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更新日:2008年1月10日(木)
特集

特集2 膨張する道債残高とそれを許容した財政上の論理(上)齋藤一朗(小樽商科大学大学院商学研究科教授)



■北海道債についての現状と今日に至った背景を数値の裏づけで確認しながら、これからを見通す。2006年度の実質公債費比率(20.6%)は、「47都道府県中で最悪」という位置から、どのように這い上がっていく道があるのか、まず本稿をお読み下さい。

プロフィール:1962年北海道生まれ。85年東北大学経済学部卒業後、第一勧業銀行入行。94年北海道大学大学院経済学研究科修士課程修了。同年小樽商科大学商学部助手。97年同大助教授。04年同大大学院商学研究科(ビジネススクール)助教授。07年現職。
     
全体構成
(上)1.はじめに
   2.道財政硬直化の進展と道債残高の膨張
(中)3.実質収支比率と財源対策による押し上げ
(下)4.実質収支とプライマリー・バランス
   5.元利償還財源と交付税措置と道債残高膨張

1.はじめに

 2006年2月、北海道は構造的な歳入・歳出ギャップ(財源不足)を解消すべく、向こう10年間に及ぶ「新たな行財政改革の取組み」を策定した。道財政を危機的な状況に陥れた要因としては、過去に発行した道債の元利償還が増蒿する中で、産業構造の転換の遅れから、近年、道税収入が大きく落ち込んだことや、いわゆる「三位一体の改革」において、地方交付税などが大幅に削減されたこと、介護保険や老人医療費などの義務的経費が増加していることなどが指摘されている。

 「取り組み」では、2006年度と2007年度を集中対策期間と定めて、歳出の削減と歳入の確保に務めた結果、当初予想された1,800億円の歳入・歳出ギャップを埋め合わせ、地方財政再建促進特別措置法に基づく「準用財政再建団体」の指定をさしあたり回避することができた。しかし、それでもなお、歳入・歳出ギャップは2008年度以降も生じる見込みであり、道財政は引き続き厳しい局面に立たされている。2007年11月、道は残された7年間で行財政改革の実を上げるための基本方針として、「新たな行財政改革の取組み」の見直しの方向性を示し、さらなる歳出の削減と歳入の確保、道債残高の縮減を図ろうとしている。

 ここで、道の財政が危機的な状況に陥った要因を、あらためて整理しておこう。
 歳入面における道税収入の落ち込みや、「三位一体の改革」による地方交付税の削減は、道を取り巻く経済環境の変化や少子高齢化、人口減少などの社会環境の変化、あるいは国と地方の政府間財政関係の変化という、いわば外部環境の変化にその淵源を求めることができる。
 歳出面においても、介護保険や老人医療費など義務的経費の増加は外部環境の変化(とりわけ、社会環境の変化)に起因するものとして捉えることができる。だが、過去に発行した道債の元利償還負担の増大については、外部環境の変化で生じた一般財源の不足を負債調達で賄うという主体的な意思決定の結果であり、歳入・歳出ギャップをもたらした他の要因とは性質を異にする。

 以下では、元利償還負担を伴いながら、いまなお膨張し続ける道債残高に専ら焦点を当てて、道債残高の累積を招いた財政運営上の論理(あるいは財政論的認識)を、「財源対策による実質赤字比率の押し上げ」と「元利償還財源の交付税措置」という切り口から取り上げてみたい。

2.道財政硬直化の進展と道債残高の膨張

 まずは、道の歳入・歳出構成から道債の現状を確認しておこう。
 歳入総額に占める道債の割合(地方債依存度)は、2006年度決算(普通会計)で14.8%と、地方交付税(27.8%)、地方税(22.8%)に次いで高い割合を占めている。ここ10年間の推移では、2003年度の18.8%をピークに改善傾向にあるものの、全国平均(2006年度11.1%)との対比では、いまなお相対的に高い水準(14.8%)にある。

 一方、歳出総額に占める公債費の割合(公債費比率)は、2006年度において17.3%に達し、直近10年間で最も高い水準にある。さらに、公債費に充当された一般財源の割合(公債費負担比率)をみても、2006年度は27.2%と、1997年度以降では最も高く([参考]2005年度:全国平均19.3%、道26.9%)、いずれの指標からも歳出構造における硬直化の進展がうかがわれる。

 また、2007年度当初予算において、公債費に充当された財源をみると、地方税等の一般財源が56.9%、借換債が41.5%、国庫補助金など特定財源が1.6%となっており、足下においては、元利償還のおよそ4割を借換債に依存していることがわかる。さらに、借換債に対する依存度を5年ほど遡ってみると、2003年度が20.6%、2004年度29.2%、2005年度35.4%、2006年度32.2%となっており、近年、元利償還を借換債で賄う傾向が強まっていることがわかる。

 他方、道債の現状をストック・ベースでみてみると、2006年度末・普通会計の道債残高は5兆5,300億円、道内総生産(2006年度・名目、北海道銀行による推計)の対比では28.3%にも上り、その元利償還負担が道財政に重くのし掛かっている。
 事実、2006年度の実質公債費比率は20.6%と、47都道府県の中で最悪の状態にある。道の推計では、2010年度に起債が制限される25%を突破し(25.1%)、2011年度には元利償還負担のピーク(25.8%)を迎えることから、累積する道債残高の元利償還はこれから正念場となる。

 さらに、道債発行額の推移を資金別にみると、1998年度以降は、政府・公庫資金の占める割合が低下し、2006年度は過去最低の割合(16.4%)となった。これに代わって、道債の主たる資金源泉となっているのが民間資金であり、2006年度は、市場公募が発行額全体の59.8%を、銀行等引受が23.7%を占めている。

 満期構成(発行額ベース)では、2001年度からそれまで発行されてきた10年債に加えて、投資家層の拡大=道債発行の円滑な消化を企図して5年債が発行されるようになり(シェアにして、年々の発行額のおよそ3割〜4割)、2006年度は発行額の34.3%が5年債となっている。5年債による起債は、一方において地方債市場の流動性を高める方向に作用するものの、他方では、市場公募が主流となる中で、発行体である地方公共団体の側が、財政状況の如何によってはスムースな借換が困難になったり(流動性リスク)、借換時の金利動向の如何によっては利払い負担が増したりする(金利変動リスク)など、マーケット・リスクに曝されやすくなっていることを意味する。

 このように、膨張する道債残高の存在は、公債費の増蒿を通して歳出構造の硬直化をもたらすとともに、地方債協議・許可制度の下、起債の許可・制限を通して、財政活動に対する制約として強く作用する。
 さらに、民間資金(市場公募、銀行等引受)を主たる資金源泉とする起債と、円滑な市場消化を企図した5年債の導入(満期構成の短期化)は、道債の新規発行・借換に伴う各種リスク(流動性リスク、金利変動リスク)を増大させることから、負債コントロールの巧拙が従来にも増して問われるようになっている。

 では、なぜ道財政を硬直化させるほどにまで、道債残高は膨らんだのか。
 一義的には、1990年代に行われた国の公共事業(直轄事業、補助事業)や、道の投資単独事業の財源を道債に依存したこと、これらの公共投資による景気浮揚が期待されたほど功を奏せず、将来の元利償還財源たる道税収入の見込みに狂いが生じたことによる。だが、より根源的な疑問は、道債という金融的な調達手段を駆使するにあたり、なぜ将来の元利償還能力の側面から歯止めがかからなかったのかという点である。
 
 「金融の論理」に従うならば、債務が膨張すると、将来に亘る元利償還の目処が立ちにくくなることから、債務の削減に対する圧力が高まり、債務の自己増殖に歯止めがかかるのが常道である。 しかし、道債残高が膨張した根底には、そうした金融の論理をも超越した、いわば「財政の論理」が見え隠れする。

 そこで、次節では、道債残高の膨張をこれまで許してきた財政の論理(あるいは財政論的な地方債の認識)を、準用財政再建団体の指定要件を為す実質収支比率との関わりで見ていくことにしよう。









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