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更新日:2007年10月15日(月)
ブラキストン線

第148回 読むことと見ること 見ることと見えること (粕谷一希・評論家)



枝組み「球XI」イラスト:松井茂樹
活字文化はどうなる

 IT革命の進行で、人間の社会生活は根本的に変革を強いられている。朝日・日経・読売の販売面での提携もそのひとつ。もはや、個別には宅配制度を維持できなくなってきているのだ。
 
 問題は「IT革命の出現で、もはや既存のメディアは必要ない」という、ホリエモン君の発言は本当なのかということ。現代人は誰もが自問自答してみる必要がある。新聞や雑誌はもはや消滅する運命なのか。書籍もまたこれまでの形態での発行は不可能になるのか。またテレビ局も今日のキー局の支配は終わり、無数の画像の発信が可能になり、一種のアナーキー状態が現出するのか。
                   *
 20世紀は国際政治の世界では、前半は二度の世界大戦と二つの共産革命があり、後半は米ソの対立を軸とした冷戦の時代であった。また、技術文明史的にみれば、自動車、飛行機を中心とした交通革命の時代であり、無線や電話・ラジオ・テレビ・映画の発達による通信革命の時代であった。それは工業社会から情報社会への移行を物語っているが、情報という不定形の存在だけに問題が捉えにくい。

 人類史上、文字文化は人間の営みの基礎を構成してきた。木版画から活版へ移行して印刷技術の進歩で大量生産、大量流通の時代がきた。しかし、それは文字文化の普及に役立ったわけで、文字文化を破壊したわけではない。

仮想現実と精神医学

 けれども、テレビの出現やIT革命は性格が異なる。テレビの出現で人間はイメージを気にするようになり、政治家はタレントと似てきた。かつて人間は理念(イデア)を求めて生きたが、今日の人間は他人がどう見るかを気にする。本を読むこととテレビを見ることは、人間の神経の使い方としてかなり異なる。
  
 書物は文字を介して人間の感受性、思考力を鍛える。テレビは画像と音声を発信して、仮想現実を提供する。ドラマ・ドキュメント・ショウのいずれも、裏側で演出者が構成したものでありながら、現実の日常と等しく見える。しかし、焦点をどこに絞るかによって事象は異なる。視聴者は最初から最後まで観客であって役者ではない。
 
 読む行為と見る行為は密接に関連しながら本来的に異なる側面をもつ。雑誌もグラビアが増え、見る頁のない雑誌は少なくなったが、読む部分のない雑誌はもはやチラシや広告であって雑誌ではない。「見て楽しく読んで面白い」がこれからの主流を成してゆくだろう。
 読む行為は基本的にひとりの行為である。批評を通して相互交流はあるが、もとは孤独な営みである。これに対して見る行為は、映画であれ、テレビであれ、あるいは芝居を含めて、家族や仲間と一緒の気分的なものである。読むことは鍛えられることによって無限に深化する。見ることも観ることに変わる。直観力は大切な機能だが、最近は直観を直感と書くことが多くなった。観客は感じているのである。

 これらに対して、『見えてくる』世界がある。無意識の領域で人間は常に漠然と見えてくる世界を生きている。どうもITの世界は、この無意識の世界を拡大してゆくのではないか。それは精神医学の世界に近づいてゆくようだ。さらには犯罪などを通して人間の解体ともつながらないか?









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