更新日:2007年9月10日(月)
北海道 食思譚
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はじめに 酵素(こうそ)とは、生体内で起こる消化、吸収やエネルギー代謝など生命維持に不可欠な生体反応を触媒する物質でその主体は蛋白質です。植物や微生物の酵素は古くから麦芽や麹などの形で食品製造に利用されており、われわれの生活に深く関わってきました。 近年、微生物から工業的に大量生産するプロセスが開発され、多くの種類の酵素が市販されており、温和な条件で特定の物質にのみ作用する優れた性質を利用して、食品工業をはじめとする産業用や学術研究など幅広い分野で利用されています。食品製造における酵素の働きは主として炭水化物、蛋白質や脂質の加水分解で、その他、糖の転移や異性化、蛋白質の結着など多岐にわたり、食品の開発、改質や製造工程の改良などのさまざまな目的で利用されています。また、近年、生命科学の急速な発展により酵素の高機能化や新たな用途開発に関する研究も進んでいます。 食品産業における酵素の利用分野 現在、食品産業では多くの分野で酵素が利用されています。その代表的なものは、糖質関連酵素を用いたでんぷんの分解による各種でんぷん糖の製造です。すなわち、液化型、糖化型アミラーゼによる水飴、麦芽糖やぶどう糖などの製造およびイソメラーゼ(異性化酵素)による異性化糖の製造が大きな市場を形成しています。また、最近は特に消費者の健康意識の高まりとともに各種の糖転移酵素による機能性オリゴ糖の開発や商品化が進んでいます。 蛋白質加工分野ではプロテアーゼ(蛋白質分解酵素)の利用により調味料や機能性ペプチドの製造が行われていますが、蛋白質関連酵素の中で近年、注目されるのが、従来の加水分解とは別に蛋白質を架橋し結着する働きを持つ酵素(トランスグルタミナーゼ)で、食感改良や物性改善などの目的で畜肉加工、水産加工や麺類、豆腐製造などの分野で利用が拡大しています。 油脂加工分野ではリパーゼの加水分解作用による油脂の精製や乳フレーバーの製造が行われています。また、エステル交換反応で脂肪酸組成を変換することにより固体脂から液体脂への改質や中鎖脂肪酸などの健康油脂の製造が行われています。 その他、製菓、製パン分野における生地の硬化抑制、果汁・茶などの飲料分野における混濁防止や風味改善、さらには乳製品製造や醸造分野などでも各種の酵素が利用され、市場規模は約150億円と言われています。 一方、北海道においては、食品製造に酵素を利用している事業所は極めて少ないのが現状です。道内における酵素を利用した食品製造の代表例としては、馬鈴薯でんぷんを原料とした果糖ぶどう糖液糖などの異性化糖の製造があげられます。道外では異性化糖はコーンスターチを原料として製造されますが、道内では馬鈴薯でんぷんを原料として製造されており、これにより飲料メーカーをはじめとする道内需要の大半が賄われています。 その他、小規模なものでは、ぶどう果汁製造時の酒石の除去や、おはぎの硬化抑制、チーズ工房におけるチーズ製造、いくら加工品、魚醤油の製造や酒造メーカーにおける原料米の糖化などに酵素が利用されています。また、当センターが関わって商品化されたサケ皮を原料とするマリンコラーゲンパウダーの製造(井原水産(株))や十勝圏地域食品加工技術センターとともに関わった鮭節の製造((株)江戸屋)にも酵素が利用されています。 当センターにおける酵素処理による食材開発の取り組み 最近、当センターで行なった酵素利用による農産原料からの食材開発の取り組みについて紹介します。道産の馬鈴薯や野菜類は生食用で消費されるほか、不可食部を除去し、カットまたはぺースト化した後、冷凍、加熱や乾燥粉末化などの処理を施して、加工や調理用の素材として利用されています。 近年、食に対する消費者ニーズの多様化を背景にこれらの業務用素材に対しても利便性や健康機能などの点で付加価値が求められています。当センターでは、近年、馬鈴薯、カボチャやタマネギなどを対象に酵素処理により付加価値の高い食材開発に関する研究を行ってきました。 馬鈴薯については、加熱、圧潰した後、でんぷん分解酵素と糖転移酵素を作用させ、でんぷんを部分的に分解するとともに糖転移を行い、新たな食品素材を開発しました。酵素処理により糖度や流動性が増し、利用性が高まるとともにイソマルトオリゴ糖が生成し、腸内ビフィズス菌の増殖効果や虫歯予防などの機能性が付加されました。本素材の製法については「ポテトペーストの製法」として特許を取得しました。 本技術の開発により馬鈴薯の欠点であった冷却時の硬化や食感悪化が軽減され、これまであまり利用されてこなかった菓子原料への利用が進み、「北あかりのジャム」((有)夢蔵)や「ポテトのポトフ」((株)壺屋総本店)が商品化されました。 また、本素材(ポテトペースト)は、その特性を生かして、コロッケやスープなど既存の馬鈴薯加工品の高品質化やパン、麺類などの小麦加工品への利用、さらには今後、市場拡大が予想される高齢者食品への利用が期待されます。 タマネギについては規格外品や圃場廃棄品の有効活用を図るため、酵素処理によりタマネギエキスを高収率で製造する技術を開発しました。また、エキス中のフラクトオリゴ糖を富化する技術やタマネギ特有の風味(辛み)の改善法を開発しました。タマネギエキスの用途開発に向けて、タマネギチップス、タマネギゼリーなどを試作し商品化を提案しています。 また、業務用食材として需要が多いカボチャを用いて酵素処理により単細胞化し、食感が良く、耐熱性、分散安定性などの利用特性に優れたペースト状食材を開発しました。その他、酵素処理によりニンジンペーストやアスパラペーストを試作し情報提供を行っています。 おわりに 道内の食品加工業は小規模事業所が中心で、酵素利用に関心はあるものの、酵素の働きや性質に関する知識不足や技術者の養成、設備が不十分なことなどから直ちに導入できる状況にはありません。また、市販酵素剤は販売単位(量目)が大きく、テスト製造や小ロット製造に対応できる小分け販売が一般化していないことや流通経路、流通量により末端価格が変動することなど流通面での障害が多いのが現状です。 そのため、中小事業者が新規に酵素利用を行うにあたっては、公的支援機関や資材・設備などの関連業者によるサポートが必要と思われます。酵素利用は、新たな食品開発、既存食品の高品質化や加工副産物の処理、活用など道内企業においても有望な分野は広く、今後、多くの企業で有効に利用され、企業収益の向上や道産食材の利用拡大につながることが期待されます。 参考資料 (1) 「食品工業と酵素」 一島英治編 朝倉書店 (2) 「食品産業での酵素の利用動向」, 食品と開発37巻 , No2 (3) 「食品産業での酵素の利用動向」, 食品と開発41巻 , No2 (4) 「食品産業での酵素の利用動向」, 食品と開発42巻 , No2 槇 賢治 札幌市出身 1980年 北海道大学大学院農学研究科修了 同年北海道入庁 1985年 道立中央農業試験場 1992年 道立食品加工研究センター 1999年 同加工食品部農産食品科長 2003年 同食品バイオ部主任研究員 2007年 同企画調整部主任研究員 現在に至る |
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