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更新日:2008年1月9日(水)
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特集2 膨張する道債残高とそれを許容した財政上の論理(下)齋藤一朗(小樽商科大学大学院商学研究科教授)



4.元利償還財源の交付税措置と道債残高膨張

 これまでみてきたように、近年の道財政は、準用財政再建団体の指定という当面の危機を回避すべく、実質収支(実質収支比率)の水準を睨みながら、道債の発行や基金の取り崩しといった各種の財源対策によってコントロールされてきたことが窺われる。
 しかしながら、財政運営指標として「制度化」されてきた実質収支は財政状態を的確には表現しておらず、これを過度に重視することは、却って行財政改革を遅れにも繋がる。すなわち、プライマリー・バランスの赤字が持続する中で、道債や基金を活用した財源対策を行えば行うほど、道の債務残高が膨らみ、今後取り組むべき財政再建の規模が拡大に向かうからだ。事実、1990年代以降の財政悪化に対して、道は財源対策を繰り返し行ってきた。

 しかし、それは、当面の危機を回避する上では一定の役割を果たしてきたが、それによって危機的な財政が健全化に向かうことはなく、むしろ道債残高の膨張から、財政危機をより一層深刻化させてきたともいえる。
 さらにいえば、こうした道債残高の膨張は、現行の地方財政制度によって助長されている側面もある。

 地方債の元利償還に対する交付税措置など、「暗黙の政府保証」の存在が地方自治体の財政規律を弛緩させ、結果として、地方財政の再建を先送りする方向に誘導してきたことは否定できない。なぜなら、財政再建制度の指標として実質収支比率を用いている現行制度の下では、財政再建を先送りすることが地方自治体にとって痛みの伴わない合理的な選択となるからである。そこで、以下では、道債残高の膨張を許したもうひとつの論理=元利償還の交付税措置についてみておこう。

 道が5兆5,300億円もの債務を負うに至った背景には、バブル経済崩壊後の景気低迷が続く中で、度重なる国の景気対策の一翼を、道が担ってきたことがある。
 1992年度以降、道は投資単独事業を公共事業(補助事業、直轄事業)に上積みする形で拡大してきた。とりわけ、北海道拓殖銀行の経営破綻を挟む1990年代の後半においては、国の公共事業が減少傾向を辿る中で、北海道経済を下支えすべく、投資単独事業は相対的に高い水準で推移してきた。

 こうした道主体の公共投資の財源調達手段として用いられてきたのが道債である。
 国は地方自治体が実施する事業の起債充当率の引き上げや事業費補正を操作することで、地方債を事業費に充当させるとともに、後年度における交付税措置により、元利償還の財源を地方自治体に対して手当てしてきた。これにより、道は国からの交付税措置を見据えながら、財源対策債をはじめ、景気後退による地方税減収分を補う減収補填債、減税による地方税減収分を埋め合わせる減税補填債、行財政改革の果実を先取りする形で起債する行政改革推進債(交付税措置なし。2005年度までは財政健全化債)と、地方債のメニューを使い分け、道債を新規に発行し続けてきた。

 さらに、2001年度からは、普通交付税の振替財源として臨時財政対策債を発行し、その資金使途は、従来の公共投資から経常的な経費の不足にまで及んでいる。このように、道債残高が膨張した背景には、道が国の景気対策に呼応して投資単独事業に取り組む一方、国が交付税措置を通して、道債による事業費の調達を制度的にサポートしてきたことがある。

 そもそも地方債は、それが金融的な負債である以上、発行体の財政基盤や元利償還能力を考慮して発行されるべきものである。
 しかし、わが国の地方自治体の財政力指数(基準財政収入額/基準財政需要額)と地方債比率(地方債残高/歳出額・普通会計ベース)の関係をみると、そこに明確な関係を見出すことはできない。言い換えるならば、地方自治体の財政力とはおよそ無関係に、地方債が発行されているのが実情である。
 例え財政基盤が脆弱な地方自治体であったとしても、これまで起債できたのは、地方交付税による償還財源の措置が、いわば「暗黙の政府保証」として機能してきたからである。

 発行主体である地方自治体の側においても、交付税措置が施されることで、地方債が自ら償還財源を手当てすべき債務であるという認識を希薄化させているように見受けられる。とりわけ、2001年度から発行されるようになった臨時財政対策債に関しては、恰も国の債務であるかのような表現が散見される。
 例えば、『北海道債の栞』では「平成18年度末における道債残高は、前年度から更に364億円増加し、5兆5,300億円となりましたが、その半分程度は後年度において交付税が措置されます」といった表現や、臨時財政対策債を除いたベースでの地方債依存度のグラフ表示に、そうした認識が現れている。

 だが、道など地方自治体の側が抱いている交付税措置の認識と、地方交付税の総額とその配分を決定する国の運用スタンスとの間にはズレがあり、必ずしも、自治体側の認識通りに財源が手当されているわけではない。すなわち、交付税措置とは、あくまでも元利償還金の一定割合を基準財政需要額に算入するということであり、実際に措置額に相当する額を交付税で増額することを意味するものではない。

 地方交付税の総額は、国が予算編成の一環として地方財政対策を取りまとめる際に決定されるのだが、その決定において、元利償還財源の交付税措置は直接的に勘案されるわけではない。
 元利償還財源の交付税措置は、地方交付税への配分額を決定する際に、基準財政需要額への算入を通して、いわば間接的に考慮されるに過ぎないのである。

 現に、「三位一体の改革」が推し進められる中で、交付税措置の有無とは無関係に、地方交付税の総額が縮減される方向にある。
 交付税の総額が縮減されれば、たとえ元利償還金の交付税措置が手厚く施されていたとしても、地方自治体への配分額が減少するという事態は十分に考えられる。 道においても、交付税措置が施されているとの認識から道債に依存した財政運営(景気対策)をこれまで展開してきたが、ここにきて「三位一体の改革」に伴う交付税総額の縮減から、道への配分額の絶対的な減少を強いられている。このため、近年の予算編成においては、元利償還負担の増大(公債費の増加)を賄い、さらには積極的に債務の削減を図るに足る財源を確保することが困難な状況にある。

 このように、道債残高が膨張してきた背景には、「財源対策による実質赤字比率の押し上げ」と「元利償還財源の交付税措置」という「制度」によって誘導された財政論的認識があったと考えられる。しかし、その「制度」的な枠組みが大きく変わろうとしている今日、道債は金融債務としての性格を露わにしようとしている。

≪おわり≫









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