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更新日:2007年8月20日(月)
書評 〜新刊のご紹介〜

『中国を知る』(遊川和郎著/日経文庫/860円+税)

偏向なき中国を捉える



 
21世紀のアジアを知る必読書

 文庫といいながらサイズは新書である本書、まことに知のバランス栄養剤というのに相応しい。昔風の右でも左でもなく、中国で事業展開する「日系企業には地雷が何層にも存在しています」(162頁)と指摘するリアリストのバランス感覚に基づく書き下ろしは、読み応えと読みやすさが同居する。ただし、さらに藤沢周平の「隠し剣 鬼の爪」の如く、安直な中国解説書を仕留める秘剣の凄みもある。

 筆者は日本の読者に役立つように、そして理解されやすいように、多くの項目に日本との比較、時代考証を加えて、今の中国を可能な限り、原寸で語ろうとする。中国理解の仕立て服は、成長の著しい中国にあってまたたくまに寸法が合わなくなってしまうらしい。だから本書は2007年版ということになる。
 中国で働く日本人が、2005年には海外勤務者で米国を抜いた話、香港を除いた中国本土では5年前に比べて4倍の増加、ということが知らされる。その急成長は、危うさをともなうものになる。何しろ、中国の変化の激しさ、地域による風俗習慣の違い・発展度合いの差、現実と建前の差、そして体制としての情報コントロールの強さは、日本で想像する以上のものなのだ。

 これらを1978年から中国ウオッチを始め、通算10年を北京・上海・香港で過ごした筆者ならでは考察がある。人物・事項索引が巻末にあれば、極上文庫になったのにと、唯一の注文である。
 さて、どれほど今の中国を知るのに適しているか、具体例を要約していくつか掲載する。
・言ってみれば江戸時代の出島と同じ→80年代の「経済特区」の説明(27頁)
・日本の長期信用銀行がバブル期に不動産融資を拡大した構図→広東国際信託投資公司の破綻(35頁)
・日本ではスーパーからコンビニ普及まで約20年→上海では5年という道程のショートカット(49頁)
・中産階級の誕生→家や車を入手した層が、99年の約15%が20年後に約38%へ(59頁)→住宅ローンを組む庶民は右肩上がりの未来を信じる保守勢力
・民はあくまで統治される側であり、それが一つの伝統的な社会システム(84頁)


中国を見る立ち位置

 このように事実を列挙するだけでも面白いが、中国の政策の大きな潮流を見るための立ち位置を同書から学びたい。
 1989年の「天安門事件」は、テレビで全世界に知らされた衝撃的な事件だったが、その伏線になっていたものが、1989年代後半の統制価格から市場価格への移行によるインフレと役人による物資の不正転売などもあることを教えられると、その後の中国の動き、政策も理解が進む。現在の中国の「がぶ飲み」と表現される世界にある資源、鉄などの原材料購入活動の必然性も見えてくる。とにかく、経済成長をし続けるための資源を確保しておくという国の意志が明確なのだ。

「全就業者の半数近い農民が八分の一の富しか作り出さず、残りの半数強の第二次・第三次産業就業者が九割近い富を生み」(102頁)社会である限り格差は埋まらない。この調整は日本でもかつてあった農民の都市への出稼ぎである。
 筆者は、中国におおむね同情的である。「現行の成長スタイルを続ける限り、こうした矛盾がさらに激化していくことは避けられません(中略)これまでとは異なる未知の成長エンジンに転換するという難工程を処理していかなければなりません」(104頁)と言う。
これは目を転じれば日本にも、北海道にも当て嵌まる。村でも国でも新時代をひり拓く際に求められる設計図と、それを推進する統治者の有無は、我が身を振り返ることになる一瞬である。

 そして、中国のしたたかさを感じさせるのは「経済活動の根幹となる為替レートを自分でコントロールできない状態にしてしまった日本は反面教師で『主導権は手放さない』というのが基本的な考え方」(108頁)をもつところにある。「英明」、「精明」、「聡明」(168頁)の違いである。詳しくは同書で。因みに日本人は「小聡明」らしい。
「日本とドイツ」が世界経済のエンジンと言われた時代から「中国とインド」のその役回りが移ったことを認めるのかどうか、自虐派でなくても客観的な世界の視線は感じていた方がいいに違いないが、本書は私たちに気づかせてくれるものが少なくない。

 冷静に中国を研究しつづける筆者が道内に踏みとどまっていることも、北海道の資産である。資産は運用するべきである。社会主義と資本主義と奴隷制の1国3制度という皮肉も中国に投げかけられることもあるが、「『本当のことを知りたい人』よりも『それを知られては困る人』の方が知恵とエネルギーで勝るのが現実です」(127頁)という人間観察力を持つ学者に注目し続けたい。

(遊川和郎著/日経文庫1131/07年3月刊/860円+税)







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