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更新日:2008年1月10日(木)
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特集2 膨張する道債残高とそれを許容した財政上の論理(中)齋藤一朗(小樽商科大学大学院商学研究科教授)



2.実質収支比率と財源対策による押し上げ

 現行の財政再建制度では、実質収支比率が都道府県で▲5%、市町村の場合▲20%を超えると、財政再建団体となるか否かの選択を迫られる(注記:2008年度決算からは、地方公共団体財政健全化法の下、早期健全化基準、財政再生基準があらたに適用される)。財政再建団体とは、地方財政再建促進特別措置法第22条第2項に基づいて、「準用財政再建」を行う団体のことをいう。
 もし、地方自治体が準用財政再建団体となることを選択しなかった場合には、「自主再建」の道を歩むこととなるが、この場合は、新規起債を抑制し公債費を削減することによって財政の建て直しを図ることとなる。

 自主再建の場合、地方債の発行が制限される以外、国などからの制約がない。反面、法律による優遇措置や国の財政措置が全く受けられなくなる。一方、準用財政再建団体となる場合は、財政再建計画を策定し、総務大臣の同意を得て、国の指導・監督の下に計画を実施することになる。
 具体的には、住民税などの標準税率を超えた課税や使用料・手数料(保育料、住民票交付手数料、公共施設使用料など)の負担増、国民健康保険料の引き上げなどの歳入増計画、職員の整理や給与水準の引き下げ、地方自治体が独自に行っている事業の縮小や廃止、投資的経費や各種団体へ交付する補助金の削減などの歳出削減計画を含まなければならない。
 予算主義に基づく地方自治において、予算編成に対する制約は決定的であり、準用財政再建団体となることは、事実上、地方自治権の返上を意味する。このため、各自治体は準用財政再建団体の指定を回避しようとするのである。

 そこで、まず、準用財政再建団体となるか否かにとって重要な指標である実質収支と実質収支比率の定義について確認しておこう。これらの指標は、それぞれ、以下のように定義される。

 実質収支=歳入−歳出−翌年度へ繰り越すべき財源‥‥‥‥‥‥(1)
 実質収支比率=実質収支/標準財政規模‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥(2)

 実質収支とは、歳入・歳出差額の形式収支から、翌年度へ繰り越すべき財源を控除した額をいう。これは、形式収支に発生主義の要素を加味したものであり、当該年度に属すべき収入と支出の実質的な差額を意味している。このため、実質収支は地方自治体の財政運営の良否を判断する指標として用いられてきたのである。

 道の財政について、実質収支比率(普通会計)と基金や地方債を活用した財源対策による押し上げ効果を概観してみると、実質収支比率(普通会計)は、2000年代前半に0.7%から0.9%のレンジで推移してきたが、2004年度は0.2%、2005年度には初めて赤字に転落するに至った(実質収支▲3億2,700万円、実質収支比率▲0.0%)。2006年度は辛うじて黒字を維持したものの、なお予断を許さない状況にある。

 他方、財源対策による押し上げ効果については、経年的に高まる傾向にあり、道の財政運営が年々厳しさを増してきていることが伺われる。(1)式からわかるように、実質収支を改善するためには、歳入を増加させるか、歳出を減少させればよい。歳入については、道税のほかに道債や繰入金も財源として計上されているので、例え税収が増加しなくても道債の発行や基金の取崩・積立保留によって増加し、実質収支は改善する。
 
 実際、2000年度以降の財政運営では、行政改革推進債(2005年度までは財政健全化債)と退職手当債といった道債の発行や、財政調整基金、減債基金の取り崩し・積立保留による財源対策によって歳入が確保され、実質収支比率(普通会計)を3〜10%押し上げる格好となっている。言い換えるならば、もしこうした財源対策が採られていなければ、2003年度には既に、実質収支比率▲5%を割り込み、準用財政再建団体の指定が不可避な状況に陥っていたと推察される。

 さらに、この間の財源対策に立ち入ってみるならば、財政調整基金が1990年代後半からの相次ぐ取り崩しによって枯渇する中で、満期一括償還基金への積立保留という形での歳出抑制が、2002年度から3年間に亘って行われてきた。他方、地方債については、2000年度から財政健全化債(2006年度から行政改革推進債)が、2006年度からは退職手当債が発行されるようになった。財政健全化債(行政改革推進債)は、行財政改革の確実な取り組みにより将来の財政負担の軽減が見込まれる範囲内において、起債が許可されるものである。
 しかし、財政健全化債(行政改革推進債)や退職手当債は後年度の基準財政需要額に参入されることはなく、その活用は、元利償還負担の増大から財政運営をより一層硬直化させる危険を孕んでいる。

3.実質収支とプライマリー・バランス 

 このように、現金主義に基づいた現行の公会計制度の下では、基金の取り崩しは歳入増となり、財政運営において資産の減少とは認識されない。また、地方債の発行も歳入増となるが、負債の増加(=将来の歳出増加)としては認識されない。したがって、実質収支あるいは実質収支比率を財政健全化の指標とする限り、こうしたストック面に対する負の影響は顧みられず、近視眼的な帳尻あわせを抑止することができないのである。そこで、実質収支の推移とプライマリー・バランスの推移を比較することで、実質収支が道の財政状況をどのくらいミスリードしてきたかをみてみよう。

 プライマリー・バランスとは、税収等から歳出(公債費を除く)を差し引いたものであり、その定義は(3)式で表すことができる。公債費を除いた歳出が、税収など地方債以外の歳入で賄われている状態のとき、プライマリー・バランスは均衡しているという。

 プライマリー・バランス=税収等−公債費除く歳出‥‥‥‥‥‥(3)

 (3)式からわかるように、プライマリー・バランスでは地方債発行による資金の調達や基金の取り崩しによる繰入金は歳入としてカウントされない。したがって、実質収支とは異なり、地方債発行や基金の取り崩しといった歳入確保のための操作が、プライマリー・バランスに影響を及ぼすことがない。このため、実質収支よりもプライマリー・バランスの方が、財政状況を判断する指標としては適切であるといえる(注記:2008年度決算から適用される地方公共団体財政健全化法では、実質収支比率、連結実質収支比率とともに、実質公債費比率、将来負担比率が早期健全化・財政再生の指標として政令整備される。
 これにより、従来の単体フローベースでの収支尻のみならず、連結ベースでの収支尻ならびに地方債残高や基金の繰り入れなどのバランスシート管理への目配りが重要となる)。

 ここで、道財政のプライマリー・バランス(普通会計)を算出し、これを実質収支の推移と比較してみよう。先に見たように、2000年代入り後の実質収支は、2005年度の赤字転落を除くと、おおよそ0〜100億円の幅で黒字で推移してきた。
 これに対して、プライマリー・バランスは、2000年度から2005年度にかけては赤字で推移し、年々の赤字幅も2000年度の▲799億円から2003年度の▲2,580億円まで、一貫して拡大し続けてきた。2004年度も▲2,407億円と大幅な赤字となったが、2005年度には赤字幅が急速に縮小し、2006年度は▲65億円にまで縮小している。
 このように、実質収支の推移に比して、プライマリー・バランスの推移には、大きな変動がみられる。そこで、毎年のプライマリー・バランスの変動がどのような要因によって起きたのかを、次にみてみよう。

 プライマリー・バランスを、それを構成する歳入・歳出項目に分解すると、以下のように表すことができる。

 プライマリー・バランス=地方税+地方交付税+国庫支出金+その他の歳入(地方債、繰入金を除く)−投資的経費−その他歳出(公債費、積立金を除く)‥‥‥(4)

 (4)式から、歳入面では地方税、地方交付税などの増加がプライマリー・バランスを改善する要因となる。また、財源項目として地方交付税と国庫支出金を取り出したのは、依存財源の動向がプライマリー・バランスに及ぼす影響をみるためであり、それ以外の財源項目は「その他の歳入」としてまとめている。歳出面に関わる諸項目はいずれも、その増加がプライマリー・バランスを悪化させる要因となる。ここでは度重なる景気対策の影響を考慮して、歳出から投資的経費を項目として取り出し、それ以外の支出項目は「その他の歳出」として括っている。

(4)式に基づいて、1990年度以降のプライマリー・バランス変動(前年度差)を要因分解してみると、きわめて概括的ではあるが、1990年代と2000年代入り後とでは、プライマリー・バランスの変動要因に変化が生じていることがわかる。すなわち、プライマリー・バランスが傾向的に悪化した1992年度から1998年度にかけては、歳入増を上回る投資的経費とその他の歳出の増加がプライマリー・バランスを悪化させる要因として作用してきた。
 しかし、その後の1999年度から2004年度は、投資的経費やその他の歳出の削減が図られる中で、それを上回る歳入の減少からプライマリー・バランスの悪化がもたらされた。2005年度と2006年度には、プライマリー・バランスの大幅な改善をみるが、これは一段の歳出削減が進められる中で、歳入の減少が微減にとどまったことによるものであり、道財政の建て直しの難しさを窺うことができる。









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