更新日:2007年9月6日(木)
ぶらりしゃらり
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| もうずいぶん昔のこと、8月6日、ゲンバクの日のあとの広島で、作家、大江健三郎さんと酒を飲んだことがある。 小料理屋でしたたかにやって、ホテルに戻ってまたしっかりやったために、ぼくはほとんどグロッキー状態だったのに、作家はシャンとしていたような、怪しい記憶がある。 それから幾星霜、大江さんはノーベル賞作家となった。せんだって、「作家生活50年を語り尽くした、対話による自伝」とオビに銘うった、『大江健三郎 作家自身を語る』(新潮社)という、すぐれた本を読んだ。聞き手で、構成者である尾崎真理子さん(読売新聞社)の、繊細きわまりない力業にもすっかり感心した。 そのおしまいのところに、「大江健三郎、106の質問に立ち向かう」という章があって、興味深かった。「ごく普通の一日の過ごし方」については、あらまし次のような返事だった。 朝、6時〜7時に起きて水を飲んで仕事を始め、午後2時くらいまでやる。朝・昼食一緒にして、たまっている郵便物を片付け、本を読み始める。7時〜8時ころ光と食事をして、その後、本を読み続けるか仕事をするかし、10時〜11時ころ酒を飲んで、光が起きてトイレに行ったあとのベッドを整えてから寝ます。昼間、客があることはたまにあります。 なるほどなあ、ずいぶんと勤勉なのだなあと感動した。もちろん原稿を書くのは万年筆だし、パソコンなどの入り込む余地もヒマもありはしない。 フショウこのぼくは、起床時間と水を飲むところまでは同じだけれど、そこからあとは怠け者そのもの。きわめて愚鈍な一日を過ごしてしまうのだ。 さて深夜の酒は、ウイスキーの普通のタンブラーにアイリッシュ・シングル・モルトの良いものを一杯チェイサーにして、ヱビス・ビールの350ミリリットルを4種、時間をかけて飲む、という返事だった。 これまた、なるほどだ。作家のキビにふしていうわけではないが、アイリッシュ・シングル・モルトというのがいい。それは多分、「ブッシュミルズ」だろうか。 わが座右の書である『モルトウイスキー大全』(土屋守著、小学館)によれば、ブッシュミルズ蒸留所は北アイルランドにあって、1608年、国王ジェームズT世から蒸留免許をもらった、世界最古の蒸留所だ。 ウイスキーといえば質、量ともにスコッチということになっているが、歴史的にはアイリッシュ・ウイスキーの方が元祖なのだ。 スコットランドでは「Whisky」と書くが、アイルランドでは「Whiskey」と書くのは、そんな誇りの発露かもしれない。濃い黄金色に濃厚な香りは、うーむ、深夜のチェイサーにピッタリである。 素敵な本の話がいつの間にか酒の話になってしまって恐縮だけれど、スコッチのシングル・モルトについて一度弁じておくなら、ぼくは「ローズバンク」というのが好みだ。文字通り「野ばらの堤」というわけだ。 酔ってはあちこちにわめき散らしてきたことだけれど、わが与謝蕪村の名句、「愁ひつつ丘にのぼれば花いばら」こそ、まさにそれじゃないか。 |
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