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更新日:2007年12月19日(水)
特集

特集2 21世紀型の医大は多様な地域貢献に挑戦中「下」 今井浩三(札幌医科大学学長) 



■医療を越えた北海道全体への貢献を考えるとすれば、札幌医大としては、どのような資源をお持ちと考えていますか?

(5)着々と進む医大の取り組み

――現在、取り組んでいるものをいくつか紹介させてもらいます。
 一つに、他大学との連携、提携があります。すでに室蘭工業大学と札幌医科大学が正式に連携して事業に取り組むことになりました。今は室蘭市の市立病院の医師がほとんど札幌医大から行っておりますので、室蘭市との連携はそこからも築けると思っています。

 より具体的には、工学部と医学部の連携は、例えば手術器具の改良によって患者さんの負担を軽減できるようにすることが可能です。外科医の「こうした手術道具があれば」というアイデア提供に工学部の教授が「それなら簡単にできます」という意見交換が実際に進んでいます。道具だけではなく、医師にすれば従来は与えられた施設の条件下で執刀していたのですが、より良い環境を提言するような意見交換の場ももてるようになってくるだろうと思います。

 こうした交流の先に医療を舞台にした「産業化」までのシーズを見つけ、育てるようなプロセスを歩みたいと思っています。事業化に関しては、すでに連携しています小樽商科大学のお力もいただきながら取り組んで行く予定です。従前のような単なる大学間連携ではこれからの時代の要請に応えることは難しいでしょうけれど、私どもにしますと、地域に病院という現場がありますから、そこで実際にモノを作ったりすると、時間をおかずに現場で開発されたモノの使い勝手を検証できますし、こうしたスピーディな取り組みも特色にしていきたいと思います。

 今、本学では研究のための研究ではない、患者さんの役に立つ未来型の医療ということで「橋渡し研究」に力を入れています。トランスレーションリサーチ(臨床との橋渡し)と言いますが、これは今年、国からも6箇所(東大・京大・阪大・東北大・理化学研究所・札幌医大)が認められて研究拠点になりました。
 5年間、毎年予算がついて行うもので、研究は全て患者さんのベッドに直行するものになります。これは道民の方々にも直ぐに還元できるものになるだろうと思います。

 NHKの番組でも放映されましたが、脳卒中の方に対してご本人の骨髄の細胞を一滴とって、それを戻しますとそれが脳にまで届き、脳神経を作ることが分かりました。それによって麻痺のあった体が機能を回復する研究ですが、すでに何例か成功しています。若い脳外科の講師が中心に取り組んでいるものですが、画期的な研究だとみています。札幌医大では、これ以外にも癌ワクチンの研究なども進んでいます。

 世界でも先端医療は大学で行われることが多いのですが、それも日々の研究基盤があっての話です。こうした研究で陽の目をみるのは100分の1くらいの確率であることも事実ですし、それでも成果だけをツマミ食いするようなことでは世界からは相手にされない、のも現実です。大学としては、市中病院ではなかなかできないもので、近い将来先端医療になり得ることをするのが大事な機能だと思っています。

■「都市と医大」ということで地域に与える医大の影響、あるいは医大で取り組める地域社会への貢献についてお聞かせ下さい。

(6)医療資源の積極的な活用

――札幌医大の周辺には大きな病院も多く、医療集積地ともいえる地域です。この地域にある医療施設との連携が、今後の取り組み課題と思っています。大学間の連携については、小樽商科大学、室蘭工業大学、北海道医療大学ばかりではなく、他大学との多様な提携も結んできましたので、今後は近隣の大きな病院との人事交流や、それぞれの病院に得意分野がありますから、その医療資源をもっと引き出すようなことを考えたいのです。

 これは何よりも患者さんにもっともいい医療環境を提供するシステムになるだろうと思います。 今の時代は病気の考え方も変わってきています。これまでの医療は、どうしても病気や病人を中心に考えてきたものです。この領域は永遠に残りますが、これからは健康な人が病気にならないための予防とか、ちょっと弱った機能を回復させるリハビリテーションとか、健康を維持し健康を増進させる方向での医療ないし医学への期待が高まると思います。例えばメタボリック症候群のことでも、放っておくと症状が進行してしまうでしょうが、早い段階で手を打つことで、ご本人にも社会にもダメージを与えないようにすることは可能です。
 具体的には、医療施設周辺の自然環境を取り込みながら、居住地域全体が健康志向のゾーンになるイメージを描いております。

 幸いこの周辺には藻岩山があり、円山があり自然環境も優れています。たまたま札幌医大の周辺環境が良かったということですが、健康志向の人たちにとっては、リハビリのできる環境が揃っているとも言えます。
 古くからの住宅地としての歴史もあり、安全性でも優れている地域です。しかも都心にも近いという好条件に恵まれています。当然、住んでいる方々もそうした居住環境、生活環境を意識されていますから、それに見合った医療の高度化も可能だと見ています。この地域に住みたい、と考える人が増えてくるような周辺環境になっていけば、地域の活性化にもなるだろうと思っています。

■最後になりますが、医学に関わる一人として周囲の方々へのメッセージをいただけますか?

(7)北海道の規模にあった医療行政

――日本の医療関連支出はGDPに占める割合(2004年)では、先進国中最下位です。(出所「OECD HEALTH DATA 2007」)トップがアメリカ、ついでフランス、ドイツ、カナダ、オーストラリア、オランダ、スウェーデン、イタリア、イギリス、そして日本、メキシコ、韓国と続いています。
 日本は世界に誇れる長寿国を米国の半分程度の支出で実現させています。乳児死亡率の低さも世界一ですから、トータルに言えば日本の医療体制は、そんなに悪くはなかったのです。それをさらに医療費を削減しようとする政策に問題があるだろうと思います。

 医療の崩壊は、地方の崩壊に通じていることを先にもお話をしましたが、自治体の抱える病院の赤字も地方自治体の連結決算の中で処理しようとすれば、病院を潰すより道はなくなるのです。こうした流れにある政策は、今後も問題を拡大することになるでしょう。

 イギリスなどでも一たん崩壊した医療システムは、この5年間で1.5倍に増額した医療費でも元に戻っていないといわれています。大学への入学定員枠を微増させる政策も出されましたが、これはやらないよりはいいですが、それよりも知事会などからも要望が出されています卒後の研修を2年間ではなく1年間にする方が先にすべきことでしょう。
 
 医師の数も、時代に合わせて少し増加させるべきです。北海道は広域ですので、医療人の数だけをカウントしますと、人口比ではほぼ全国平均ということになります。
 しかし、別海町と香川県が同じぐらいですし、東北6県プラス新潟といわれる北海道の面積ですから、移動のことを考えると医師の数は、他県よりも2倍から3倍程度の人員が必要だろうと思います。ですから、特区扱いにしてでも医療人の配置を本州の2倍にするというような方策も考えないと、本州並みの医療環境は得られないと思います。地域の医療機関も単純に広域化すれば、問題が解消される、というような話ではないのが北海道の特徴です。

 そうした多くの課題はありますが、医療界で働く喜びということについて最後に触れたいと思います。私が今年、職員に話したことは医療現場に就いていることの有り難さでした。社会の仕事でわれわれのように患者さんから、病気が治った、機能が回復したという時に直接喜んでもらえる職場環境というのは、そうそう多くはないでしょう。

 医療制度の問題は山積していますが、それでもここで働くことの喜びを感じる職場にしたいと思います。医師だけではなく、看護師さんをはじめとしてさまざまな医療人は極めて重要な仕事をされているわけです。
 にわかに医療関係の問題がクローズアップされてきている昨今ですが、解決を急ぐべき問題、時間をかけてでもしっかりした構想に基づいて大きな方向性を示すべきことなど、手がける問題によってアプローチの仕方は違ってくるのは当然です。それを踏まえて、予防段階、そして治療段階、あるいは健康を増進するためのセンターになる医大を形成していきたいと考えております。

 建学の初心を忘れることなく、そして21世紀という時代をしっかりと把握して、今後も努力を惜しまずに道民や国民に役立つ医科大学を構築したいと思っています。

≪おわり≫









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