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更新日:2007年11月12日(月)
ぶらりしゃらり

第115回 「由緒正しい」感じ



轡田隆史 エッセイスト



題字:筆者
  神宮の回廊(写真:石井一弘)


 「新潟テレビ21」の新しいニュース番組(毎週土曜朝)のコメンテーターとして、月に何度か新潟に通うようになった。
 亡父が新潟の柏崎の出身だから、ぼくも半分は越後人なのである。先祖は柏崎の回船問屋だったらしい。
 そのせいか、小樽で雑穀商を開いた時代もあるらしくて、この線をたどれば、ぼくは北海道にもつながるわけだ。
 
 秋田か山形の沖で嵐のため船が遭難したとき、積み荷のことよりもなによりも、船員の安否について「全員無事」と打ってきた電報を、ずっと昔、見たことがあると、亡父の兄貴がぼくに語ってくれたことがある。
 「人命第一」というのがうれしかったよ、と一杯機嫌で気炎をあげていたっけ。
 ぼくは東京生まれであることが、何だか淋しくてならない。つまり、帰るべき田舎がないのである。だから、いささかムリヤリにでも、新潟や北海道につながることができると、とてもうれしいのだ。
 
 ぼくの姓である「轡田」は富山の母方のもので、特に神主に多いのだそうである。いつだったか那智の火祭りの取材に行って、那智大社の宮司さんに「あなたの姓は富山の神主にいますよ」と教えられて、ちょっとビックリした。
 となるとごくの想像と妄想は、回船問屋と神主の間を行ったり来たりすることになる。あるときは船の舳先にスックと立ち、またあるときは、神前で厳かに祝詞をあげる。

 どちらもワルクないな、と思う。回船問屋の線でゆくなら、小樽は身近になるし、ひょっとすれば、室町時代に、暴虐の足利将軍によって佐渡に流された、能の大成者、世阿弥につながるかもしれない。
 世阿弥は多分、若狭の小浜から北前船で運ばれたのだろう。その船はきっと小樽や松前あたりまで往来していたに違いない。わが祖先の船だったらいいのに。

 神主の思い出でいえば、亡父と酒モンダイがある。あの戦争が終わって間もないころ、まだ食料も乏しく、ましてや酒なんぞ貴重品であった。
ときにご機嫌で帰って来た父が告白するには、遊人の神主のところで飲んできたのだという。神主には奉納の酒があるからなあ、といささか申し訳なさそうな口ぶりだった。つまり「御神酒」の「盗み飲み」ということになるだろうか。こんなことを書いたら、神主さんに叱られるかもしれないけれど、いまは昔の話なのである。お許しあれ。
 歳をとると、自分のルーツが気になるそうだけれど、どうもぼくのルーツ探しはだらしがない。 
 亡き母は、神田の生まれを自慢していたけれど、酒はダメだし、ウナギがダメときた。
 これじゃあ「神田の生まれ」が泣くよ、とよくからかったものである。
 このごろ「由緒正しい」という言葉が気にいっている。東京でウロウロしているとき、いわゆる標準語に「由緒正しい」という感じを受けたことがないのに、東京を離れて、地方のみなさんに接すると、「由緒正しい」という感じをすごく受けるのだ。

 どうもうまく説明できないのだが、ぼくのような怪しい標準語は、ウサンクサイ。新潟や北海道に何らかのつながりが持ててうれしいのは、そのせいかもしれない。勝手につながりを持たれた方は迷惑かもしれないが。




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