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更新日:2007年8月20日(月)
特集

『世界潮流と10の選択ポイント』(寺島実郎〜2)



3.サッチャー革命を後追いする日本

イギリスから何を学ぶか?

 なぜ? 素朴な疑問です。近代経済学を大学で勉強した人だったら、モノの価格は需要曲線と供給曲線の接点で決まる話を聞いていると思いますが、そんな話を嘲笑うかのように価格形成のメカニズムが変わったのです。つまり、需要と供給なんて関係ないのです。

 この10数年、デリバティブは珍しくなくなりましたが、金融派生型商品と称してコンピュータの中を短期の資金が駆け巡る、つまりマネーゲームとしての性格が石油に一番強く出るようになったのです。ホットマネー化が我々を取り囲んでいます。
 今、ロンドンの金融市場では、ロシアのオイルマネーが流入している話ばかりが耳に入ります。そのためイギリスでは、産業の実力以上に国際収支が黒字化しています。連動して通貨が極端に強くなっています。現在1ポンドは250円、というようなことになっていて、ホテルが1泊10万円というのも珍しくない状態です。

 では、サッチャー革命から25年が経ってイギリスはどうなっているのか。海外からお金を取り入れて、経済を元気に回復させた、というわけですが、実態はどうなっているのか。イギリスの主力電力12があります。25年が経って6つがドイツの資本傘下に入って、3つはアメリカの資本傘下に、2つはフランスの資本傘下に入ってしまった。ユニオンジャックのままの会社は1社になってしまったのです。もっと凄いのは、自動車産業です。ジャガーをはじめ、ロールスロイスまで、全てのイギリスのブランドが、アメリカとドイツの傘下に入っていったのです。

国の産業構造が変わる

 それでも経済が活性化されるなら改革開放の路線を支持したい、という人が半分くらいいても不思議ではありません。しかし、基幹産業といわれた電力、虎の子産業といわれた自動車産業まではそうなっていいのかな? という人もいるでしょう。金融と不動産だけで食べていく産業国家というのは、どうなのだろう。

 過去3年間、イギリスの産業別の成長を調査したものを見ますと、金融と不動産が年7%で伸びています。しかし、製造業は年にマイナス0.4%で縮んでいっています。ものを作る経済が縮小し、お金が流れ込むことで潤う産業だけが肥大化している姿からは、奇妙な産業構造の国になってきていることを示しています。
 イギリス経済について議論することは、日本にとって他人事ではありません。欧州で議論すると、「日本は20年遅れのサッチャー革命ですな」とからかわれます。

 日本はサッチャー革命の後を継いで、改革開放路線、つまり構造改革を歩んできているのですが、サッチャー革命がその後、どうなったのか、というのは日本にとって極めて参考になります。改革開放に成功して15年にわたって経済成長をしてきたイギリス経済に対して2重丸の評価をするのが、欧州を研究する人たちの一般的な見方です。



4.経済成長力と産業力は別

ドイツの底力

 一方、ドイツはどうでしょうか?
 ドイツ病などと言われて、ゼロ成長、マイナス成長が続いていてバツ印を押されていたのです。社会民主党の陰を引きずっていて経済が息苦しくて、資本は海外に流出して、ドイツ産業はバツ印という多くのエコノミストの表層的な評価でした。
 今、わが(株)三井物産戦略研究所では、技術に関する調査でロンドンとデュッセルドルフにスタッフを張り付かせています。送られてくる情報を見ていますと、イギリスからは成る程、成熟した消費社会らしい技術の開発に感心することがあります。生活関連型の新しいビジネスモデルに時々出会います。しかし、唸るほどの先端の産業技術はドイツの会社が開発を行っています。それは、ITでも、ナノでも、省エネでも、環境でもです。

 経済の成長力と産業力とは違うことだということに気付きたいと思います。ただただ、経済の成長だけを目的に外資を取り込んでいくという産業観は、歪んでいるように思うのです。



5.中東ドバイと上海を結ぶ“円”

ホットマネーが世界を駆け巡る

 中東のドバイという国に800mという世界一の超高層ビルが建設中という話は前回もしましたが、先週はその建設も7割が完成したという写真付きの情報が入ってきました。
 その隣に900mのビルも建てられることになっているそうです。そのドバイ国際空港から直行便として一日2便が関西国際空港、中部国際空港へそれぞれに運行されています。

 中東のオイルマネーが、石油増産に向かわずに建設ラッシュのマネーゲームの財源となって世界を駆け巡っているのです。それが上海の株式市場に入ったりしています。上海株式市場について、朱鎔基(1993−2003:首相)が言っています。「中国がバブル期だということが問題なのではない。バブルがいつ弾けるかだ」と堂々のインタビューに応じて発言をしているのです。

ジャパン・ファクターが言われ始めた

 と、ここまでは「ホットマネーの源泉は、ロシアと中東のオイルマネーですね」という言わば他人事のような話ですが、私が先週まで米国東海岸の金融関係の方々と話をしているとこぞって「ジャパン・ファクター」ということを言い出しています。日本が世界のホットマネーの源泉になりかけてきているという話が飛び交いはじめています。いわゆる円キャリーの問題です。

 日銀の低金利政策が公定歩合ゼロ金利を止めて0.5まで引き上げましたが、アメリカは昨年6月までに5.25%までに上げています。日本は、米国にくらべて10分の1のレベルです。今、ここで円を今の金利で資金調達できる能力のある人なら、これを海外に持ち出せば、よほどのヘマをしないがきり、利鞘を3〜4%抜く程度のことはできるわけです。為替のリスクはあるにしても、長期低利金利が為替を円安に向かわせています。

 日本の円キャリーは、世界の爆弾と発言されるほど、深刻な問題になってきています。少なくとも20兆円から30兆円が、さらに広い意味で持ち出されている円は1兆ドルと推定されています。マネーゲーム化も、日本のせいだと言われ始めているのです。
 では、なぜ、日本は金利を上げれないのか?





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