更新日:2008年1月16日(水)
北海道 食思譚
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1 はじめに 21世紀に入った我が日本では世界屈指の高齢化社会を迎え、高脂血症、糖尿病、心臓病、ガン、脳卒中、メタボリック症候群など、いわゆる生活習慣病を克服しなければならない時代となりました。一方、多くの人々は薬などに頼らないで健康に生きたいと望んでおり、その願いを叶えるものとして『食』が注目されています。 生活習慣病の原因の1つとして、欧米化したライフスタイル、とりわけ高脂肪、高コレステロールである食品の過剰摂取など食生活の変化が指摘されています。30年程前にアメリカで出されたマクガバン・レポートには心臓病やガンなどの現代病は食事がもたらした食源病であり、食生活の改善なくして病気の改善はありえないと述べられ、最も理想的な食事は伝統的な日本人の食事であることが記されています。 したがって、我々日本人も先人達が創りあげた和食のすばらしさを再認識し、その機能解明に取り組む必要があろうと思います。 古くから日本人は稲作を中心として独特の食文化をつくりあげ、野菜、魚貝類、豆類などが豊富な食事からビタミン、ミネラル、食物繊維などを十分に取り、脂肪やタンパク質などもバランス良く摂取してきました。特に、各地で旬の食材を利用した様々な食品が作られ、これらが和食の基本になっています。 ここでは、日本の伝統食である漬物から分離した乳酸菌と主要農産物である大豆を活用した発酵豆乳の開発および当該食品の健康機能性について述べます。 2 漬物から分離した乳酸菌 和食において漬物は欠かせないアイテムであり、古くから香の物として親しまれ、各地に地域特有の様々な漬物が存在します。このような漬物は乳酸菌発酵食品であり、古漬けと呼ばれる良く漬かった漬物類ではヨーグルトに匹敵する乳酸菌が生きています。 したがって、多くの日本人がヨーグルト類を食べるようになったのが昭和30年代以降であることから、それ以前には漬物などから必要十分の乳酸菌を摂取していたと考えられます。 このような漬物などの野菜や果物などを好んで生える乳酸菌は、植物性乳酸菌などと呼ばれることがあります。最近、植物性乳酸菌が欧米のベジタリアンなどから高い割合で検出されることや免疫機能を高め感染症やガンの抑制に効果のあることなど、ヒトの体内で積極的に機能性を示すことが報告されています。したがって、漬物などから分離される乳酸菌が我々日本人の腸内環境の健全化など健康に寄与してきたと推察されます。 そこで、我々は10年ほど前から植物性乳酸菌に関する研究を開始しました。そして、北海道という地域でつられ、日本人が常食としてきた古漬けと呼ばれる漬物から細胞付着活性などの機能性を指標として新たな乳酸菌株を取得し、本菌をLactobacillus plantarum HOKKAIDO(ラクトバチルス ブランタラム ホッカイドウ、略してHOKKAIDO株)と名付けました。 HOKKAIDO株はヒト培養細胞株Caco-2に対して高い付着能をもち、大腸菌O-157のCaco-2細胞付着を抑制しました。また、HOKKAIDO株は人工消化液に対して耐性をもつことから、生きて腸まで到達できると考えられました。 さらに、札幌医科大学などとの共同研究により、ヒト単球由来細胞株HTP-1やヒト口腔扁平上皮細胞株OSC70に対してある種の免疫関連因子を誘導することがわかりました。これらのことから、HOKKAIDO株はプロバイオティクスになりえる乳酸菌であることが示されました。 3 プロバイオティクスとは プロバイオティクスとは抗生物質(antibiotics)に対比される言葉で、生物間の共生関係(probiosis)を意味する生態学的用語を起源として、『腸内フローラのバランスを改善することにより、宿主(人など)に有益な作用をもたらす生きた微生物』と定義されています。 プロバイオティクスの健康効果として、腸内環境を整える整腸作用、がんリスクの低減作用、免疫力の増強作用、アレルギーの低減作用、高脂血症の低下作用、高血圧の低下作用、胃内のピロリ菌減少作用、正常肝機能の維持作用などが注目されています。 また、これに関係する用語として、プレバイオティクス(prebiotics)という言葉があります。プレバイオティクスは『腸内に生息するビフィズス菌などの有用菌を増やす成分』と定義され、オリゴ糖などが該当します。ビフィズス菌はBifidobacterium属の細菌で、人の腸管内に生息し、整腸作用、免疫調節作用など体に良い様々な働きをしています。 最近、プロバイオティクスとプレバイオティクスの両者の機能を有する食品をシンバイオティクス(symbiotics)と称する概念が提唱されています。シンバイオティクスは生活習慣病を考慮した場合において非常に有効な食品といえます。 4 発酵豆乳の開発 大豆は和食における主要なタンパク源であり、豆腐、納豆、味噌、醤油などの主原料になっています。さらに、近年は栄養面だけではなく機能性の面からも注目されています。 豆乳はノンコレステロールであり、イソフラボン、大豆タンパク質、大豆オリゴ糖など生活習慣病を予防できる幾つもの機能性成分を含んでいます。 特に北海道にとって大豆は国内生産量の約20%を占める主要な農産物であり、このように多くの機能性成分をもつことから高付加価値製品の開発が強く期待されています。そこで、我々はHOKKAIDO株を用いて豆乳を発酵させた発酵豆乳の製品化に取り組み、大豆の香りと風味をもったヨーグルト様の酸味のある食品を開発しました。これまでの研究から、この発酵豆乳がシンバイオティクス効果の期待できる機能性をもった食品であることも示唆されました。 5 おわりに 発酵豆乳に関する技術は札幌の豆腐メーカーである(株)豆太に移転され、道産大豆を利用した植物性原料のみからなる発酵豆乳(商品名:ベジグルト)が商品化されています。ベジグルトはコレステロールを含まず、機能性成分として、1個(60g)あたり大豆イソフラボン20.4mg、大豆オリゴ糖270mg、食物繊維360mgを含んでいます。 また、この発酵豆乳をスポンジ層に練り込んだ3層構造のコンディショニングスィーツと銘打ったチーズケーキ(商品名:HA-RU)がハマ(株)から発売され好評を得ています。 参考資料など ・「漬物由来乳酸菌の保健機能」 食品と技術 385巻 7号 ・「Lactobacillus plantarum HOKKAIDOを用いた豆乳ヨーグルトの製造およびその機能性」 日本食品科学工学会誌 52巻 3号 ・ベジグルト オフィシャルサイトhttp://www.mameta.jp/ ・HA-RU オフィシャルサイト http://www.hama-ya.com/ha-ru/ 中川 良二(なかがわ りょうじ)プロフィール:北広島市出身。1988年 帯広畜産大学大学院修了。1989年 北海道立工業試験場、食品部応用微生物科、同部食品加工科。1992年 北海道立食品加工研究センター、応用技術部生物工学科、食品バイオ部バイオテクノロジー科を経て、現在に至る。 |
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