更新日:2007年11月13日(火)
北海道 食思譚
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はじめに 秋から冬、これからの季節食卓の真ん中には魚貝類やお肉、野菜がふんだんに盛られたお鍋が湯気の向こうに鎮座し、手元には熱燗が。食事がより一層おいしく感じます。このお鍋に欠かせないのが「きのこ」です。その他にもきのこは色々姿を変えて私たちの食卓を彩ってくれます。しかしながら、常に脇役。決して主役にはなれませんでしたが、ここ最近きのこは間違いなくスポットライトを浴びています。そう、「健康食品」として。 今回は意外と知らない「きのこ」について紹介いたします。 「きのこ」とは きのことは学術的な分類用語ではなく、「担子菌類や子嚢菌類のうち比較的大きな子実体を形成するものの通俗的な名称」です。つまり植物ではなくカビや酵母の仲間なのです。そのきのこを考えるとき、担子菌類・子嚢菌類で考えるより軟質菌・硬質菌で考えた方がわかりやすいかもしれません。つまりシイタケやエノキタケの様な食べられる軟質菌とメシマコブやサルノコシカケの様な木材のような硬質菌です。 この二つの菌を栄養成分の面でみてみましょう。軟質菌112種類、硬質菌12種類について一般成分が調べられています。軟質菌では水分が90%、残り10%が固形分で内訳はたんぱく質が2.5%、脂肪が0.8%、可溶性無窒素物が5.2%、粗繊維が0.8%、灰分が0.7%となっています。 一方、硬質菌は水分が15%、残りの固形分のうちたんぱく質が7%、脂肪が2.4%、可溶性無窒素物が55.2%、粗繊維が19%、灰分が1.4%となっています。またおいしさの指標になるグルタミン酸、アラニン、アスパラギン酸、アルギニン、バリンなどの遊離アミノ酸は軟質菌で多くみられます。 きのこに比較的多く含まれるビタミンはビタミンB2、ナイアシン、エルゴステロールです。ビタミンB2はリボフラビンともいい動物の成長に不可欠で、欠乏すると粘膜の炎症(口唇炎、舌炎、結膜炎など)を起こします。ナイアシンはニコチン酸とニコチン酸アミドの総称でビタミンB3とも言われ、皮膚炎や口内炎を予防します。エルゴステロールはビタミンDの前駆体でカルシウムの吸収を助けます。 このように、きのこ(軟質菌)には遊離アミノ酸やビタミンが多く含まれ、意外と栄養価が高いのです。もちろん繊維も豊富なため、身体によい食品といえるのではないでしょうか。 とは言ってもやはり食品。「食べて美味しい」のが一番です。「旨味」として日本人になじみ深いのはカツオブシのイノシン酸、昆布のグルタミン酸、そしてシイタケ(きのこ)の5’-グアニル酸です。特に面白いのは5’-グアニル酸で、新鮮なきのこにはほとんど見られないのですが、熱水抽出液に多量に見出されます。これは加熱などの調理過程で生成してくるのです。 余談ですが、ビタミンで述べたエルゴステロールは紫外線(日光)に当たることによりビタミンDに変化するため、日干しで作る干しシイタケは生ものよりビタミンDを多量に含み、その干しシイタケでダシを取ることで旨味である5’-グアニル酸をたくさん得ることが出来るのです。 食べられるきのこ? 毒きのこ? わが国には数千種のきのこが自生しています。名前がついているのが約1,500種、そのうち食べられるきのこは約700種、逆に毒きのこは40〜50種と言われています。厚生労働省によると平成18年までの5年間できのこによる食中毒の発生件数は280件、患者数は987名で、うち7名が亡くなっています。中毒事故が多いきのことしてはツキヨタケやイッポンシメジ、クサウラベニタケ、カキシメジなどがあげられます。 元日本菌学会会長の故今関六也先生は毒きのこを相撲の番付に見立ててランキングしており、横綱はドクツルタケとシロタマゴテングタケ、それにタマゴテングタケ、張出横綱にはコレラタケとニセクロハツ、大関にはドクササコ、張出大関にベニテングタケとテングタケ、関脇はツキヨタケ、張出関脇にニガクリタケ、小結にクサウラベニタケとイッポンシメジとしています。 では毒きのこに見分け方はあるのでしょうか。残念ながら確実な見分け方はありません。よく、「縦に割けるキノコは食べられる」、「毒キノコは色が派手。地味な色で匂いの良いキノコは食べられる」、「銀のスプーンが変色しなければ食べられる」、「虫が食べているキノコは食べられる」など言われていますが、これらには何の科学的根拠もありません。 これらの話が広まった背景としては、明治初期の官報に一部で流布していた俗説が真実であると誤認され、掲載されてしまったためであるとも言われています。結論として、毒きのこを見分ける方法は、毒きのこを知る以外はない、ということです。 なお、シメジの一種にハエトリシメジというきのこがあります。その名の通りハエに対する殺虫効果のある成分が含まれているのですが、その成分はトリコロミン酸といい、ヒトにとってはグルタミン酸などよりはるかに強い旨味成分なのです。面白いですね。 「きのこ」の機能性 よく知られているのが抗腫瘍作用です。サルノコシカケのような硬質菌に多く見られ、マンネンタケからテルペノイド類、カワラタケからステロイド類、さらに多くのきのこから多糖類であるβ-グルカンなどが活性物質として単離され研究されています。 特にシイタケから得られたレンチナンやスエヒロタケから得られたシゾフィラン(両者ともβ-グルカン)などは医薬品として認可されています。またマンネンタケエキス中には血圧降下作用のあるガノデリン酸が、シイタケから見つかったエリタデニン(レンチナシン)には降コレステロール作用と血圧降下作用がラット実験で確認されています。他に抗炎症作用や降血糖作用、抗ウイルス作用などが確認されているきのこもあります。 しかし、これらはほとんど動物実験または試験管内での実験結果であり、ヒトに対する効果の有無は別の話です。実際、レンチナンやシゾフィラン、クレスチン(カワラタケから抽出。後に単体使用では効果無しとされています)以外日本では医薬品として認可を受けていないので、『きのこでガンが治る』という訳にはいきません。薬でもないのに「病気が治る」と言うと「薬事法違反」になります。しかし食物繊維が多く、また動物実験とはいえ一定の効果が見られるのもまた事実です。結論については今後の研究に期待しましょう。 おわりに 「食品」には1次機能(栄養価)、2次機能(嗜好性)、3次機能(生理活性)という3つの機能があります。きのこは1次機能にやや劣りますが、他を兼ね備えた有望な機能性食品素材と言えます。しかし機能性に着目するあまり「身体に良いから食べる」では、サプリメントと変わりありません。何より美味しく食べてこその「食品」です。美味しいものを食べてストレスを取り除けば身体の免疫力もアップします。旨味も十分。シイタケ、エノキタケ、エリンギ、キクラゲ、歯ごたえも千差万別。これからの季節、いろいろなきのこを楽しんで、ヘルシーライフをエンジョイして下さい。 参考図書 「キノコの事典」、中村克哉 編(朝倉書店、1982年) 「きのこの利用−きのこの生物学シリーズ1」、川合正充 著(築地書館、1988年) 「キノコの化学・生化学」、水野卓、川合正充 編(学会出版センター、1992年) 「きのこ学」、古川久彦 編(共立出版、1992年) 「きのこ図鑑」、本郷次雄 監修(家の光協会、2001年) 「キノコは安全な食品か」、小川真 著(築地書館、2003年) 渡邉 治(わたなべ おさむ) 釧路市出身。1990年、東京理科大学理工学部応用生物科学科卒業。同年、道内民間企業入社。1991年、北海道入庁。北海道立工業試験場食品部配属。1992年、北海道立食品加工研究センターに異動。応用技術部食品工学科、企画調整部企画課、加工食品部畜産食品科を経て現職。専門は食品機能化学。農学博士。 |
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