、イベントを実施したり、チケットのバリエーションを増やして割安感を出すなど、様々なアイディアを駆使して集客に努力している。少なからずスキーに携わった者として、関係機関のこういった努力が実を結び、道民のスキー離れに歯止めがかかってほしいと切に願っている。

・生活の中のスキー

 私が小学生の頃、自宅から20分以上かけてミニスキーで美香保公園まで滑って行き、長靴の中に入った雪が溶けて足が霜焼けになるまでミニスキーで遊んだ記憶がある。また、スキー遠足の日は、スキーを履いたまま小学校まで通学した。
 中学生の頃は、毎週末、友人とバスでテイネオリンピアに行き、帰りは千尺高地から旧道を滑って国道近くまで滑って降りてきた。昭和40年代と今の札幌の交通量は比べ物にならないので、もちろん、今はそんなことはできない。ただ、あの頃は生活の中にいつもスキーがあった。

 私が以前住んでいた米国のボストンでは、年に数回、大雪が降る前日に大雪警報が発令される。警報が発令されると、市民はスーパーマーケットに押し駆け、雪に慣れている道産子の私にとっては過敏すぎるのではないかと思われるくらい、皆、大量の水や保存食を買い漁るのだが、翌朝になると、除雪されていない道路をクロスカントリースキーで楽しそうに通勤している市民をたくさん見た。

 これは、ロッキー山脈のリゾート地の光景ではなく、レッドソックスで有名になった都市圏人口500万人を擁するボストンの光景である。米国東部のメガロポリスの北端に位置する大都市にもかかわらず、この光景が街並みに溶け込んでいたのが不思議だった。なぜか自然なのである。
 カナダ東部の都市でも同じような光景を見たことがある。スキーが歴史的にも市民の生活に根付いている欧州はもとより、北米でも、冬の市民生活の中に常にスキーがあり、スキーが固有の文化として確立されている。

 米国では、市場メカニズムの下でスキー場の淘汰が進む一方で、スキー場の利用者は全体的に増加傾向にあり、2005年のスキー場利用者数が5,800万人と、過去最高を記録している(北海道運輸局の調べによる)。情報化社会の中で、通信技術の高度化とともにライフスタイルが極度に多様化している米国であってもスキー場の利用者が減少していないのは、スキーが固有の文化として市民生活の中で確固たる地位を築いており、「スキーを生活の中で楽しむ」というDNAが、時代の変化に惑わせられることなく次世代に受け継がれているからではないだろうか。

 翻って北海道はどうか。道産子の血に脈々と受け継がれてきた「スキーを生活の中で楽しむ」というDNAは、益々元気がなくなっているのではないか。
 以前、札幌に住む外国人が、「札幌でウインタースポーツを楽しむとしたら、わざわざ車で郊外まで出かけなければならない。でも、北米では日常生活の手の届く所に、あらゆるウインタースポーツを楽しむ環境がある。」と言っていたことを思い出した。
 これは、物理的な距離感だけではなく、道民の日常生活とスキーとの精神的な距離感にも当てはまるのではないか。この精神的な距離感が、ある一定の数値を超えたとき、われわれの生活からスキーが遊離し、北海道のスキーから「文化」という二文字が消えてしまうのであろう。このままでは、そう遠くない日にそれが現実のもになるかもしれない。危機感さえ感じる。

・スキーは「体」と「心」に良い

 世界選手権の会場で、連日、熱戦を繰り広げた世界のトップアスリートの姿を直接観た多くの子どもたちが、スキーに憧れ、スキーを身近なものに感じ、「自分もスキーをやってみたい」という気持ちを持ってくれたはずである。もちろん、スキーは子ども達だけのものではない。オーストラリアでは、スキー振興プログラムによって成人の健康づくりが進み、結果的に地方自治体の医療費負担が減少したとも聞く。

 北海道の高齢化は加速度的に進み、2030年には高齢化率(65歳以上が人口に占める割合)が30%を超えるとも言われている。スキーは、ほかのスポーツに比べて年齢に左右されづらいスポーツである。特に、クロスカントリースキーは手軽に楽しめるスポーツであり、高齢者の健康増進、予防医学の見地からも、超高齢化社会を間もなく迎える北海道で、もっと注目されても良いはずである。
 
 スキーは、「体」にも良く(病気をしない)、「心」にも良い(気持ちが良い)。だからこそ、日々の生活の中でもっと気軽に楽しんでほしい。

5.世界選手権が北海道に残したもの

 1972年の冬季オリンピック以来、35年振りに札幌で開催された本格的な国際スキー大会、「FISノルディックスキー世界選手権」。
 この大会が、多くの道民にとって、北海道におけるスキーの存在を再認識し、北海道のスキー文化を考えるきっかけとなったと信じている。スキーを道民の生活の中に取り戻し、北海道のスキー文化を守りたいと願うのは私ばかりではないであろう。









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