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更新日:2008年2月7日(木)
北海道 食思譚

第10回 ホタテ貝殻が宝になる実例を報告します。


 

柿本雅史 北海道立食品加工研究センター 応用技術部機能開発科長

はじめに

 北海道は、太平洋、オホーツク海、日本海の異なる3つの海域に囲まれており、水産資源も豊富なことから、古くから水産加工業が主要な産業として発展してきました。
 しかし加工場における魚貝類を切る、剥くといた基本的な加工処理を行っただけでも、貝殻、骨、魚皮、内臓などの加工残渣が発生します。それらは、道内各地の加工場から漁業系廃棄物(未利用資源)として排出されいますが、環境保全や循環型社会の推進のためにも、単に廃棄物として処理するのではなく、有効な資源として活用することが大きな課題となっています。
 本稿では、北海道の主要水産資源であるホタテ貝の加工処理にて発生する、ホタテ貝殻の有効活用に関する当センターの取り組みを紹介します。

ホタテ貝の生産状況

 北海道の平成17年度の漁業生産高は、生産量が129万トン、生産額が2695億円、で、全国1位となっています。また、本稿の主役であるホタテ貝では、生産量が38万トン(全体の29.5%)、生産額が690億(全体の25.6%)であり、多くの魚貝類の中で生産量、生産額共にトップの座にあります。今日では北海道の水産業は、ホタテ貝無しでは成り立たないとも言われてます。
 
 思い起こせば私たちの子供の頃、ホタテ貝は高価であり、店頭にもあまり並んでおらず、なかなか食べられなかったと記憶しています。それもそのはずで、昭和50年代前半のホタテ貝の生産量は、現在の1/4程度の約10万トンでした。
 しかし、その後、水産・漁業関係者の皆様のご尽力により「地まき」や「耳づり」方式等の増殖・生産技術の改良などがなされ、平成に入り飛躍的に生産量が増加しました。今日ではホタテ貝が通年手軽に手に入り、美味しいホタテ貝を楽しむことが出来るようになりました。 



写真1 ホタテ貝殻カルシウム製剤
写真2 ホタテ貝殻カルシウムを用いた商品例


貝殻の発生量と研究開発の経緯

 ホタテ貝は、貝柱等をむき身し生食用として生鮮市場に流通されるほか、道内各地の食品加工場で乾燥・冷凍・加熱・調味等の多種多様な加工が行われ、加工製品は国内外に広く流通されています。しかし、食用として利用されている部位は、主に貝柱並びに外套膜(ひも)・生殖腺の一部だけで、ホタテ貝の約52%を占める貝殻は、加工残渣となり漁業系廃棄物として年間20万トン程度排出されています。
 貝殻は、主要産地である網走、宗谷、渡島、根室支庁にて多く排出され、北海道全体の漁業系廃棄物の約44%を占めており、暗渠などの土木資材に約10万トン、カキ稚貝の養殖資材に約3万トン、土壌改良材に約2万トン、飼・肥料に約1万トンが再利用されていると言われています。しかし、まだ多くの貝殻が再利用されておらず、これらの未利用な貝殻の用途拡大のための利用技術の開発が求められていました。
 
 当センターでは、平成11年からホタテ貝殻の有効活用の研究に取り組みはじめ、当時既に、焼成したカキ貝殻カルシウムによる微生物制御に関する研究成果を発表されていた、一色先生(当時農林水産省食品総合研究所、現北海道大学大学院水産科学研究院教授)にご指導頂き、非加熱殺菌技術や抗菌機能評価技術等の習得を行いました。 その後、道内企業との民間共同研究や産官学の共同研究を行い、焼成したホタテ貝殻カルシウムの抗菌効果の試験データを集積することで、その効果について利用する方々から信頼を得るとともに、ホタテ貝殻の各種産業分野における用途の拡大や付加価値向上のための製品や利用技術の開発を進めてきました。

焼成ホタテ貝殻カルシウムの抗菌効果
  
 ホタテ貝殻は焼成工程の有無で、貝殻未焼成カルシウムと貝殻焼成カルシウムに区別され、カルシウム強化などの目的で古くから食品添加物として利用されてきました。未焼成のホタテ貝殻の主成分は炭酸カルシウム(CaCO3)で、これを1000℃程度で焼成すると、主成分である炭酸カルシウムは、熱分解反応により酸化カルシウム(CaO)に変化し(CaCO3→CaO+CO2)、さらに酸化カルシウムを水と反応させると、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)になります(CaO+H2O→Ca(OH)2)。
 
 3種類のカルシウム化合物のうち、酸化カルシウムと水酸化カルシウムが抗菌機能を発揮することが知られています。
 そこで、当センターは、共同研究機関である北海道共同石灰(株)製の2種類のホタテ貝殻カルシウム製剤(シェルライムHTO:主成分酸化カルシウム〈写真1左〉、シェルライムHT:主成分水酸化カルシウム〈写真1中〉)の抗菌効果について検討しました。その結果、サルモネラ、大腸菌O−157などの食中毒菌や食品を変敗させる細菌、酵母、カビなど、試験に用いた15種類の微生物に対し抗菌効果を有すことが明らかになり、その効果は、比較試験に用いた化合形態が同じである試薬用の酸化カルシウム、水酸化カルシウムと同等でした。
 
 これらの結果は、焼成ホタテ貝殻カルシウム製剤の抗菌効果を活用した技術や製品開発を行う上で貴重な基礎データとなり、効果の信頼性を向上させ、ホタテ貝殻が有する抗菌機能を多くの産業分野の方々にアピールすることに大いに貢献しました。
 なお、焼成したホタテ貝殻カルシウムの抗菌メカニズムについてですが、酸化カルシウム、水酸化カルシウムの水溶液はアルカリ性であり、pHの上昇が微生物の殺菌または増殖抑制の主要因と考えられており、それに加えてカルシウムイオンの影響や、近年酸化カルシウム溶液中で存在が明らかにされてきた、活性酸素種の作用が組み合わさった効果によるものと推察されています。

生野菜に対する殺菌効果の検討
 
 ホタテ貝殻カルシウム製剤(主成分:水酸化カルシウム)を0.15〜0.30%の濃度で水に添加し作成した懸濁液(水酸化カルシウムは水に難溶性で白色懸濁液となります)に、数cm角にカットした市販のキャベツを10、30分間浸漬処理した後の一般生菌数の変化を測定することで、キャベツに対する殺菌効果を確認しました。
 その結果、浸漬時間の延長にともない生菌数は減少し、0.30%の懸濁液では10分間の浸漬で初発菌数の約1/30に、30分間の浸漬で約1/100に減少しました。
 
 ホタテ貝殻カルシウム製剤の懸濁液は、非加熱食品の日持ちを向上させるための鉄則である初発菌数の低減を可能とし、生野菜や生鮮魚貝類などの洗浄工程における安全安心な殺菌技術として利用されています。

ホタテ貝殻カルシウム製剤の造粒品の開発

 ホタテ貝殻カルシウム製剤は水に低溶解性で微粉末であるため、水に添加すると白色懸濁液となります。そこで、透明なカルシウム液を作成するのに必要な、水中で崩壊しにくい造粒品を道内企業と共同開発しました(北海道共同石灰(株)製シェルライムHT−PE:主成分水酸化カルシウム〈写真1右〉)。
 本品にて作成した透明なカルシウム液のカットキャベツに対する殺菌効果は、100ppmの次亜塩素酸ナトリウム溶液やホタテ貝殻カルシウム製剤懸濁液と同等であり、食品工場の洗浄殺菌工程で広く利用されることを期待しています。

その他の用途と製品開発

 天然素材であるホタテ貝殻カルシウムの抗菌効果に着目した企業では、数々の応用製品の研究開発が行われており、ここで一例を紹介します。
 本州の樹脂メーカーでは、ホタテ貝殻製剤を添加したポリエチレン製の袋を造り、ビール滓などの家畜飼料を入れる防カビ飼料袋として販売しており、また大手製紙メーカーからは、ホタテ貝殻カルシウム製剤を用いた抗菌紙が開発されるなど、食品分野以外の産業においても色々な製品が開発され用途が拡がっています。 
 抗菌効果以外の活用例としては次のようなものがあります。貝殻を洗浄殺菌し、微粉末化した未焼成貝殻カルシウム(主成分:炭酸カルシウム)が、カルシウム強化、食品の弾力の増加、硬さ等の食感の改善など品質改良の目的で多くの加工食品に使用されています(写真2)。
 さらに、共同研究機関である北海道立工業試験場らの研究グループからは、ホタテ貝殻が持つ白さや粒子特性を活かした製品開発がなされ、横断歩道の白線に用いる道路標示塗料や学校の板書に用いるチョークが実用化されています。

おわりに

 ホタテ貝殻は、北海道の海が生んだ貴重な資源であり、産学官の多くの方々の創意工夫により、新たな利用技術や製品開発がされ、有効な資源として利用することが可能となっています。また、抗菌機能を有するホタテ貝殻カルシウム製剤は、道内外の企業はもとより、韓国などの近隣アジア諸国からも注目され、利用されはじめています。 ホタテ貝殻の利用技術や製品開発は、食品産業の振興や環境負荷の低減に貢献できるため、当センターでは今後とも研究開発を一層進めていくとともに、利用技術の移転、普及に努めていきます。
                  
【共同研究機関】
北海道共同石灰株式会社、北海道立工業試験場、九州大学、中央大学、独立行政法人土木研究所寒地土木研究所
【参考資料】 
・北海道水産林務部 ホームページ
 「北海道水産現勢」
http://www.pref.hokkaido.lg.jp/sr/sum/

 「漁業系廃棄物情報」
http://www.pref.hokkaido.lg.jp/sr/ssk/


・「カルシウム製剤による微生物制御の可能性について」一色賢司、栖原浩、水内健二、徳岡敬子 日本食品工業学会誌、Vol.41(1994)
・「酸化カルシウムを主成分とする焼成ホタテ貝殻粉末による枯草菌芽胞の殺菌」
 澤井淳、大橋沙由、三好啓之、四日洋和 防菌防黴学会誌、Vol.35 No1.(2007)

柿本雅史(かきもと まさし)
 小樽市出身 昭和60年北海道大学農学部農芸化学科卒業、乳業会社を経て、平成6年北海道入庁、同年(財)オホーツク地域振興機構出向、平成9年食品加工研究センター、現在に至る。




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