更新日:2007年12月13日(木)
特集
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9. 「ミセス・ワタナベ」という隠語 10. 企業物価指数に見える日本産業のジレンマ 11. 会場からの質問に答える ・ プーチンのこれから ・ 年収200万円と若い世代 12.補遺:「苫東」を持つ北海道が宝の山に 8.プーチンに率いられるロシアの高揚感 そのロシアですが、急速に変わってきています。トヨタが、そのサンクトペテルブルクでカローラの2万台生産を始める、というので大変な話題になっていますが、日本企業の進出も目を見張るものがあります。去年まで3社程度しかなかった日本企業が、40社を越すようになっています。 エネルギー帝国主義という言葉が出てくるほどにロシアのエネルギー生産力が一気に肥大化してきています。これが世界を突き動かす大きな要素になってきています。 最新のデータでは、天然ガス(石油換算)と原油生産でロシアは、2005年に2145万BDで世界一でしたが、去年は2300万BDを超えただろうと言われています。しかも、石油価格の高騰です。この数ヶ月での高騰もスゴイのですが、あの9.11の直前のWTIでの原油価格が27ドルだったものがこの6年で3倍を超えているのです。 これがロシアの追い風になっています。生産量は増える、価格も上がるという状況下です。ロシアは以前ですとウクライナなどに周辺国に通常より安い価格で供給していたのですが、これを止めはじめていますが、そうした事も含めてロシアのオイルマネーは外貨獲得として2500億ドルを超えたと見られています。今年はさらに増えるでしょう。 このようにロシアの存在感がますます加速しています。このロシアのオイルマネーが、世界を動かしはじめています。ロンドンで起きているのは、その国の産業の実力以上にロシアやアラブのオイルマネーが注ぎ込まれるとどうなるか、という先行モデルが演じられているのです。ロンドンでは、金融と不動産だけが賑わっていて、製造業がどんどん縮小していっています。 9.「ミセス・ワタナベ」という隠語 金融が過剰流動性と言われるような動きを示すなかで、サブプライム問題が噴出しています。悪知恵の資本主義といっていいような、無から有を生じさせるようなことを優秀な若手を金融界に誘導して、考えさせて誕生したのがサブプライム・ローンです。ハイリスク・ハイリターンであることは言われていても、誰もその実像をつかめないままに走ってきてしまいました。その行き場のない過剰流動資金が膨らんで原油市場に流れています。 もう一つ、ホットマネーについては、「円キャリー」の問題があります。日本は現在の0.5という異常な低金利を続けています。12年続けて公定歩合が1%を割る事態です。アメリカは外からお金が流れ込んでくる状態にしておかなければ貧血状態になりますから、金利はアメリカが高いという政策を採っています。日本とは約10倍の金利差をつくっています。この金利差を利用して、日本で円資金を調達できる人は、国境を越えて運用すれば利ざやを稼げる状態です。これが「円キャリー」です。国際社会では1兆ドルの円キャリーと1兆ドルのオイルマネーが飛び交っています。 この円キャリーの象徴的な言葉として、「ミセス・ワタナベ」という言葉が世界の国際金融の場で隠語として使われています。これは日本の賢い主婦という意味合いですが、「亭主の給料も上がらない」「銀行に預けていても利子もつかない」状況で、主婦が自ら外貨預金などの勉強しながら運用をし始めている話です。 先日も東京のお台場で開かれた投資フォーラムの基調講演をしたのですが、会場には1万5千人もの人が参加しているのです。しかも、来ている人たちは欲と道連れの中高年ではなく、20代、30代の女性が多いのです。そこにはカリスマと称される投資コンサルタントの女性がいまして、取り囲むようにして人々が殺到している光景がありました。各金融機関が集めている資金は、この「ミセス・ワタナベ」が支えているのですが、この規模が兆円単位になって、日本から外へ外へと出て行っています。 日本から出ていった資金は、アメリカのヘッジ・ファンドなどに流れていっているわけです。それが今度は世界的には安い日本の株に向かってきています。どうして、そうなるかと言えば、日本人が日本の企業に投資をしないで、外に投資をしているからです。 私は東京証券取引所のアドバイザリー・ボードに入っていますが、ここの取引状況は、外人投資家が日本の上場企業の株の4割に迫っている状態です。つまり外国人が日本の株をささえ、日本のお金が外に流れて、それを使って外国人が円安感もあって日本企業のM&A(合併・買収)を仕掛けてくるという奇妙な構図になっているのです。 さらに今後、中国とインドに集積されだしている外貨準備金の動向に目を離せなくなっています。中国は日本をはるかに凌駕して1兆4千億ドルに達しています。このうち、2000億ドルを中国投資ファンドの会社を作って、いよいよ海外の企業買収や金融資産の運用を始めるとつい最近発表したところです。しかも、そのパートナーが、ブラック・ストーンということです。中国の資金が、日本の技術力をもった中堅どころの優良企業に対して100社程度であれば2割程度のシェアーで株取得して自分の傘下にするなら1000億円程度で可能と言われています。 この問題は今後、必ず出てきます。日本が営々と額に汗して積み上げてきたお金が、自国の将来に対して戦略的に有効に使われているとは言えないことは確かです。つまり「円キャリー」の問題が、そうした日本の根幹を揺さぶるものになってきているのです。 そこで日銀が金利を上げるような動きを期待する向きもありましたが、参議院選挙の結果もあって、金利については手をつけることができずにいます。世界からは、何とかして正常にしてほしいという声があっても応えることができない現実は、日本と世界の隔絶感を物語るものです。 10.企業物価指数に見える日本産業のジレンマ どうしてそうなるのか、前回もお話した「企業物価指数」の8月水準の数字が明らかになりました。時系列的に申しあげます。ここに金利引き上げのできない理由があります。 2000年の価格水準を100としたもので、前回からの時系列で言いますと、3ヶ月の間に「素材原料」が、189.1→192.8、「中間財」が、114.3→115.0、最終財92.2は同じということです。2000年の水準に到達していないのです。日本の産業は構造的には川上インフレと川下デフレの傾向をますます強めています。一例として、ワープロが登場した時には、1台300万円もしたものが、今日ではパソコンにとって代わられて、そのパソコンも1台10万円以下で売られるような川下デフレです。これほど耐久消費財の世界は変化しています。 景況感をどこの立場で見るかによって「インフレ」と「デフレ」の認識が違ってくるのです。日本の国際社会におかれている立場からは、この低金利が世界に迷惑をかけているということになります。一方、川下にいる産業の立場からは、金利上げなんてとんでもない、ということになり、日本は股裂き状態になるのです。 今日、原油が高騰していても日本が73年の石油パニックのような事態に陥らないで済んでいる背景も知っておきたいところです。一つは、為替が円高にシフトしてきていることです。73年の場合はドルレート、271円でした。ですからこの間、円は匍匐前進のようにして円の国際競争力を倍にも高めてきたのです。産業力があったからこそ、今日のように外貨を稼いできたのです。産業の実力を高めることで円の実力も上ってきました。 ここが今日のイギリスと違うところです。さらにエネルギー利用効率の改善では日本は、米国の2倍、中国の9倍の力をもっています。また、ガソリン税の格差もドイツほどの高さではないけれど、アメリカのように低くもないために、原油が値上がりをしてもショックはダイレクトに響かないようになっています。 しかし、日本人は「100ドル原油」を覚悟して、それに耐えうる産業構造を創っていけるのか、その議論が必要になってきています。環境問題も「脱・京都議定書」という次のルール作りが始まっています。この流れの中で、来年の洞爺湖サミットも控えて、日本は自分自身が産業構造を変えていく戦略をもっているのでしょうか? この秋、私たちの眼前に現われはじめた大きな問題にわれわれはどのように取り組んでいくのか、真剣に対峙をしなければならないだろうと思います。 11.会場からの質問に答える ・プーチンのこれから プーチンについては、相当に懸念される材料をはらんでいます。まず、プーチンのロシア国内における評価の高さです。「帝政民主主義」という言葉があるのです。矛盾する言葉ですが、ロシア人の心の風景として「なぜ、あれほどプーチンを支持するのか?」ということです。かつて新興財閥団を片っ端からつぶしながら、エネルギーという世界へのグリップを強めて、エネルギー帝国を築きだしているように見えます。 沖縄サミット(2000年)前年の12月にエリツインの後を引き継いで登場してきたプーチンと、今日のプーチンでは、おかれている環境が激変しているのです。就任後、原油の価格高騰、アメリカの失政などさまざまな追い風を受けて、プーチンはロシアを蘇らせたといってもいいのです。プーチンの今後についての噂は、いろいろとあります。どれも荒唐無稽とはいえず、プーチンの長期院政の可能性は十分にあります。 これらは、民主化という流れとは程遠い動きですが、それをロシア人はなぜ支持するのか、という問題です。そこに「大ロシア主義に回帰」するロシアの気持ちが見えてきます。私の会社で仕事をしているモスクワ大学日本語学科卒のロシア人の話などを聞くと、冷戦が終わっての十数年をどのような思いで生活してきたのか、同情を禁じえないものがあります。 その反動ともいうべき姿の一つが、モスクワの車のひしめいている光景です。東京の比ではありません。今まででしたら30分で行けるところも3時間を覚悟しなければならないほどです。それほど車が売れているのです。オイルマネーで潤っているのです。モスクワにできている巨大ショッピングモールは、アメリカで見慣れているものにとっても驚く規模です。それほど消費に抑圧されていた国民が、過去の反動で消費を謳歌している今ということができます。 この状況は、ある種の過熱状態です。中国が落ち着いて見えるほどです。21世紀を迎える直前のあのロシアをわずか6年でここまで国力を回復してきたプーチンへの評価は否が応でも高まっている、ということができます。 そこでです。そうしたロシアと向き合う日本、あるいは北海道は相当の覚悟が求められていることは間違いないでしょう。大変な高揚感の中にあるロシアに対応することは、脅威にもなりますがチャンスでもあります。ビジネスをする上では、サハリンを含めて極東ロシアとしっかりと向き合うには、点と線ではなく、面としてでなければならないでしょう。 ・年収200万円と若い世代 若い世代のことについては、前回の講演でも「ワーキング・プア」の話をしていますが、アメリカでも年収約2万ドル以下が、貧困層になります。この構造は、国境を越えた雇用がグローバル化とIT普及によってもたらされているものです。前回の繰り返しになりますが、極端な例として松坂投手のように余人をもって代え難い人にはハイエンドの年俸が用意され、だれでもできる仕事については、国境を越えたローエンドのところに雇用条件は引っ張られてしまいます。 年収200万円の人の働くイメージは、時給千円前後の仕事で誰がやっても同じとみさされる均一化した内容のものです。極端に言いますと、読み書きができなくても次世代バーコードが普及すれば、労働力の平準化が実現して、アウト・ソーシングが可能になるのです。これは企業の側から言えば、コストを下げることができ、余人をもって代え難い人材を育てることの負担を軽減させたものとして歓迎されるのです。いずれ、今後はレジの人も必要でなくなる事態がやってくるでしょう。そして、中間管理職も不必要になってきています。情報の結節点としての中間管理職は、IT化にともなって不用な職種になってきました。 ですから、若い人は、自分を高める努力をしながら余人をもって代え難い存在にしていくことに気付くべきでしょう。部品の一つになってしまうと、そこには仕事の伝承、継承が求められないでしょうし、平準化した仕事から労働を通じた喜びなどを見つけるのも難しいでしょう。 学生たちは自分の個性を磨かなければならないとか、大学側も個を確立した人間を育てなければならないとは、熱く語っている昨今です。しかし、冷静に社会を見渡すと、気付くはずです。経済社会の現場が個性のある多様化した価値観をもった労働力を求めているだろうか。自分たちを受け入れる現場が、個性化した若者を必要としているのか? バーコードをなぞる程度の仕事か、それに近い単純な仕事が待っているだけではないのか、と。 自分たちの目の前に残された仕事は、一部のエリートを別にすれば、積極的に取り組みたい仕事とも思えないようなものしかないとすれば、自分探しの旅にでも出ようか、という流れがあっても不思議ではありません。そして、ますます個がアトム化、ばらばらな状態に向かっています。 そこでです。絶望的な話を披露しているわけではありません。その現実にしっかりと立ち向かうことです。自分で問題意識をもって、その仕事を通じて自分が高まったり感動を覚えるような場を求めることです。具体的には、ダブル・ジョブを考えたいのです。 生活を確保するために費やす労働と、自分を充実させ自分を高めていくクリエイティブな実力をつけることです。例えば、自分が本当にしたいと思っている活動があるなら、NPOでも、環境問題でも自分の持てる時間をそこに注ぐことです。社会的な課題、時代のもっているテーマについて自分のスキルを磨いて、蓄積をしていくことでシナジーを生むようになればベストです。 私自身は、早大の3年、4年のころは、学生運動の嵐が吹き荒れていて、一般学生と一緒に大学の変革を真剣に考えていました。今でこそ私は「リベラル派」などと言われますが、当時は「右翼秩序派」と言われる中で真剣に行動していたものです。しかし、やがて大学に機動隊が入って正常化なるものが進んでいき、仲間は就職活動に向かっていき、残ったのは6名でした。 この2年間の勉強不足をそのままにして社会に出てもマズイと考え、大学院に行きました。そこから私が考えてきたことは、会社に籍をおいて仕事をしている以上、そのゲームの中で一定以上の評価を得るような人間になることでした。ここで斜に構えて拗ねてみても始まらないのです。しかし、組織に属してそこに埋没しているだけでは、これも又問題があるだろうと考えていました。 そこでマージナル(境界)なところに立って、外から客観的に自分の会社なり、自分を見つめる視点も確保しようと務めたのです。現在のように大学で教えるような立場も、若い時からものを書き始めたのもそのためです。もう一人の自分を絶えず意識するようにしてきました。これは、私の例ですが、人それぞれに方法はあるだろうと思います。それぞれが、自分なりのパターンとして、生活を成り立たせる仕事と、自分を高める場面、テーマを深めることを追う必要があると思います。一番、避けたいのは、ワーキング・プアの問題を被害者面して「時代が悪かった」などと他人のせいにして現況を受け入れてしまうことです。ここは、歯を食いしばってでも努力すべきです。 12.補遺:「苫東」を持つ北海道が宝の山に 編集部注:この部分の寺島氏の発言は、平成19年7月11日「国土審議会北海道開発分科会。第3回計画部会」議事録(22頁〜23頁)の関連部分を抜粋し、編集部で文意を理解しやすく加筆したものです。 私は、ウラジオストクとの極東ロシアとの物流面で、航空路の開設などをもっと展開すべきでないかという話を申し上げましたが、同時にその東アジア連携の基点としての物流ベースとしては港が非常に重要で、苫東のある北海道は宝の山だということにやがて気づくだろうと思っています。苫小牧港はそれほど重要なのです。理由は北米大陸と大中華圏との物流が日本海に入ってきて日本海物流がどんどん太くなって、釜山トランシットという形になれば、日本の港に寄港する後背地の産業構造を構想していけば、苫小牧のロケーションは、まさに日本海物流を迎え撃つ港として大変に恵まれた地位にある状況になります。アジア連携の基点としての港湾と空港を視界に入れながら、千歳と苫小牧が非常に近いことも意味がありますが、北海道にとってこのキーワードが重くなると思います。 加えて後背地の産業構造に話を進めますと、アジア大移動時代が迫っている状況下で、いよいよ日本人が立ち向かわなければいけないのは、自動車以降のプロダクトサイクルというテーマなのです。(中略) これはシンボリックな話として申し上げますが、日本は、完成体の航空機という意味において、YS11以降、プロペラ機でさえ旅客機を作っていません。アメリカの産業政策の担当者と議論すると気づきます。彼らはドイツと日本にだけは航空機は作らせたくなかったというのが、戦後の産業政策の中心にあります。というのは、零戦を作った日本に航空機などを不用意に作らせて航空産業が育ったらまずいという空気が埋め込まれていたことは指摘できるでしょう。(後略) ≪おわり≫ |
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