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更新日:2008年1月16日(水)
特集

特集1 財政「ピンチ」は産業構造転換「チャンス」(上) 石井吉春(北海道大学公共政策大学院教授)



■5兆円以上にもなる北海道債を私たちはどう考え、どう取り扱うようにすればいいのか? 「夕張」の次が見えてきた今、道民一人当たり約106万円という負債総額の扱いと、将来的に北海道を魅力ある「島」にしていくための政策を北海道大学法学部公共政策大学院の石井吉春教授にお聞きした。

プロフィール:一橋大学商学部卒。1976年に北海道東北開発公庫(現・日本政策投資銀行)入庫。北海道支店に2度勤務。03年6月から四国支店長を務めた後に退職。05年4月から現職。
     
全体構成
(上)(1)地方経済が持続的に発展するための議論をしよう
   (2)地方債残高とデフォルトの関係
   (3)貸し手責任とレベニュー債(事業目的別歳入債)
   
(下)(4)合理的な財政運用にする
   (5)産業構造について
   (6)投資は地域経済の活性化が目的
   (7)雇用の質を向上させる教育投資

(1)地方経済が持続的に発展するための議論をしよう

 北海道の地方債を考える際の基本的な枠組をお話します。
 大きな負債総額は、私たちの行動を萎縮させるのに十分な重石になっています。しかし、それにジッと耐えるだけでは問題の解決にならないことも良く知られている通りです。
 そこで「地域経済が持続的に発展する」ための地方財政について“冷静にかつ前向きに”考えたいと思います。
 
 結論を最初に申しあげますと、北海道の地方債は、国の財政事情による制約が今後強まることが確定的でしょうし、今までのような水準での財政トランスファーの継続は不可能と覚悟すべきです。となれば、今まで以上に真剣に、待ったなしの体制で地域経済の足腰を強化して、その自立を促す構造改革の道へ踏み出すより他に選択肢はないと思います。

 しかし、地域経済における財政のウエイトは依然として大きいので、歳出構造を適切に見直していかないと、地域経済はスパイラル的に落ち込んでいく恐れがあります。しかし、「幸い」というのも変ですが、地方債についてはただちに信用不安が起こるような状況にはないと考えていいと思います。今の税制枠組の中で信用不安が起こって資金が大規模に引き上げられる事態は、考え難いということです。その事由をこれから紐解いていきますが、危機状況を逆手にとって北海道地域が浮上するチャンスを活かす方策を示したいと思います。

 まず国も地方も財政が決していい状況ではありませんが、だからといってその状況と「地方債」の引き受け手がいなくなる事態がストレートにリンクするわけではありません。平成18年度から地方債制度は、これまでの許可制から協議制に移行しましたが、不十分とはいえ財政上の規律がより健全なものになる一歩を踏み出しました。国も財政システムを破綻させないように相当の努力をしています。

 北海道債は北海道の借金そのものなのですが、その責任は100%全てが北海道庁にあるのか、という問いを立てれば、「そうである!」とは言えません。 
 道債の問題は地域経済のあり方が凝縮された一つの側面です。
 5兆円を超える債務も道庁だけが特別に無理無体な政策を行った結果である、ということでは説明できません。もちろん、不要な箱物行政(注1)がなかったわけではありませんが、それが他の府県に比べて特別に多かったとは言い切れませんし、むしろ、国の政策の一環を担ってきたという構造的なものとみるべきだろうと思います。ですから、道庁の施策だけを責めても将来に向けた前向きの議論になりません。

(編集部注1:「国や地方公共団体などの行政機関が行った公共事業について、施設や建造物の整備そのものが目的になり、整備された施設が有効に活用されず、結果的に施設が身の丈に合わず無駄になってしまう行政手法を批判的に述べた用語」Wikipediaより)

 地方自治体のたどってきた財政悪化の道、つまり借金増加のプロセスは、国の景気対策などに協力してきた結果であり、実態としては赤字公債である交付税との見合いで近年、発行された臨時財政対策債(注2)などのウエイトが高いのです。つまり、国、地方を通じた財政運営によって積み上げられてきた赤字の大きさということができます。

(編集部注2:地方交付税特別会計の借り入れ金による地方財源不足の補填方式をやめて、地方自治体が直接に借り入れを行う方式に切り替えるために2001(平成13)年度から3年度の間に発行された。その後、さらに2004年度から3年間延長された。各団体の発行可能額は、01年度の場合、基準財政需要額のうち、経常経費の「企画振興費」と「その他の諸費(人口)」などと、投資的経費の「その他の土木費」「その他の諸費(人口・面積)」の一定率を削減した額に対応する額とされていた。この臨時財政対策債の元利償還金は、3年据え置きの20年償還とし、その全額を後年度に基準財政需要額に理論的に算入する。『地方財政情報館』の「財政用語小辞典」より)

(2)地方債残高とデフォルトの関係

 ここが問題の本質です。巨額の地方債もミクロでいいますと相当程度は将来の交付税措置が約束されているのです。その典型は臨時財政対策債で100%が交付税で賄われます。その類いのものは、縷々ありまして地方債の平均的な実態は6割から7割くらいまでは交付税措置があるのです。
 全体の正確な数字はまだ公表データではつかまえてはいませんが、調査をしたいくつかの県では控えめに言っても、地方債の6割は交付税で解決できることになっています。そうした傾向の数字が出ています。

 北海道についても同様の仕組みの中にあると見ていいでしょう。ですから政治的な仕組みの枠内で借金をしてきた、と言えるのですが、北海道の場合は規模が大きいために気が重くなりがちなのはやむを得ないことかもしれません。
 交付税がミクロの支払いを約束したような形になっているので、財政のマクロな話との乖離が際立ってしまい、問題解決の道筋を不透明にさせているのは事実です。国からの交付税がいろいろな理由付けの中で総額が減少してきているため、歳入と負債の比率が悪い方へと変化してきています。それで一層不安感が拭えないし、相当厳しくなっていくことも事実だろうと思います。

 それでも、地方債の信用問題については、地方債がもしデフォルトに近い認識をもたれるようになった場合には、地方財政制度そのものがつぶれる話になると考える必要があります。
 国債と比較すると分かりやすいかもしれません。国債について、皆さんの内心はどうか分かりませんが、国の借金が巨額だからといっても、表面的には平気でファイナンスをされています。構造的には地方債の問題も、国債と相似形の状態にあると考えていいだろうと思います。交付税は地方の独自の財源ですが、国が実質的に財源保証をしてきていることなどを踏まえると、いわゆる暗黙の政府保証が効いているとみざるを得ないし、交付税を補助金的なものにしてしまったという意味では、国の信用にも直接影響する問題になっていると考えていいと思います。

 誤解のないように念を押しておきますが、だからと言って現在の地方債に問題がないわけではありません。ただ、地方債の残高問題と信用問題は、質が違うことを申しあげたいのです。地方自治体が再建団体にならないように単純に大幅な債券カットの方策をとらずに、粘り強くいろいろな努力をしながら日々の行政を行っている理由がここにあります。
 
 仮にでも「倒産」を前提に行政運営が行われるようなことになれば、これは誰も資金を提供しなくなることは明々白々です。従前の親方日の丸、といった意識は払拭しなければなりませんから、地方債の今後を考える上では、ある種のデフォルトという概念を入れる必要はあると思います。それでも、デフォルトの概念を入れることが、ただちに破綻を想定していくということではありません。ここは議論を慎重に進めてもらいたいところです。

 少し前に自治体再生手続き問題として議論された中では、早期再生するためには、「デフォルトありうるべし」という論調が比較的色濃く出されていました。そして、どこでデフォルトの線引きをするのか、という議論になりました。従来の制度的な枠組みの中で暗黙の政府保証が効いてきた旧い債務についてはデフォルトはあってはならない何としても返さなければならない債務、制度変更、後の新債は自治体それぞれの信用力によって調達されるべきといった、新旧分離の議論もなされ、信用秩序の維持を図りながら制度を変更していく方向なども議論されました。要すれば、「デフォルトありうるべし」としても一気にすべてがそうなる、というような単純な話ではないし、もしそんな事態を招けば、既存の地方財政制度が崩壊しますし大変な金融恐慌を招くことにもなります。そのような事態は国にも地方にも、まして金融機関にも全くメリットのない展開で、誰もそれを望んでいないし何とか避けなければならない最悪のシナリオなのです。

(3)貸し手責任とレベニュー債(事業目的別歳入債)

 貸し手責任のことは夕張の時にずいぶんと言われました。ところが、貸し手責任のことが言われれば言われるほど、今度は借り方の問題も浮上してきます。デフォルトの議論は、その先に出てくるのです。

 金融の基本を今一度、オサライをします。企業であれば事業見通しを示し、将来のキャッシュフローで返済を約束しますが、国や自治体は将来の税収を裏付けに資金を借りるわけです。制度的にも国債、地方債ともにBIS規制上のリスクウェイトは0%とされていますから、税収の裏付けが極めて大きいとも言えるし、暗黙の政府保証が効いているとみることもできるわけです。銀行側はそうした事情を背景に自治体を信用して貸し出しを行ってきているわけです。

 ですから、夕張の場合は一時借入金という特殊な面はありますが、今日の状況になって、「貸し手責任を果たしていない」と一方的に主張しても、議論がねじれてしまうだけになります。今の制度的な枠組での地方債マーケットは、金融側が事業を評価して貸し付けるというシステムになっていないのです。事業の個別保証はない状態であっても、倒産のない(と思われてきていた)自治体とは、「必ずお返しします」という暗黙の申し送りが連綿と続いてきていたのです。

 貸し手責任の議論を進めれば、地方債マーケットの制度的な変更を求めていくことになります。例えばアメリカなどは、一般財源債とレベニュー債(事業目的別歳入債)を分けています。このことについては、私が昨年アドバイザーとして参加した「北海道の財政状況を踏まえた民間資金活用策」調査報告書(平成18年8月・北海道経済連合会)に詳細がありますので参考にして下さい。
 公共投資が以前のような形で取り組めないようになってきている今日だからこそ、自治体破綻法制によって今後の地方債の発行は新しい資金調達のシステムが構築される必要度が高まっています。

 その新しい資金調達として考えられるのが、レベニュー債です。財政からの制約が増える傾向にある現代にこそ、費用対効果を重視しながら、つまり「事業の必要性」「コスト負担のあり方」「事業の評価」などを住民と情報共有しながら事業の便益を考えるものです。
 税制の違うアメリカの手法をそのまま日本に取り入れるわけにはいきませんが、一定のキャッシュフローが見込めるプロジェクトについては、レベニュー債を検討する価値は十分にあると思います。その結果、財政負担を着実に軽減させるものになるでしょう。

 民間企業に貸しているお金、地方自治体に貸しているお金、国に貸しているお金では、それぞれ違う特性をもっています。
 国に貸すお金についても民間企業の対するのと同様にするならば、国に対して事前にチェックをして返済能力がないから貸し出しを行わない、ということが実際にありえるのか、ということです。
 これは極端に申しあげると、金融機関が自分の存立基盤を壊すことになります。借金が多いにしても金融というのは一国の経済システムの中で動いているものですから、その国を破綻させるような方向に金融自らが動くということは、手術は成功したが、生命は失われたみたいな話になりかねません。

 国債管理は重要ですが、国債の信認というのは、国民が信用しなくなったらそれで終わりですから、冒頭で申しあげたように、国もデフォルトを回避するために政策で苦心をしている、ということです。そのためには、金融が規律づけしていくことも重要ですが、一方で信認を支えていく方向も重要になっているように思います。









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