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更新日:2007年9月20日(木)
特集

「北海道生活の質」と金融常識(1)上野正彦・日銀札幌支店長



上野正彦 日本銀行札幌支店長

プロフィール 1953年、札幌市生まれ。北海道大学(経済学部)卒業後、日本銀行に入行。考査局考査課長、新潟支店長、静岡支店長を経て、2006年8月より札幌支店長に着任。「しゃりばり」には299号で初登場。

<本稿は、7月21日(土)に札幌市内で開催された金融の基本を知ることを目的にした集まりの講演記録である。編集部で原稿化したものを演者の了解を得て掲載する。>

■ 北海道に暮らす人々の生活をいかに向上させるのか、夕張の財政破綻がクローズアップされるが、道民一人一人の日々の家計をしっかりしたものにするためにも、私たち自身が「金融」、あるいは「お金」のことについて、もっと賢明な扱い方を知っておきたい。そこで日本銀行札幌支店長による「金融の基本」入門講座である。

全体構成
(1)金融からみた日本の将来
・ 複利で考えると20年後の格差は絶大
・ 国の経済成長は開放度次第
・ 個人のグローバル化と「ホームバイアス」の存在
(2)「経済的自立」を考える
・ マネーライフの代表的パターン
・ まだ日本の社会保障は恵まれているという事実
・ 金融リテラシーを身に付け、クオリティ・オブ・ライフの向上を
(3)資産運用の8ヶ条
・ 家計の基本方程式を理解する
・ 100年に一度のリスクを想定する
・ 運用成績は資産の組み合わせ次第
・ 運用の基本は国債投資
・ 株式投資ではプロが猿に勝てない
・ 世界経済の成長を把握する
・ 美味しい話に騙されるな!
・ 金融リテラシーを学ぶ

(1) 金融からみた日本の将来

 今日は「金融の基本」をテーマにお話しますが、これに因んで、金融知識の普及のために活動している「北海道金融広報委員会」という組織をご紹介します。会長は北海道知事で、副会長を北海道財務局長、日本銀行の釧路・札幌・函館の各支店長が務めています。中立・公正な立場から皆様の暮らしに直結するような幅広い広報・学習活動をしていますので、関心をもっていただけましたら幸いです。なお、今日のお話はあくまで私の個人的見解ですので、気楽にお聞きください。

 さて、今日は、導入として、我々はどういう時代に生きているか? ということについて、金融から見た世界観を提示します。
 これには2つのポイントがあります。一つは「金融から見た日本の将来」です。
 結論から言うと、日本の将来は「外国に対してのオープン度をどれくらい拡大できるか」にかかっています。かなりの日本人は、将来を悲観的にみる傾向が強いようです。昭和15年に初版が出た有島武郎の「生まれ出る悩み」は、北海道岩内の漁師で画家の木田金次郎さんをモデルにした名作ですが、その中で暗い将来像を語る場面があります。国民性の一つの側面を物語っているのかもしれません。

複利で考えると20年後の格差は絶大

 私も道産子の一人ですが、北海道では一番の楽観派の一人だろうと思っています。ただし、楽観できるかどうかは、日本が成長率を引き上げられるかどうかにかかっています。経済が年率2%で成長する場合と4%で成長する場合について、複利計算で、10年後、20年後を見通すとどうなるかをみてみましょう。個人レベルでのお金の運用についても同じことが言えます。
 年率2%成長では、国民所得は10年後に22%増えていることになります。年率4%成長で48%の増加になります。20年後は、年率2%成長で元本が49%成長しています。年率4%成長ですと、約2.2倍──120%増──になります。

 この違いは、複利の力によるものです。英語でインタレスト(利息)・パワーと言います。20年後の国民所得が、49%増になるか2.2倍になるかの違いは、経済環境や、失業率、自殺率、教育生活環境に大きく依存します。この年率1〜2%の違い、というのは我々の資産運用でも経済成長でも時間軸で見通すと極端な差になってきます。日本の経済成長率を1、2%上げるのは極めて大変なことですが、それを実現するか否かは、一重に日本社会がオープンにできるかどうかによると思います。

国の経済成長は開放度次第

 スペインは今、500年ぶりの経済繁栄を謳歌しています。スペインは、1588年に無敵艦隊がイギリスに破れてから凋落が始まるのですが、それまでのスペインは、「太陽の没することなき帝国」と言われたほどであり、そうした時代が500年間続きました。現在は、500年ぶりの経済繁栄を誇っています。
 スペインは、この10年間で3%の経済成長を続けています。理由は、EUに加盟したからです。ヒト・モノ・カネをEUの単一マーケットに投入したのです。それから国をオープンにして、中南米から国民の1割に相当する移民を受け入れています。もともと、スペインやポルトガルから移り住んでいった人たちの子孫が中南米にいる、という歴史上の背景もあります。
 
 わが北海道もアジアから人口の1割を受け入れた場合は、50万人〜60万人のアジアの方々と共存することになります。北海道のカルチャーも変わるでしょうが、そのようなオープン政策を採れるかどうかがカギになると思います。 

 イギリスの景気拡大も16年目に入っていますが、その成長ぶりもすごいものです。イギリスと日本の国民一人あたりのGDPは逆転しました。今、経済成長率はイギリスの方が日本より上です。この理由もはっきりしていまして、オープン政策の結果です。ビッグバンによってイギリスの伝統的大手金融機関は、ロスチャイルド銀行を除いて、全てを外資に売却してしまいました。今、イギリスはシティを中心に活性化しています。金融業がイギリスのリーディング産業になっています。
 これを日本に引き写すと、大手銀行の殆どが外資になってしまった光景と同じようなものです。
 
 ウインブルドン現象も、わが国では大相撲現象と言い換えることができます。大相撲は日本の国技ではありますが、二人の横綱はモンゴル出身者になっています。わが北海道でも、日本ハムファイターズ現象があります。ご存知のように、日本ハムは四国生まれの企業であり、監督は外国人です。選手も北海道出身者は少ないのではないでしょうか。しかし、北海道経済にとって日本ハムファイターズの効果は大きいと言えます。要はオープン戦略を採る方が将来のプラスになることが多い、ということです。
言葉を変えると、日本が、2回目の開国をするかどうかなのです。

個人のグローバル化と「ホームバイアス」の存在

 わが国の政策がオープンかどうかに関わらず、 我々は世界全体に投資できる時代に入っています。グローバルな扉はわれわれ一人一人に開かれているのです。これは現代の際立った特徴です。そこでホームバイアスという言葉を紹介いたします。自分の国に拘る、ということです。
FRB(連邦準備制度理事会)のグリーンスパン前議長(在任期間:1987〜2006年)が「日本人のホームバイアスは大変強い」と言っています。それは、超低金利でも円でしか預金をしようとしないことを指しているのです。

 もう一つ、「キャピタル・フライト」という言葉を紹介します。これは、日本の超低金利を嫌って、主要先進国の現地通貨建ての債券や海外の投資信託にお金が流れていっていることを表現しています。これが円安に拍車をかけています。
 チューリッヒのホットマネーが為替投機筋の悪玉になったという話が20年前にあったのですが、現在はチューリッヒから東京の主婦に主役が移ったというジョークがNYで受けた、という話が伝わってきています。

 私は北海道出身の作家の池澤夏樹さんが好きなのですが、彼は現在、一時帰国されていまして、札幌で避暑を過ごしておられます。ギリシャ、沖縄、フランスと居住地を変えてきている彼の生き方自体が旅の生涯を送っているように見えます。このような個人が、世界に通じていく回路が現代社会では出来あがっています。









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