HOME > 書評 〜新刊のご紹介〜 > 『逆立ち日本論』(養老孟司+内田樹/新潮選書)
更新日:2007年9月4日(火)
書評 〜新刊のご紹介〜
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風狂の二人 本書の表紙カバーの上に巻かれた「腰巻」と言われる紙片には、著者二人の顔写真と「風狂の二人による経綸問答」とうたわれている。解剖学者の養老氏とフランス現代思想も専門とする武道家(合気道)の達人、内田氏による「高級漫才」(210)は、古希に近くなった養老氏をして「また対談できないかなあ、と思ったりしている」(6)と言わせるだけの面白さを活字に仕立てあげている。 (編集部注:数字は頁。Yは養老・Uは内田) 一方、内田氏は「養老先生は現代日本においてもっとも教化的な仕事を引き受けている『万人にとっての師』だと私は思っている」(255)と、師として認めている。その師の規程は次のようなものだ。――「キミ、キミ、いいこと教えてあげるよ」という人によい師匠がいたためしはありません(220)――と喝破する。なぜなら――「教えたがり」の人は弟子を踏み台にして、高度をかせごうとしているところがある(240)――と経験を裏打ちにした「師論」である。 そこまで世間を分かっている二人が、どんな話で盛り上がっているのか。 そして「風狂」のそもそもの意味は? 辞書は「風雅に徹すること」「風雅の狂うこと」「物狂い」「狂気」という解説が並べるが、このご両人にはどれが当て嵌まるのかは、本書を通読した読者が決めることだが、多分、それらの混合した状態の「風狂」なのだろう。その理由は、頁をめくると万華鏡のように話題が次々に転がり、展開していくことからも言える。 本書の章立ては、次のようなことである。「われわれはおばさんである」「新・日本人とユダヤ人」「日本の裏側」「溶けていく世界」「蒟蒻問答主義」「間違いだらけの日本語論」「全共闘の言い分」「随処に主となる」といった並びである。 最初に二人は、自分たちの立ち位置を「おばさんである」と確認する。男社会のシステムから早々に降りてしまう。そのため自分たちは、「ぼくのほうが日本から外れたのですよ」(115)とか、「養老先生は間違いなく外れています(笑)」(同頁)と揃って日本社会のセンターラインに対して距離をとっている。そうした二人だから見えてくること、言えることが新鮮なものに映ってくる。そのいくつかを紹介したい。 全共闘の記憶から北海道論まで 東大医学部の助手時代に「全共闘」体験をした養老氏と「実際に全共闘というのは、横で見ていたからわかりますけれど、思想運動というわけじゃないんです」(207)という内田氏。 「声が大きかった」運動は、「だいたいが、声を大にして言うことは極端なことに決まっているのですよ」(208・Y)、「声の大きいやつの言うことは信じるな(中略)極端なことって大きな声になじみますからね。だいたい、声の大きさは中身の空疎さと相関するんです」(同頁・U)と漫才は続く。 この漫才を聞く(読む?)気にさせるのは、「私は自分の身体を使う人をすぐに信用する癖がある。身体から発せられた言葉には、それにふさわしい強さがある。そういう言葉を聞きたいと思った」(3・Y)にあるように、頭だけで練り上げた言説と違うものがそこにある。だから、こんな発想もできる。 「そもそも、オレオレ詐欺やら振り込め詐欺が流行らない社会にぼくは住みたくないですよ。だって、いい人だから騙される。騙される人がいるという社会は、いい社会でしょう?」(146・Y)。ナルホド。しかし、この話の少し前に出てくる話は「北海道」についてである。「結局のところ、北海道は東京におんぶに抱っこの状態ですよね。『北海道開発庁』(2001年、国土交通省に統合)の存在なんて、アメリカ対日本のような構造ではないですか? アメリカ対日本が、日本国内にも存在しているように思えます」(145・Y)。 「おんぶに抱っこ」論議は、「神奈川県の国税還元率は二九パーセントでした(中略)秋田にぼくが住んでいたら、百円払えば三百十五円返ってきます。島根では四百円以上返ってきます」(104・Y)という神奈川に住んで、文部省が幅をきかせる東大に勤めていた人の怨み節は、相手に「養老先生、身体が前のめりになっていますよ。力が入っていらっしゃる」(105・U)と言わせているほどだ。 この診立ては、「石原さんや小泉さんは薩長なのです。小泉さんいうところの『抵抗勢力』は旧佐幕派。政治とは繰り返すものです」(107・Y)にも通じていく。 面白本に属する本と思うが、この両者に馴染まない読者もいることだろう。参考までにそうした見方をする人の言葉も紹介しておきたい。 「どうもこの人の文章とはソリが合わない(中略)ひょっとしたらご専門では立派な方なのかもしれないが、こと随筆となると、林望(はやし・のぞむ)さんに共通する嫌味なところがある」(泉幸男氏主宰ブログ・国際派時事コラム・商社マンに技あり!・2007年7月2日)。 「要するに内田は、日本のウヨクに昔から良くいるアジア主義者なのである。白人が嫌いでアメリカが嫌いで、現在の日本が『対米従属状態』にあるのが我慢できず、中国や韓国(それに北朝鮮)とも連帯して、白人をアジアから追い出して『真の平和をアジアに実現しよう』という願望の持ち主なのである。そこから逆算してすべてを導くから論たる論になっていない」(内田氏の『街場の中国論』への書評・塩津計・2007年7月10日) |
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