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更新日:2007年12月14日(金)
特集

特集2 21世紀型の医大は多様な地域貢献に挑戦中(上) 今井浩三(札幌医科大学学長)



■北海道「地域医療」の大黒柱の一つである札幌医科大学の今井浩三学長に北海道の医療体制、医学教育、そして健康と都市をめぐる将来的な展望についてお聞きした。

プロフィール:1948年生まれ。札幌医科大学医学部卒。医学博士。アメリカNIH博士研究員。イギリスケンブリッジ大学上級研究員。札幌医科大学医学部第一内科教授を経て、同大学長・理事長。日本学術会議会員。

全体構成
「上」
(1)北海道の医療への対応
(2)医師を取り巻く環境悪化
(3)21世紀はチーム医療という形態
(4)患者にも医療人にも有益なシステム作り
「下」
(5)着々と進む医大の取り組み
(6)医療資源の積極的な活用
(7)北海道の規模にあった医療行政

■最近は地域医療にかかわるニュースやジャーナリズム(*)での取り扱いが増えているように思いますが、これらは一様に病院・診療所の存続をめぐるものです。こうした現象を生みだしている根本要因などについて最初にお話をお聞かせ下さい。
(*編集部注:例えば『中央公論』07年6月号・特集「病院が崩壊する――戦後医療システムの破綻。地域とリスク分野から医者が逃げていく」、『週刊東洋経済』07年11月3日号「ニッポンの医者・病院・診療所 全国で相次ぐ病床閉鎖、患者の難民化」)。


(1)北海道の医療への対応

――日本の医療が崩壊しはじめているというようなセンセーショナルな表現がビジネス誌に踊っています。全国で起きていることは、当然、この北海道でもより深刻な状態で現出しています。北海道でも病院や診療所などの医師不足をはじめとして、地域の方々から医療に対する不安を訴える切実な声が寄せられています。
 本学でも最大限の対応をしていますが、その一例に根室市立病院への医師派遣があります。ここも医師がゼロになるような事態になって、准教授、講師、卒業生の3人が常勤として赴任しています。2人が他の病院から非常勤で派遣されていて、現在、5名体制です。当直についても、本学から出向いています。
 
 札幌市近郊のある市立病院内科では、10名いた医師のうち援軍が来ないので2人が辞め、残り8名で従来の患者数の診察をするようになり、残った医師たちの仕事はハードになりました。そこでまた、一人が辞める‥‥という流れになってとうとうゼロになった実例があります。
 この時、その病院に医師を送っていた大学の方では倫理規制もかけて医師たちの慰留に努めたと聞いていますが、過重労働になっている現場では「医師本人の健康問題」との関連もあって説得のレベルを超えている段階だったそうです。『週刊東洋経済』(07年11月3日号)で取り上げた大学病院に勤務する女性産婦人科医師の「1週間のうち2日間も当直(宿直)がある。当直がない日も帰宅は毎晩11時を回り、朝は8時過ぎから手術もある。研究の時間は、手術や外来、病棟勤務などの合間に1日2〜3時間あるだけ。逆に夜間に急患がある場合は、48時間連続勤務になることもある」(同紙39頁)という記事は、特殊な事例とは言えない状況にあります。
 どうして、そのようなことになってしまったのか、という疑問は誰でもお持ちだろうと思います。

 医療人不足のことは、いろいろな要因はありますが、大きなものから取り上げますと、2004年度から導入された「卒後臨床研修制度」から始まります。この厚生労働省が採り入れた新制度は「臨床研修は、医師が、医師としての人格をかん養し、将来専門とする分野にかかわらず、医学及び医療の果たすべき社会的役割を認識しつつ、一般的な診療において頻繁に関わる負傷又は疾病に適切に対応できるよう、プライマリ・ケアの基本的な診療能力(態度・技能・知識)を身に付けることのできるものでなければならない」という立派な基本理念を唱っているものですが、実際に現場で起きたことは、冒頭に紹介した状況です。

 これは、免許をもった医師が卒業後、2年間、研修をするという名目で自由に研修場所を選べることになり、北海道で言えば、多くの医師が道外に流出し、あるいは基幹病院で訓練中ということになり、1人前の医師として働いていない状況に陥ったのです。その数は、毎年100名ずつの卒業生が札幌医大、北大医学部、旭川医大から出ますが、合計300名もの若い医師がごっそりといなくなったと同じことです。

 しかも、2年間ですから単純化して言えば、600名の医師が北海道から消えたということになります。これが単に一時的な現象でしたら、事態は数年で元に戻るのでしょうけれど、回復するどころか他の問題に繋がっていってしまっている現在かと思います。

 この不足する600名分の仕事を担ってきたのが、過重労働を受け入れながら医療にあたっていた地方の中堅の医師たちです。その医師たちは、従来であれば数年で交代して札幌なり、大学に戻ってきていたのですが、補充の医師がいないために身動きがとれずに戻れなくなってしまっているのです。それで、止む無く退職する道を選ぶ、というような影響が卒後臨床研修制度から顕著になっています。
 
 道庁で医療職トップの技監だった貞本晃一さん(札幌医大大学院修)が、離島(焼尻島)の診療所へ今年(07年)6月に赴任したのは、マスコミで美談のように話題になりました。貞本さんは立派な方ですのでそれも間違いではないのですが、現実的には辛い北海道の医療状況を物語るものです。焼尻島の診療所の事情は1年交代で自治医大卒の医師を派遣してきたのができなくなったためでした。ここにいたるのも焼尻島の医師を根室市立病院に回すという医師不足の連鎖がありました。

(2)医師を取り巻く環境悪化

 医師が不足する事態は地方の自治体病院にも当然ながら波及しています。そのため、診療科の休止、病床閉鎖などに行き着き、収入の道が細くなってしまい、ただでさえ経営の厳しかった状態をさらに悪化させることになっています。
 その一方で経営者側からは、赤字解消に向けて「もっと働いて下さい」と協力要請が出されるのが常です。ここでも医療人の過重労働になっていってしまい、医師が辞職するというような悪しき連鎖が続くことになります。医師にすればバーンアウトする前の自己防衛という側面もあるように思います。
 
 この余波で見過ごせない事態も起きています。地方の病院の消失は、病院だけの問題でないということです。地方では医療機関がその町の産業の一翼を担っているために、医療機関が閉鎖ということになりますと、医療関係者以外にも、出入りしている寝具関係の業者、食堂、食材を納入しているその町の商店、あるいは町の花屋さんまで影響が及ぶのです。

 もう一つ大きな問題に看護師の配置基準の改定問題もあります。厚生労働省が06年に採った「7対1」、つまり「患者7人に看護師1人」という配置基準の導入が与えた影響は大きくて、多くの病院で診療報酬増を狙って看護師の確保に奔走した結果が、地方の看護師不足を招いています。
 なぜ、そんなことになるかと言いますと、従来の患者10人に看護師1人では、入院基本料の報酬加算が廃止されることから大幅減収になってしまうのです。それでなくても赤字に悩まされている病院にすれば「7対1」の制度を採り入れて、少しでも収入を増加させようとします。

 その結果、経営上から看護師の獲得が強い要請になってきたのです。私が目にした光景の一つに道立の看護学校にまで東京大学が看護師の獲得に走る姿がありました。東京大学までもが全国にビラを配布して医療スタッフを募集しているのです。
 届出病床総数に占める7対1の届出病床数(一般病棟)の3年間の推移が前掲の週刊誌にあります。06年5月1日の6.2%が翌年には、14.4%、さらに今年(07年)は23.1%という伸び率です。
 来年度(08年)には診療報酬改定で「看護必要度」の高い病院に報酬加算を限定することになりました。看護師争奪戦の原因は「7対1」以外にもありますが、結果的には地方で仕事をされていた看護師の方々が都市に、大手に引き抜かれていく事態になっているのです。ここでも悪循環に陥っています。

 医療費を3.16%下げるという昨年の国の大方針と、大きな制度変更がタイミング悪く重なってしまった混乱が今日の医療問題を深刻なものにしていると言えます。
   
■喫緊の課題に対応するお話をお聞きしましたが、教育機関としての医大の取り組みについてお聞かせ下さい。

(3)21世紀はチーム医療という形態に

――学長として心がけてやってきたことをお話させてもらいますと、医科大学という教育機関として学生を受け入れ、地域医療を担える医師に育てるという根本の使命を常に意識しております。本学での教育は、若い学生たちに仕事の重要性を理解し、実感してもらうことに尽きるだろうと思います。
 実際には、地域には医療で困っている人たちが少なくないという現実を、現地の空気、現地の言葉を通して、学生たちが学びとってくることから医療人としての自覚、やりがいを見つけることにもなります。これからお話をしますが、学内で座学を中心に学ぶだけでは、医師の使命を十分に理解することは難しいものです。

 そこで学生を北海道の地方に実習生として出すことに力を注いできました。地域医療のプロジェクト研究として保健医療学部の学生たち、つまり将来、看護師や理学療法士、作業療法士になる人たちと医師の卵である学生が一緒になってチーム医療を体験しながら学ぶものです。これは21世紀型の医療の姿を先取りしているものと思います。

 昔のように医師がなんでもこなす時代ではありません。いろいろな人の力を組み合わせて、治療にあたることが患者さんにとっても有益なのです。チーム医療を学生の時に経験することの意味は想像以上に大きいものがあります。実際の学生たちの感想や、その後の学習における取り組みぶりにも、進路を決める際の意欲にも好影響を感じ取っています。

 もう少し詳しくお話をしますと、このチーム医療の長所の一つは、医師の卵にしても理学療法士の卵にしても双方がお互いを良く知り合うことにあります。最初は、双方が違和感を覚えると言います。理学療法を学ぶ側からすると、医師の卵は病気のことは良く知っているけれど、患者の立場には立っていないことに気付くそうです。医学部の学生によくあるパターンです。
 医学生にしますと、看護師の卵の人たちが治療を受けている人たちの生活を良くするためにいろいろと考えていることに新鮮な驚きを覚える、と言います。

(4)患者にも医療人にも有益なシステム作り

 つまり、患者さんを見ている視点が違うこと、発想の違いに気付くことから、治療に当たる側の双方の理解が進み、信頼関係のベースが作られることになります。反対を考えると分かりやすいのですが、こうしたチーム医療実習の訓練がないままですと、双方が互いの仕事に対して尊敬もできないし、そうなれば連携もできない、という事態を招くことになります。このしわ寄せは患者さんに行ってしまいますし、このことは治療にあたっている医療人にも不幸なことです。
 
 実際にはチーム医療実習を釧路、別海町の病院で勉強をしてくるのですが、その報告会での学生たちの発言内容は、この3年間の実施からも地域医療に取り組む覚悟を示すものになっています。今までのような座学で考えていた地域医療への貢献というのと、質的にも大きな進化をとげています。この現地での実習効果は、学生をはじめ、地域からの評価も高く、文部科学省でもこの試みには大変に注目をしています。

 3年間のこの実践にも予算がついてきていたのですが、今年度はさらにバージョン・アップしたプログラムで応募したところ、おかげさまで直ぐに認められました。さらにこの実習を知った自治体からは「うちにも来てほしい」という要望が出されてきています。これは非常にいい動きになっています。報告会には知事にも来てもらいましたが、知事も感激されていました。
 
 学生たちにすれば、現代では身につけなければならない医学の知識も加速度的に増えていますから、それを学ぶだけでも相当なストレスを抱えることになりますし、効率良く学ぶための座学も重要です。でも、そうした学習だけでは観念的な医療人に陥りやすい弊害もあります。「病気を診ることはできても病人を診れない」というようなことです。
 本学では、建学の精神に「医学・医療の攻究と地域医療への貢献」を掲げていますが、21世紀という時代に相応しい取り組みとしてこのチーム医療を今後も充実させていきたいと考えています(編集部注・学長室には毛筆で「建学の精神 一、進取の精神と自由闊達な気風 一、医学・医療の攻究と地域医療への貢献」と揮毫された額がかけられている)。 
           







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